「親が精神疾患。でも病識ない」家族はどうアプローチしてる?病識は育てるべき?

2019.11.17公開 2020.06.05更新

病識がない家族に受診してもらうには?

近藤
ミルコさんのお父さまと、くまのさんのお母さまが病識「なし」ですよね。

 

気になるのは、病識がないのに、病院には行ってくれるんだ!ということなんですよ。自分は病気だと思っていないのに病院に行くって、どうしてなんですかね?

ミルコさん
うつ状態のときは、自分でもおかしいと思うのか受診してくれるんです。消化機能が下がったりもするので、体に不調も出るんですよね。

 

双極性障害の治療に行くというより、「今つらいから、受診して治してもらおう」と思っている感じ。ご飯が食べられなかったり、眠れなかったりするから。

林田さん
お父さまの気持ち、わかります…。つらいときは病院に助けてもらいたくなる。
ミルコさん
病院に行きたがらないのは、躁状態のときです。「もう元気になったのに、どうして病院に行かなきゃいけないんだ?」と思ってしまうみたいで。
近藤
うつ状態から抜け出す=病気が治ったと思っているんですね。

 

でも、受診してくれるときは精神科に行くんですよね?「なんで精神科なんだ!」と言われたりしないですか?

ミルコさん
いや、それは大丈夫なんです。「眠れていないのは、心療内科や精神科の管轄」と本人も思っているみたいです。
林田さん
あくまでも、睡眠障害や食欲不振に関しての治療をしている、という感覚なんですね。
ミルコさん
双極性障害の治療をしている、とは、なかなかならないですね…。
林田さん
くまのさんのお母さまは病識が「ない」ですが、どうやって受診してもらってるんですか?
くまの
一番最初に病院に行ったときは、わたしが朝起きたら、すでに緊急入院した後だったので…。本人の意志で受診したわけではないんです。

 

その後も、病院に進んで行くことはあまりないですね。周りが「そろそろ診療だから病院行こう?」と促して、行ってもらう感じ。

 

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林田さん
あ、でも、言えば行ってくれるんですね!
ミルコさん
ご本人は病院に行く必要がないと思っていても、家族が言うと行ってくれるんですか?
くまの
母の場合はいつもそうです。娘から言われるから、しぶしぶ行くという感じ。
ミルコさん
親子の信頼関係があるからこそ、成立するのかもしれないですね。
くまの
そうかもしれないです。症状が強いときは被害妄想も強まるので、私か姉としかまともに会話をしてくれないときも多々あって。

 

私たちにも不信感が出てしまえば、言っても聞いてくれなくなるだろうな~と心配な気持ちはあります。そこは、母の愛を信じるしかないですね。

 

病識がないことで困ったことはある?

林田さん
ご家族に病識がないことで、なにか困ったことはありますか?
ミルコさん
父は、躁状態のときを自分の正常だと思っているんです。「これが本来の自分だ!」って。

 

躁状態で受診したときに、母が「最近上がっていて」と言ったことに、「上がってるって言うな!」と怒ってしまったらしくて…。

林田さん
躁状態のときが、ベストな自分なのにってことですか?
ミルコさん
そうなんです。うつ状態から抜けて、やっと元気になったのに、その状態をみんなから「おかしい」と思われることが腹が立つみたいで。
林田さん
お父さまの怒りに、どうやって対応してるんですか…?
ミルコさん
父の前では、「上がってる」「波がある」などの言葉を使わないようにはしてます。病院の先生も気を使ってくれて、「最近眠れていないようですね」と言葉を選んでくれるようになりました。
林田さん
言葉の選び方にも、気を使っているんですね。
ミルコさん
あと、本当にショックだったのが…。

 

双極性障害という診断名は、数年前に父も聞いているのに、昨年だったかの診察中に「先生!それで、自分は結局なんの病気なんですか?」と聞いたらしいんですよ。

林田さん
それは、サポートしているご家族側からすると複雑な気持ちかも…。
ミルコさん
そこからなんだ!?と、ちょっと呆然としました。まだその段階なんだ!って。

 

病識がなくても治療をすることはできるけど、病識があれば治療にも積極的になるのかなと思います。

 

早めに寝るとか、体を動かすとか、周りが促しきれない部分はやっぱりあるから。

林田さん
そうですよね、無理矢理寝かせたり、運動させたりは厳しいですもんね…。
ミルコさん
こちらがよかれと思って言っていることも、邪険にされてしまうこともあるので…。家族側としては、つい「治療のために言ってるのに!」とイライラしてしまうことはありますね。
林田さん
邪険にされることもあるんですか?
ミルコさん
ありますあります!

