過重労働の定義やすぐ対策すべきこととは?臨床心理士が解説

2017.02.23公開 2017.03.21更新
 
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2016年、大手広告代理店に勤めている女性社員が、自ら命を絶つという悲しい事件が起こりました。

 

その背景にはパワハラや長時間労働があります。この事件は厚生労働省も動き、会社も様々な調査を受け入れることになりました。

 

会社は労働者を守るという使命を持っています。このような悲しい事件を再び起こさないためにも、今回は過重労働や過労死とその対策について解説します。

 

 

過重労働の定義とは?

皆さんは、「過重労働」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。簡潔な言葉で言うならば「働きすぎ」のことです。

 

以前、新聞で過労死という言葉が海外で「karoshi」として紹介されたという記事を見ました。外国には「過労死」という概念は存在しないので、日本語がそのまま英語になったのです。

 

本来、人間は生活するために働くのですから、働きすぎて死んでしまうというのは異常です。

 

当たり前のことではありますが、過労死に関しては、過重労働が密接にかかわっています。

 

厚生労働省も、当たり前のように使う「過重労働」という言葉ですが、「何時間以上働いたら過重労働」といった定義の仕方はありません。

 

難しい言い回しなので「働きすぎ」と言い換えてもほとんど支障はありません。

 

厚生労働省の出している「過重労働による健康被害を防ぐために」の中では、80時間を超えると健康被害のリスクが高いと書かれています。

 

そのため、月の残業時間が80時間以上になっていれば、「過重労働」と言えるでしょう。

 

 

過労死ラインと過重労働面接

大手広告代理店の自殺問題の時も、盛んにメディアで「過労死ライン」という言葉が用いられていました。

 

先ほども述べたように、厚生労働省の出している「過重労働による健康被害を防ぐために」の中では、月の残業時間が80時間を超えると健康被害のリスクが高まるとされています。

 

また、100時間を超えると、さらに健康被害のリスクが高まります。そのため、月100時間を超えて残業している労働者は申し出をすれば、産業医との面接を行うことが出来ます。

 

つまり、会社は月100時間を超えて残業している労働者から申請があれば産業医との面接を設定しなければなりません。

 

この制度を根拠に、月100時間を過労死ラインと報道しているメディアもあります。

 

一方で、月80時間を超えて残業している労働者に対しての産業医の面接は努力義務です。この努力義務を根拠に月80時間を過労死ラインと報道しているメディアもあります。

 

色々見ていると、月80時間を「過労死ライン」としていることが多いようですね。

 

どちらにせよ、過労死ラインで働いている労働者は、産業医との面接を受ける権利があるということです。この産業医との面接を「過重労働面接」と呼んだりすることがあります。

 

 

精神障害での労災認定要件

会社にとって、労災認定については気になるところですね。精神疾患での労災認定については、厚生労働省が詳しく言及しています。

 

その要件は大きく分けて3つです。

 

1.認定基準の対象となる精神障害を発病している

2.発病前概ね6か月に業務による強い心理的負荷があった

3.業務以外の心理的負荷、固体側要因により発病したとは認められない

 

以上3点を満たす場合、精神疾患で労災が認められます。

 

いくつか注意するポイントもあります。

 

認定基準の対象となる精神障害を発病している

ICDという診断基準を用いています。その中の「精神および行動の障害」という章に入る精神障害の大部分が認定基準の対象となる精神障害です。

 

知っている精神障害の名前を挙げていただければ、多くは認定対象になります。しかし、注意しなければならないのは「アルコールや薬物による障害」は含まれないことです。

 

産業分野でよく見かけるものの一つにアルコール依存症がありますが、これは認定基準の対象となる精神疾患ではありません。

 

明らかに、職場でのストレスで依存症になっていると感じても、原則的に労災の認定基準から外れます。認知症なども認定基準の対象からは外れます。

 

若年性認知症の場合、早ければ50代からの発症も十分ありえます。しかし、労災認定はされないので注意してください。

 

発病前概ね6か月に業務による強い心理的負荷があった

「何が業務による強い心理的負荷なのか」を測る尺度を概ね6か月にさかのぼって実施します。尺度は「業務による心理的負荷評価表」を用います。

 

