人間嫌いは自分も嫌い?心理・原因・克服方法とは?臨床心理士が解説

2018.12.08公開 2019.05.16更新

「人間嫌い」の4つの原因とは?

他人を批判することで自我を守る

はじめに、自我防衛機能が自分の心を守ろうとしているということが挙げられます。

 

「人間嫌い」な人は、他者を否定することで自分の「自我」を守っています。

 

心理学で言う「自我」とは、よく言う「自我が強いひと」とは少し意味が違います。

 

「自我」とは、心理学において有名なジグムント・フロイトが生み出した概念です。

 

湧き上がってくる衝動や欲望(リビドー)を、社会的なルールと照らし合わせ、「この欲望を行動に移してよいのか?」という判断を常に行っています。

 

簡単な例を挙げると、

「夜の11時なのにお腹がすいたな…。でもこんな時間に食べたらお母さんに怒られちゃうかもなあ」

といった感じです。

 

つまり自我とは、「自分自身を統制する監視システム」のようなものです。

 

そしてこの「自我」は、不安・恥・罪悪感といった負の感情から人間の心を守るための機能も持っています。

 

例えば、

 

自分の心が壊れないように、不安な出来事を心の奥に押し込めて、気づかないようにしてしまったり、

 

苦しい気持ちや感情を「芸術」という形に変えて、ストレスを発散させることもあります。

 

自分の中に嫌いな自分がたくさんある

そしてこの「自我防衛機能」の中に、「投影」という機能があります。

 

投影とは、「本当は自分の中にあるものを、相手に映し出して見る」ことを意味します。

 

例えば、

・(本当は自分のだらしない性格が嫌いなのだけど、それに気づいてしまうと不快を感じるから)子どものだらしない性格を叱る

・(本当は上司のことが嫌いなのだけど、嫌いだと思うと、今の仕事を選んだ自分に対して不快になるから)上司が自分のことを嫌っていると嘆く

といった心の投影が生じることがあります。

 

さて、人間嫌いの方は、どんなときに人間嫌いだと感じるでしょうか?

 

そして、その心の背景にはどんな「本心」が隠され、投影されているのでしょうか?

・みんな結局、自分のことしか考えてないから、人と付き合うのは意味がない

(⇒でも本当に、自分のことしか考えていないのは自分)

・上昇志向が高い人ばかりで疲れる

(⇒1番上昇志向が高くて、周囲と比べているのは自分)

・みんな周りに気を遣ってばかりでバカみたい

(⇒人一倍、周囲に気を遣ってしまうのは自分)

というように、「○○だから人間て面倒、疲れる、嫌い」と思っている背景には、「自分も○○である」という事実が隠されているのです。

 

つまり、自分が隠している嫌いな部分を周囲の人の中に見出し、批判しているのですね。

 

こういった心の特性は誰しもが持ち合わせているものですが、この傾向が特に強くなると、「人間なんてみんな嫌い」といった「人間嫌い」になると考えられます。

 

そしてそれは同時に、「受け入れられない自分の嫌いな側面」がたくさんあることも意味します。

 

他者と自分の類似性を見いだせない

「類は友をよぶ」といいますが、この原理は心理学でも証明されています。

 

人種、宗教、趣味、好きな服装などが近い者同士は仲がよくなりやすいことが明らかになっています。

 

なぜならば、「自分と類似した人物であれば、会話や仕事が円滑に進むだろう」と予測するからです。

 

さて、先程「人間嫌いな人は、自分の中に嫌いな自分がたくさんある」ということを説明しました。

 

想像してみてください。

 

「嫌いな自分がたくさんあって、自分を直視していない」人が、積極的に「自分」を見つめ、自分のことを考え、他者との類似性を探そうとするでしょうか?

 

おそらく、対人場面においては、

「あの人は○○だから嫌だ(本当に○○なのは自分)」

というネガティブな評価をしがちなのではないでしょうか。

 

これでは、類似性を見出し、人と仲良くなり、円滑なコミュニケーションを築くことは難しいですよね。

 

そして、「コミュニケーションへの苦手意識」は「人間嫌い」をさらに加速させていきます。

 

人間関係を「コスト」と評価している

少し話が変わりますが、人間は対人関係において、「コスト」と「報酬」を見い出していることが、社会心理学の実験において明らかにされています。

 

対人関係には「時間」「相手への気遣い」「交際費」など様々なコストが存在します。

 

しかし、それらを超える「報酬」が手に入るため、人間は特定の相手との交流を続けている、と考えられています。

 

例えば、「面白い話が聞ける」「相手の会社の内部事情をこっそり教えてもらえる」といった報酬の例が挙げられます。

 

しかし、こういった「コスト」と「報酬」以外の対人関係も存在します。

 

それは家族関係などに代表される「共同関係」です。

 

こういった関係性においては、お互いが思いやりで成り立っているため、コストや報酬は意識されません。

 

さて、人間嫌いの方は、すべての対人関係において「コスト」と「報酬」を意識しすぎている可能性があります。

 

その場合、

・この人のためになぜ何時間も時間をさき、話をしなければならないのか

といった「費用対効果」ばかりに気持ちが向き、人間関係に対するネガティブな気持ちが強まっている可能性があります。

 

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広瀬絵美

臨床心理士

心理学の大学を卒業後、広告会社にて勤務。退職後、心理系大学院修士課程を修了し臨床心理士資格を取得。精神科病院にて従業員のメンタルヘルスケア業務に従事する。また、国立研究所にて職場組織や妊婦さんのメンタルヘルスに関する研究にも携わっている。理想的な「ワークライフバランス」を目指し、研究と実践の両面から支援を行っている。一児の母。

  • 本コンテンツは、特定の治療法や投稿者の見解を推奨したり、完全性、正確性、有効性、合目的性等について保証するものではなく、その内容から発生するあらゆる問題についても責任を負うものではありません。
  • 本記事は2018年12月8日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。