 

「早く寝たほうがいいんじゃない?」って気を使って言ったことで、「うるさいなぁ」って顔をされたりとか。それが、もっと大きな言い合いになってしまうこともありましたね。

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林田さん
相手のためを思って言っていることを拒否されるのは、サポートしている側からするとやるせないですね…。

 

くまのさんは、お母さまに病識がないことで困ったことはありますか?

くまの
単純に、薬を飲まなくなってしまったことかなぁ…。飲む必要がないと思っているのか、勝手にやめちゃうんですよね。それで症状が悪化して→入院するを何回も繰り返しました。
林田さん
それ、どうやって対処したんですか?
くまの
錠剤の薬では、同じことを繰り返すだけでした。今安定しているのは、薬を注射に変えたからです。毎日飲まなくてはいけなかったものが、月に1回の注射でよくなったので。

 

錠剤だったら、たぶんまた飲まなくなってしまうと思います。

林田さん
物理的に、薬の種類を変えたんですね。
くまの
そうです。

 

あとは、診察に積極的になってくれないことは困るかも…。病院の先生にも「大丈夫です、別に変わりないです」しか言わなくて、診察にならないことも多々あったんですよ。

林田さん
病識がないことで、診察をちゃんと受けてくれないということですか?
くまの
私は、そうじゃないかなぁと思うんですよね。「病気じゃないんだから、病院に来る必要なんてないんだよ」と、母本人に言われたこともあったので…。

 

実のある診察になりにくいというのは、困ったなぁって感じですね。

 

病識がない家族への接し方はどうしてる?

林田さん
病識がないご家族への接し方で、この方法はよかったなと感じたものはありますか?
ミルコさん
効果があったのは、理詰めにしない、ということですね。
林田さん
理詰めにしない…。
ミルコさん
感情に訴えるんです。理詰めで「こうしないと治らないんだから、こうしてよ!」と言っても、成功したことってないんですよ。

 

そうじゃなくて、「そういうことされると私が悲しいから、やめてほしい」と伝えるんです。

林田さん
おぉ!お父さまの反応はどうですか?
ミルコさん
理詰めで話すより、ずっと聞いてくれます。「おぉ…わかった」って(笑)
林田さん
親心をくすぐってますね…!
ミルコさん
そうですね(笑)

 

「あなたのためを思って言ってるの!」より、「私のためにやって♡」と言うほうが、父には効くのかも。最近習得した技です。笑

くまの
おぉ~~。うまい。
林田さん
アプローチの方法が上手ですね!

 

くまのさんは、お母さまが錠剤を飲まなくなってしまったとき、どうやって接してました?

くまの
私も、理詰めはしてなかったです。というより、私に病気の知識がないので言えないんですよね。

 

「薬飲んでないらしいじゃん?飲もうよ~」くらいです。

林田さん
えっ!それだけですか?
くまの
うん、それだけ…。会いに行って、「飲んでないって~?飲もうね~」くらい。
ミルコさん
たぶん、会いに来てくれることが嬉しいから、それだけでも通じるものがあるんじゃないかな?

 

最近、言葉だけで相手を変えるのって、そもそも無理なんじゃないかと思ってて。私も、誰かの言葉だけで、自分の行動を変えるのってあまりないので…。

林田さん
確かに…。くまのさんのお母さまが、その言葉だけでまた薬を飲んでくれるのも、娘が会いに来てくれて嬉しいから、というのもありそうですよね。
ミルコさん
そう思います。なにを言われたからではなくて、かわいい娘からお願いされたから、なんじゃないかな。
くまの
確かに、私が他人だったら絶対聞いてくれないかも。

 

そもそも、自分が母の考えを変えようとは思っていないんです。昔は、母の被害妄想に対して「気にしすぎだよ、そんなわけないじゃん!」と否定してしまったこともあって。

林田さん
お母さまの反応はどうでした?
くまの
いやぁ、めちゃくちゃムスッとしてました…(笑)その反応で、このアプローチは駄目なんだ!と思ったんですよね。

 

薬を飲まないことに関しても、「駄目じゃん!」と言うことはないです。否定はしないけど、飲んでほしいから飲んでね~って感じ。

林田さん
なるほど…。理詰めにしないで、自分の気持ちを伝えるほうが、お互いのためにもいいかもしれないですね。

 

病識は必要?病識を持ってほしいと家族は思ってる?

