人間に一番大切なのは「心」と気づく…研究と実践に没頭した大学院生活【杉山崇さん 2/3】

大学時代に遭遇した「バブル崩壊」をきっかけに、人間に一番大切なのはお金ではなく「心」の在り方だと気づいた杉山先生。心理学を学ぶために進学した、大学院での生活や新たな出会いから得たことについて伺っていきます。

 

 

大学院入学前の1年間

「これから心理学をやるぞ」と意気込んで大学院を受けたのですが、大学での専攻が人類学で、心理学をやってきてなかったので落ちてしまったんです。

 

それで大学院浪人をしたのですが、別の大学で人類学と臨床心理学の中間領域をやってる先生が1人いるところがあって。次年度で大学院を受験することを目指して、「先生の所でしばらく勉強させて欲しい」とお願いして、研究生にしてもらいました。

 

そこでの宝物は、その時に知り合った人たち。勉強したことよりも、知り合った人たちが「心理学的なものの考え方」というのを教えてくれたので。

 

優秀な大学から来ている先輩たちもいたので、そういう先輩たちから「心理学的なものの考え方」というのを学ぶことができて、勉強のスピードがすごく早かったんですよ。

 

しかも当時は、学費がすごく安かったのに、授業は何個とっても良くて。大学院の授業も学部の授業も両方とって良いのですから、こんなにおいしい話はありませんよね。

 

 

仮説の上に仮説を立ててはいけない

その時に先輩から言われて記憶に残っているのは、「仮説の上に仮説を立ててはいけない」という言葉。人類学とか社会学では「仮説の上に仮説を立てる」ことは当たり前なんです。

 

仮説を立てても実証のしようがないので、仮説の上に仮説を立ててっていうのは、人類学、社会学ではよくやることなんですけど、「心理学ではそれはだめなんだ」っていうのは目からウロコでした。

 

 

因果というのはスパッと言えない

あとは、「遺伝と環境の関係」ですね。先生から紹介してもらった臨床動作法というものです。

 

遺伝と環境の相互作用で子どもの問題というのは起こるんですが、どっちがどう影響してるのかというのは非常に分かりづらい。

 

スタートはどっちなのか分からないのですが、遺伝的な素因があって、それが何かの問題のコードに繋がって、そこに対して親がこんなリアクションをして、そのリアクションがさらに遺伝的な問題の拡大に繋がっていって、それで問題が起こって、またさらに親がリアクションして…という風に連鎖していきます。

 

そこから「問題をどのように考えたら良いだろう」となった時に、原因と結果というのはスパッって「これが原因です、これが結果です」と言えるものではない、ということなんです。

 

そういう心理学の基本的なことを教えてもらえたことがとても記憶に残っています。

 

 

自由な大学院生活で痛感したこと

その後、大学院でまた別のところに行きました。大学院生生活としては、師匠がとても自由にさせてくれたので学びやすかったですね。逆に言えば何も教えてくれないんですけど(笑)

 

でもそのくらいがちょうど良い。「自由にやって良い」っていう感じだったので、私もそれに甘えて自由にやらせてもらっていました。

 

大学院に入ってみて痛感したのは、自分の経験不足。「実験をやったことがない、統計解析をやったことがない」という、経験値不足を感じていたので、M1の時の夏休みは、1ヶ月とにかく「統計道場」と自分で位置付けて、統計ばかりやりました。

 

仮想データというのを勝手に作って、その仮想データをいじりながら統計のやり方を学んでいったりましたね。

 

 

在学中から現場でカウンセリング

そして、9月ぐらいからクリニックに勤め始めました。大学時代に知り合いになった精神科医の先生が池袋で開業していて、「大学も近いんだったら、うちで手伝わない?」と言ってくれて。「喜んでやります」と返事をして働き始めました。

 

そこで少しずつカウンセリングを始めました。今では信じられないですけどね。在学中からクリニックに勤めてカウンセリングをするなんて。

 

大学院を修了する前から、中野の保健所で精神障がい者の支援のプログラムのスタッフになったりとか、修了直前に、小平市の教育委員会に勤め始めました。

 

仕事は一生懸命やっていて、在学中から週5とかのハイペースでやっていましたね。ほかの学生と比べても早い方だったと思います。

 