この判定が「強」と出た場合に2の基準を満たします。2の基準で注意したいことは、業務による心理的負荷表にある「特別な出来事」に該当する項目があると、他の項目にかかわらず「強」と判定されます。

 

特別な出来事は、生死にかかわる事柄などと同時に「極度の長時間労働」が挙げられています。つまり、概ね6か月の間に異常な過重労働があると2の項目は満たすことになります。

 

業務以外の心理的負荷や固体側要因により発病したとは認められないこと

これは、該当の精神障害が、業務以外の負荷か固体的要因(その人の性質によるもの)なのかをはっきりさせなければならないということです。

 

その手段は複雑で、紋切り型に判別することが出来ないのが現状です。生活状況や遺伝負因などを鑑みて総合的に判断します。

 

近年、精神障害による労災認定の件数は増えてきました。自分の会社はどうなのか振り返ってみるのも、過重労働を防ぐ一因になるはずです。

 

 

過重労働に対するアプローチ

「ある部署では、慢性的に忙しく、常に人員不足の状態でした。その部署のある社員が休職することになりました。

 

その人が抜けた穴を埋めるために、他の社員は以前にも増して残業をするようになりました…」

 

 

このような部署を考えてみると、休職した人が戻ったところでまた同じような状況に陥ることでしょう。それどころか新たな休職者が生まれてもおかしくありません。

 

このケースの場合、休職者のケアをするとともに、このような休職者を量産するような「システム」にアプローチしていかなければなりません。

 

治療的・予防的観点から会社の構造にアプローチすることをシステムズアプローチと言います。

 

個人に対する治療的アプローチは、医師や心理職といった専門家が行うことが多いですが、会社の構造にメスを入れる産業分野のシステムズアプローチは、まさに会社にいる人が本領発揮できる領域です。

 

あるEAPコンサルタントと話をしていた時に、「企業は利益を生み出して労働者を守るのだから、単純に人を増やせばよいということではない。そこに難しさがある」という話を聞きました。

 

外部の人間は単純に「人を増やせばいいじゃないか」「仕事を少なくすればいいじゃないか」と単純に考えがちですが、現実問題はなかなかうまくいかないということでした。

 

例えば、部署が専門的なところならば、適任の人間がいなかったりします。営業部門でも、その人だけが持っているお客さんというのがいるでしょう。

 

その観点を踏まえると、社員の教育のあり方や業務の割り振りなど、その部署にとどまらないシステムズアプローチが必要になるでしょう。

 

 

個々人の特徴を理解することから

自らの信念のもと、仕事をし続けてしまう人もいます。これは、メランコリー親和型性格傾向といって、うつ病と深いかかわりがある性格傾向があります。

 

この性格傾向の人々は、自分の中に強い信念を持ち「~しなければならない」というルールをたくさん持っています。

 

例えば「必ず期限通りに仕事をする」、「頼まれた仕事は断ってはならない」といったものです。このような信念を持っている人ならば、過重労働になってくるのは必然でしょう。

 

良い言い方をすれば責任感が強いとも言えますが、悪い言い方をすれば休み方が下手とも言えます。

 

仕事に対するコントロールを失ってしまっている状態ですので、周りの人が働き方のペースを握ってあげる必要があります。

 

明らかに過度な仕事を抱えないように仕事の量を調整したり、帰りに一緒に帰るようにしたりすると、業務時間をコントロールすることが出来るでしょう。

 

リスケジュールが下手そうであれば「あの仕事なんだけど、締め切り伸ばしたから」と言ってあげるのも効果的です。

 

メランコリー親和型性格傾向の方は、うまく適応できれば驚くべき生産力を発揮しますが、非常に精神疾患と相性が良い方でもあります。

 

個々人の特徴をうまくとらえ、企業と労働者でウィンウィンになれる関係が作れるのが理想です。

 

 

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【第10回】メンタルヘルスラインケアに必要な管理職の能力とは?

 

 

icon_4【執筆】

林田 一

臨床心理士

 

 

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