林田さん
ご家族に病気だと認識してもらうために、今でもなにかしてますか?
ミルコさん
昔は、自分が病気だと分かってもらおうと奮闘したこともあったんです。でも、最近は、考え方が変わってきました。
林田さん
それは、どんな風に?
ミルコさん
「自分を病気だと認めて、やるべきことをする」。それができないことが″病気″なんだと思うようになったんです。

 

病気の治療を積極的にすることも、病気だからできない。それに対して、「できないじゃん!」と言うのは、そもそもナンセンスかなって。

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林田さん
その考えになる前は、「あなたは病気なんだよ!」と言うこともあったんですか?
ミルコさん
ありましたね。言いまくってました。どの本を読んでも、「病気を受け入れることが大切」って書いてあるんですもん。

 

でも、結局うまくいかなくて。これだけ言ってもいい方向に進まないなら、無理に押し付けるのではなくて、今つらいことを取り除いてあげることを大切にしたほうがいいんじゃないかなって。最近はそう思うようになりました。

林田さん
病識を持ってもらうこと自体を、今はしていないんですね。
ミルコさん
そうです。サポートしている人が周りにいて、本人が少しずつよくなっているなら、必ずしも病識があることを望まなくてもいいのかなと思います。

 

家族の負担は、もちろんあるんですけど。

林田さん
くまのさんは、お母さまに病識を持ってもらおうとしてますか?
くまの
いや、なにもしてないです。病識を持ってもらおう!とも、今は思ってないですね。

 

もちろん、本人的にも病識があったほうが治療が進むと思うし、周りのサポートも楽になると思うんです。

 

でも、無理に病識を持たせようとして、お互いに苦しくなってしまうのは本末転倒な気がして。

林田さん
確かに、どちらも苦しくなってしまうのは避けたいですよね…。
くまの
病識がなくても、こっちは「あらあらあら~」って流しているほうが楽だし、本人も四六時中「あなたは病気なんだよ!」と言われても嫌だと思うので…。

 

お互いにストレスがない方法を選んだ結果、病識がなくても生活ができていればいい、に考え方が変わったんです。

林田さん
病識って、絶対に必要なものではないんですかね?
くまの
「病識を育てる生活」のほうがストレスが少ないなら、そっちを選べばいいと思います。うちの場合は、「病識を育てない生活」のほうがストレスが少ないから、そっちを選んだだけ。

 

どちらが合っているかは各家庭によって違うと思うので、合っているほうを選べばいいんじゃないかなぁ。

ミルコさん
″病識を持つ″って、″病気を受け入れる″ことだと思うんです。なんのために病気を受け入れるのかというと、”円滑に治療を進める”ことですよね。

 

でも、病人である前に、その人はひとりの人間だから。

 

病気を治すことばかり考えずに、その人が自分らしく生きるために、周りはなにができるかなと考えたほうがいいと思っています。

くまの
うんうん。病識を持ってもらうことが、ゴールじゃないですよね。
ミルコさん
そうなんですよね。病識がなくても、少しでも幸せを感じて生活を送ってくれるなら、それが家族の願うところです。
林田さん
病識を持ってもらおう!と、躍起になってしまうのはお互いつらそうですもんね…。
近藤
今まで話を聞いていて、病識の有無ももちろん大切なんでしょうけど、周囲との関係も同じくらい大切なんだなと思いました。

 

ご本人に病識があっても、周囲との関係性がないと、治療も進まないような…。

くまの
誰のサポートも受けられない状況だと、自分が病気だとわかっていても、治療を進めるのは大変ですよね。頼れる人がいるか、いないかは、治療に大きく関わってくると思います。
近藤
病識がないことを、周囲のサポートがカバーしてくれることもありそうですよね。

 

いやぁ、今回も詳しくお話しいただいてありがとうございました!

林田さん
ご家族側の考えを詳しくお聞きできてよかったですー!ありがとうございました!

病識があることで、治療がスムーズに進むのは、きっとその通りなんだろうなと感じます。ただ、「病識を育てる」ことにフォーカスを当てすぎて、お互いが苦しくなってしまうことは避けたいなとも、今回の座談会で強く思いました。

 

「病人である前に、その人はひとりの人間」のミルコさんの言葉を忘れずに、どの立場でもストレスが少ない選択肢を、″家庭ごと″に選んでいくことが大切なのではないでしょうか。

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くまのなな

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  • 本コンテンツは、特定の治療法や投稿者の見解を推奨したり、完全性、正確性、有効性、合目的性等について保証するものではなく、その内容から発生するあらゆる問題についても責任を負うものではありません。
  • 本記事は2019年11月17日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。