お互い様の社会は、自分の中の多様性に気付くことから【永田龍太郎さんPart2】

2018.06.05公開
 
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自ら手を挙げたわけではなかった

OUT IN JAPANを通じて、「自分が自分のままで暮らせる」安心の大事さを学びましたが、支援が終了したこともあり、そろそろ次のビジネスキャリアを考え始めました。

 

そんな時、知人から

 

「渋谷区でLGBTやダイバシティに取り組む人材を探していて、話だけでも聞いてみない?」

 

とお声がけしてもらったんですね。

 

でも、自分がGapでLGBTの取り組みに関わっていたのはあくまで社内プロボノ(仕事のスキルを活かしたボランティア)という意識で、自分から「LGBTのこと、やりたいです!」と手を上げたわけでは決してなかったんです。

 

もちろん、仕事としてきっちり取組みますが、自分としてはすごく受け身だったので、LGBTに関連する仕事なんて考えたこともありませんでした。

 

そもそも、人権のプロでもなければ、LGBTの団体に所属していたこともないですし、「LGBTのことやります!」「LGBTの人権が!」といった気負いも全然なくて。

 

なので最初に渋谷区の話をもらった時は、「人権活動家のようなエキスパートの方が良いんじゃないですか」といったことをお伝えした気がしますね。

 

 

視野の狭さを自覚していたからこそ

自分は当事者でもあるので、コミュニティの仲間や自身の経験から、一般的にあまり可視化されていないニーズを知れる立場にいる点はメリットなのかもしれません。

 

しかしそれ以上に、OUT IN JAPANで、色々な人たちの色々な思い、これまでの歩み、ご自身の一番深い部分、本当にリアルな声と接する機会があり、たくさんの気付きを得ました。

 

と同時に、

 

「自分の持っている視野は狭いので、自分感覚で語ってはいけない」

 

「直接的に訴える以外に、社会課題を知ってもらうソフトなアプローチが求められている」

 

ということも十分に自覚しました。

 

さらに、LGBTに関しては、日本でまだ誰も構造化していない事業の有りかたを組み立てて、当事者でない人でも事業を進められるようにしなければならないという、まさに過渡期。

 

だからこそ、これまでの対象に寄り添いつつも、第三者的に支援する視点が求められるマーケティングの知見を活かしてできることがあるかもしれない…ということで渋谷区のお仕事をお受けすることにしました。

 

マーケターとして、LGBTというお題をもらっているという感覚が近いかもしれません。

 

自分のためだとか、LGBTを仕事として一生取り組んでいこうとは全然思っていません。

 

むしろ「いつまで僕は、LGBTに関わっていなきゃいけないんだろう」と、ふと考えたりします(笑)

 

なので、自分のアイデンティティを掛けているわけではないですし、OUT IN JAPANという経験が無かったら、渋谷区での仕事は受けていなかったと思います。

 

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パートナーシップ証明が始まって

パートナーシップ証明については、渋谷区に限らずですが、

 

「行政が二人の関係を認知してくれるということが、心の安心に繋がっている」

 

という声は、多くのみなさんに共通しています。

 

以前、渋谷区でパートナーシップ証明を取得された方へ、実態調査のインタビューをしたのですが、その中で

 

「パートナーシップ証明を取ってから選挙に行くようになりました」

「選挙公報をちゃんと気にするようになりました」

「税金がどう使われているかへの興味関心が生まれた」

 

さらに、「渋谷区に税金を払っていることが嬉しい」といった言葉がたくさん出てきて。

 

それはまさに「社会の構成員として認知されている」ことが、社会に対する意識、興味関心に繋がっているのではと感じています。

 

ご一緒した研究者の方々も、こういった声が出てきたことに驚いていたのが印象的でした。「今まで聞いたことがない」と。

 

パートナーシップ証明って言ってしまえば、ペラっとした紙切れです。

 

ただ、私もですが、今まで透明人間として生きてきた感覚がある方にとって、紙切れ一枚であっても、これだけの意識の変化が生まれている点は特筆すべきことでもあると思っています。

 

自分自身が存在としてしっかり認知されている、

社会の構成員として認知されている、

 

こういった気持ちを持てることが、心の安定にこんなにも繋がっているんだ…と痛感しました。

 

 