現場の経験が割とあったので、「誰か良い人いない?」って大学に連絡が来ると私を紹介してくれたりして。即戦力として扱ってもらっていました。

 

 

臨床心理学は未完成な学問

そんなにたくさん現場の経験を積めたのも、研究の方が順調だったからで。たまたま運良く研究仮説が当たって、面白いように仮説を支持する結果が出ました。

 

心理学研究はなかなか仮説が支持されなくて、そのことで悩む研究者も多いのです。だから一部の研究者は私の存在が面白くなかったかもしれませんね。

 

研究者からみたら、臨床の実務もバイトにみられてしまうことがあります。大学の研究室に缶詰になって必死で研究をしてもお金になりませんから。実際「バイトばかりしている」と批判されたこともあります。

 

なので、臨床をやっている私は研究成果は評価されても、一部の研究者の間では人物評価は低かったかもしれません。

 

2年ぐらい現場中心で経験値を積んでから博士課程に進みました。現場に出て「臨床心理学の未完成さ」を実感して「これはちゃんと作り直さないとクライアントに申し訳ない」と思って博士課程に進むことを決めました。

 

ただ、臨床心理の世界は学派意識が根強いので一部では「家元制度」と呼ばれています。「学問を作り直す」という姿勢は科学者としては正解ですが、家元制度の中では喜ばれにくかったですね。

 

ですが、ご理解くださる先生方もおいでで、先生方のご支援のお陰で今に至っています。お力添え下さった先生方には本当に勇気をいただきました。生涯感謝し続けると思います。

 

 

被受容感の研究に注力

博士課程の3年間は、夜は研究して、昼間は働いてというサイクル。寝ないで研究していました。

 

その時はいくつかの研究を同時並行してやっていたんですけど、メインの研究は「被受容感」という、「人から大切にされているっていう実感が、どんな風に人間にとって影響するのか」というテーマ。この研究にはちょっと自信があります。

 

私が研究している「シアター・アンド・スポットライト・セオリー」では、心のスポットライトを強力に操作する感情的なものの1つに、「社会的な疎外感」があります。

 

「社会的疎外感」とか、「自分が排除されるリスク」というのを感じると、スポットライトはそっちにぐっと持っていかれる。シアターに映る表象ですよね。「どんな人がシアターに映っているか」ということです。

 

僕たちの心の中には人が住んでいますが、「どんな人が心の中に住んでいるのか」というのが影響するんです。

 

人間は社会的な存在です。「被受容感が重要だ」というのは、当たり前と言えば当たり前のこと。それを研究した人が当時いなかったので、私がやったというわけです。

 

 

教員としてのキャリア

そこの大学院を修了すると、長野に行って専任講師になりました。そうしたら忙しすぎて研究ができなくなっちゃったんですよ。

 

教員としてのいろいろな事務仕事があったり、慣れていないこともあって要領も悪くて。でも研究は好きなので、何とか時間をやりくりして続けていました。

 

長野には2年くらいいて、その後はまたご縁があった山梨の大学に行って。山梨には4年間いました。その次は、現在勤めている神奈川の大学に移って、もう9年目になります。

 

神奈川の大学は授業数が多いのが大変ですが、多くのアシスタントが授業をサポートしてくれるので、とても助かっています。

 

授業で教えたり、研究もして、ほかにも心理相談センターなどで実践活動を行うなど、いろいろと携わっています。

 

今一番悩ましいのは部下の労務管理。どうしたら部下のモチベーションを引き出すような感じにできるのか、というのが難しい。カウンセリングとはまた違う分野です。

 

 

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大学院入学前、入学後の様々な出会いや気づきを通じて、日々の研究や実践の場での活動に注力されていた杉山先生。現在の活動に繫がる決定的なターニングポイントや、今話題の著書「ウルトラ不倫学」について、第3章でお伺いします。

 

続きは、第3章へ

PHOTO by 齋藤郁絵

 

杉山崇教授の最近の著書

ウルトラ不倫学

記憶心理学と臨床心理学のコラボレーション

 

 

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臨床心理士、精神保健福祉士、看護師、保健師、産業カウンセラー、支援機関の職員など、すでに多くの方にインタビューを行っています。ご自身が、有名かどうか、権威かどうかは関係ありません。

 

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  • 本記事は2017年1月4日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。