まだまだ受益者は少ない

ただ、パートナーシップ証明の受益者は、LGBTの中でも、同性愛者で、一緒に生きていきましょうというパートナーがいる方々です。

 

当然、皆にパートナーがいるわけでもないですし、パートナーがいたとしても、皆が結婚までいく関係性であるわけでもない…

 

まだまだ受益者が少なくて、大多数の人たちにとっては、なんの変化も、生きやすくなったという実感も少ないと思っています。

 

そう考えた時に、渋谷区がLGBTの人にとって生きやすい町になっているかって言うと、全然そうではないと。

 

もちろん、パートナーシップ証明を認めることは大きな一歩ですし、メディアでも大々的に取り上げられました。

 

しかし、LGBTの人にとって生きやすい町になるために、地域の中での本当に地道な啓発を丁寧に一歩一歩進めていくこともとても大切です。

 

例えばですが、

 

「商店街のお肉屋さんの息子さん、(同性)パートナーとお店を継ぐんだって」

 

みたいな会話が、特にセンセーショナルでもなく、地域の中で当たり前に行われているのがいいんじゃないかな、と感じています。

 

皆さんが住む地域で、腫れ物に触れるような扱いを受けるのではなく、本当に生きやすいと実感できたときに、初めて日本の社会が変わったと言えるのではないかと思っています。

 

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見えないづくしをどうするか

渋谷区では、「LGBT基礎講座&みんなでアライの輪をつくろう!」といった講座をさまざまな形で開催しています。

 

「LGBTって身近でなかなか知る機会がなかった…」

「テレビなどでLGBTって見聞きはするけど…」

 

といった方が多く参加してくれています。

 

講座では、基礎知識を知っていただく以上に、「小さくとも、私にもできることがある」という気持ちを持ち帰っていただきたいという思いで、去年に引き続き行っています。

 

LGBTって外見で判断できるものではないので、なかなか社会課題として認識されづらい面があります。

 

それと同様に、「LGBTも生きやすい社会になって欲しい」と思っている人もやっぱり外見では分からない。

 

この「見えないづくし」をどう見える化していくか。

 

LGBT当事者の人が顔を出すことはなかなか難しいですし、アライ(※)の人たちだからこそできることがあるので、

 

「是非、その気持ちを見える化してください」

 

ということを講座などでは案内をしています。

 

一方で、人を介したアプローチですと、深い理解を創る上で有用ですが、人と人の「点」の繫がりとなるため、広がりは限定的なものになります。

 

特にアプローチの難しい無関心層に対しては、「しぶやレインボー宣言 POP」を渋谷区内の店舗のレジ横や会社の受付に置いてもらうことで、「面」で接点を作ろうという取り組みを始めたところです。

 

とても地味な取り組みではありますが、本当に1個1個、一歩一歩広げていくことが大切だと信じて取り組んでいます。

 

(※)「アライ」とは、英語の「同盟/支援者」の意味。LGBT当事者である/ないに関わらず、LGBTも生きやすい社会になって欲しいと願う人をLGBTアライと言います。(出典

 

 

渋谷区の姿勢を「見える化」する

「見える化」への取り組みとして、渋谷区の花菖蒲のマークをLGBTを象徴する6色のレインボーカラーに染めるといったことも行っています。

 

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区を代表するモチーフの一つを活用することで、渋谷区の職員にも「組織は本気だ」ということを一発で分かっていただけるようになりますよね。

 

LGBTにとって、行政サービスや地域のセーフティネットって、どうしてもアクセスしづらい側面があります。

 

そのため、渋谷区に勤める1人1人が、自分が今やってる仕事の中に「LGBT対応」が必要なものがあるのかどうかを考えて取り組んでもらうことが大事になってきます。

 

そういった面からも、渋谷区としての姿勢を「見える化」することで、対外的にだけでなく、内部の意識を高めていくことにも繋げられたら、と考えています。

 

 

大学を卒業したら老後だった

私自身の話ですが、「大学卒業したら老後」っていうことをよく周囲と話していました。

 

でも、実際そうなんです。

 

結婚をして、子どもを育てて…みたいなライフステージの選択肢が、多くのLGBTには用意をされていない。

 

なので大学を出てしまうと、極端な話、自分が死ぬまで自分のためだけに生きていくという、砂漠のような時間が広がっていて…

 

それはもう老後なんですよね。老後が20歳そこそこから広がっている。

 

自分が自分のためにどう生きたいかという問いを、なんのロールモデルも、なんの道も示されないまま突き付けられた状態。

 

「なんの道もないけど、あなたの好きなように生きてください。じゃあね」

 

って、ポンっと放り出される感覚に近いでしょうか。

 

大学を出て社会人になって早々、人生に迷ってしまったり、「若さ」だけでは生きていけなくなった40代でクライシスに陥ってしまう人の話を聞いたりもします。

 

 

自分は自分のまま成長していい

LGBTに関して、子どもの頃から孤独感が強く、自尊心を育みづらい面が大きな問題のひとつとして挙げられます。

 

自尊心が低くて孤独感が強い状態では、自死やアディクション、もしくは仕事を続けていく気力が持てないなど、リスクがととても高いことは容易に想像できますよね。

 

だからこそ、「自分は自分のまま成長して、大人になっても良いんだ」という背中をどれだけ見てもらうかもとても大事で。

 

子どもたちが地域の中で、そういった大人と接する機会って多くはないと思います。その点、メディアの力はやっぱり大きいです。

 

あまり、普通という言葉は使いたくないですが、LGBTであっても排除されることなく社会の中で生きている普通の大人だっているんだ、ということを知る機会を増えていくことが大事なんだろうなと思っています。

 

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「大丈夫だよ」を言ってくれる場

渋谷区の支援事業には、電話相談やコミュニティスペースなどがあります。

 

時代性もありますが、傾向として電話相談はハードルが高いのではないかと感じています。

 

顔の見えない相手に、電話で自分の内面を話すことに抵抗がある人も多いと思いますし、1対1での相談支援が必ずしもベストの解決策ではないと思っています。

 

「僕、同性が恋愛対象として気になるんですけど、変なんでしょうか?」

「いや、そんなことはないよ」

 

こんな一言二言のライトな会話や、堂々とした振る舞いの同じセクシュアリティの人と一緒に過ごす時間を通じて、自己肯定感が得られる場を提供するには、といった視点も、支援を考える上では、大事だと思います。

 

コミュニティスペースは、ちょうど今年の案内が出来たばかりで、今年もいろんなテーマで開催しています。

 

昨年1年での運営を通して学んだことは、

 

「人を尊重する」

「他人を認める」

 

といったことから、自尊心や自己肯定感が育まれることは結構あるということです。

 

実際、若い子も何度も遊びに来てくれていますが、自己肯定感を育んでいく上でも、「大丈夫だよ」と言ってくれる安心できる場はこれからも大切にしていきたいと思っています。

 

 

自分を受け入れてもらうことばかり考えていた

他人を認めるという話でいうと、私自身も苦労しました。

 

まだカミングアウトをしていなかった時、自分では「透明な鎧を着ていた頃」と言ったりしていますが、心の中に絶対的な防衛線を引いていたんです。

 

カミングアウトした後に初めて気づいたんですが、透明の鎧を着ていると、人とのコミュニケーションの距離を自分から詰めていこうとはしないんですよね。

 

そんな自分が変わるきっかけとなったのは、やはりOUT IN JAPANでした。

 

私自身のOUT IN JAPANのコメントの中で、

 

「自分を受け入れてもらえるか気にしてばかり生きてきたけれど、果たして自分は他者を受け入れようと努力したことはあっただろうか?」

 

と書きました。

 

自分から相手に歩み寄って、寄り添い、自分も人も認めていくという経験は、OUT IN JAPANをお手伝いする中で、初めて得た感覚だったような気がしています。

 

それまでの私は、自分を受け入れてもらうことにリスクや不安を感じる一方で、誰かを認めたり、受け入れるためにあまり心を割いてこなかったなと。

 

何かを伝えるということは、相手に歩み寄っていくことでもあるんですよね。

 

自分を認めてもらうには、相手を認めることから。

 

 

LGBTの非当事者性をなくす

ちょうど先日、イベントに登壇してお話をした時に、

 

「当事者性をどんどん拡張しようとしているんですね」

 

という感想を伺いました。

 

アライを可視化してどんどん広げて、無関心な非当事者性を減らしていくという方向性に興味を持たれたようでした。

 

大切なことは、当事者・非当事者という単純な二項対立で考えるのは危険だということです。

 

当事者の中にも、自分自身を受け入れられないLGBTフォビア(LGBTへの嫌悪、不快感)は大なり小なりあって、その当事者の中にもある非当事者性が、自尊心や自己肯定感にマイナスの影響を与えている場合もあるでしょう。

 

だからこそ、LGBTの社会課題に取り組む上で、当事者・非当事者の二元論ではなく、非当事者のアライを増やすことはもちろんですが、LGBT当事者も他のLGBT当事者のアライになってもらい、結果的に社会全体がLGBTや性差別について「自分ゴト」として捉えられるようになったらいいな、と思っています。

 

 

昔の自分に、今伝えたいこと

実は、子どもの頃から身体が弱かったこともあり、

 

「必ず逃げ道を作れるようにしなさい」

 

「そもそも、しがみつかなきいけないものなんてないんだから。逃げられるようにしなさい」

 

と、親に言われながら育ってきたので、何かにしがみつかないために、選択肢を持てるように頑張って、ここまで来たという感覚を持っています。

 

人生において、常にチョイス(選択肢)が持てるということはとても大事です。

 

それでも、自分がLGBT当事者であることで、

 

「こういう人生はあり得ない」

「こういう権利はない」

「俺はできない」

 

という「あきらめ」を無意識の中でたくさんやってきたんだな、ということを40代を迎えた今、振り返ると感じます。

 

しかし、いろいろな人達の頑張りによって、国や自治体の制度や社会が変わっていく中で、「僕には認められてない」と思っていたものが、実は別にそうでもなかったり、もしくは「自分にはこれが閉ざされていたんだ」と気づくこともあります。

 

なので、

 

「無意識のうちに閉ざしてしまった人生の選択肢に、たくさん気づいておこう。」

 

ということでしょうか、伝えたいのは。

 

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「お互い様の社会」を皆で創りたい

以前、別のインタビューでも伝えたことですが、「カミングアウトしてもしなくてもいい社会」という観点で言うと、

 

「その人がその人のパフォーマンスを100%出せる社会を創りたい」

 

そういった想いに、皆の意識がもっとオープンになっていく必要がとてもあるんじゃないかなと思っています。

 

なので、これはLGBTの話だけでないんです。

 

病気や家族の有り様なども含めて、「それがあなたが社会や職場から排除される理由にならないよね」というオープンな意識を社会全体で共有する必要があると思います。

 

誰しも、何かしらのマイノリティ性は持って生きていますよね。

 

だからこそ、お互い様で、みんなで社会を作っていくっていう意識が一番大事なんじゃないかなと思っていますね。

 

渋谷区としてもLGBTだけではなく、「多様性を認め合う社会」を掲げているので、LGBTをきっかけに、そういった意識がもっと広まってほしいなと願ってます。

 

 

自分の中の多様性に気づくことから

「多様性を認め合う」っていきなりは難しいので、まずは自分の中の多様性に気付くことから始めてみるのもいいかもしれません。

 

LGBTの講演などをする際に見てもらう動画を見ていただくと分かりやすいかもしれません。

 

 

そもそも普段から意識してない人が多いと思いますが、自分が思っている以上に、自分の中には多様性があります。

 

自分の中の多様性に気付くこと。

 

それぞれの一歩一歩から、お互い様に色んな意味や形で助け合える社会をみんなで一緒に創っていきたいですね。

 

【永田龍太郎さんインタビュー完】

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永田龍太郎さん全インタビュー

【Part1】Gapから渋谷区へ。LGBTとOUT IN JAPANのこと

【Part2】お互い様の社会は、自分の中の多様性に気付くことから

 

 

インタビューを受けてくださる方、募集中です

臨床心理士、精神保健福祉士、看護師、保健師、産業カウンセラー、支援機関の職員など、すでに多くの方にインタビューを行っています。

 

また、精神疾患などの当事者の方、メンタルヘルスや人間関係でお悩みの方などのインタビューも行っております。

 

これまでの経験・取り組みや、ご自身の想いを読者に届けていただき、Remeのミッションである「こころの専門家へのアクセスの向上」「こころの健康に関するリテラシーの向上」の実現のために、お力をお貸しいただけますと幸いです。

 

 

ご興味をお持ちいただけましたら、下記フォームよりお問い合わせください。24時間以内にご連絡いたします。

 

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