【メンタルヘルスと両立支援】多職種の視点からみる職場のワーストプラクティス事例

「◯◯さんは、採用した時から問題社員でしたか?」

 

入社当初は優秀だった社員が、オーバーワーク等によりメンタル不調に陥って休職する…というケースは少なくありません。

 

厚生労働省の資料によると、疾病を理由として1ヶ月以上連続して休業している従業員がいる企業の割合は、

・メンタルヘルス 38%

・がん 21%

・脳血管疾患 12%

とメンタルヘルス不調による休職者の方は多く存在します。

 

また、メンタルヘルス不調での休職者のうち、4割程度の方が復職に至らずに退職を余儀なくされているという現状が、厚生労働省全国健康保険協会のデータなどから読み取ることができます。

 

そこで、第1回『協働支援』研究協議会では、実際の事例に基づいて作成された、ワーストプラクティス事例(後述)に対して、

・産業医

・社労士

・弁護士

・精神科看護師

・ソーシャルワーカー

・人事部マネージャー

・患者

など多様な視点から、グッドプラクティスに変えていく上で意見交換を実施しました。

 

ワーストプラクティス事例

◯当事者Aさんについて(病気発症当時)

年齢:35歳(男性)家族構成:妻(育児休業中)、子2人(3歳、1歳)

勤務年数:4年目(中途入社)…休職可能期間:1年以内

勤務内容:事務部門(課長・係長・主任:本人・パートタイマー2名の5名体制)…正社員1名の人員減、補充なし

主に他部門・外部と調整を図り、外部向けプロジェクトを取りまとめている。

診断名:うつ病

 

◯人事担当者Bさんについて

年齢:50歳(男性)勤務年数:27年目(新卒入社)

勤務内容:人事総務部門の部長

 

◯経過

①病気発症
X年2月
事務部門において正社員1名の人員減(退社)があり、Aさんの業務負荷が増える。
恒常的な残業(月平均90時間程度)が以後約3か月続く。

 

X年5月
Aさんは、イベント3件・研修3件のプロジェクトを担当していたが、同僚との連携や他部門との調整がうまくとれず、出納事務が長期間放置されている等、各方面からクレーム・トラブルが多発することになる。
自分の考えにそぐわない意見に対し攻撃的な発言・表現が目立ち、周囲が恐怖心や敵対心を抱くようになる。

 

X年6月
事務部門の課長よりBさんに相談があり、BさんはAさんと面談をする。
Aさんが下痢や頭痛、不眠といった現症状を有していること、前職場でも同様の問題でメンタルクリニックへ通院をしていたことを知る。
BさんはAさんに、かかりつけのメンタルクリニックへの再受診を促し、主治医より就労は難しい(3か月の休養を要する)との診断を得る。診断名はうつ病(再発)。

 

Ⅹ年7月
会社はAさんに3か月の休職を命じる。
事務部門へは派遣社員1名が増員され、職場内での業務見直しの結果、支障なく事務部門は機能する様になっていった。

 

②休職
X年10月
3か月後、主治医より就労は難しい(通常勤務の継続の可否は判断できない)との診断を得る。
会社はAさんの休職可能期間(1年間)の残期間である+9か月(X+1年6月まで)の休職を命じる。

 

X+1年4月
休職期間満了3か月前となったので、BさんはAさんに障害者職業センターでのリワーク支援を受けることを打診する。

 

X+1年5月
Aさん本人了解の下、リワークプログラムが開始される。
欠席・遅刻が若干あるも、他のリワーク参加者との交流も問題ない。
体調や睡眠の質も改善傾向にある。
会社へのリワーク報告がある。Aさんから、休職前の業務内容での復帰希望とペースがつかめたら新しい業務にも対応したい旨の意向を受ける。

 

③退職
X+1年6月
主治医より復職可能との診断を得る。
Bさんより事務部門に原職復帰の打診を図るが、職場の同僚全員から猛反発を受ける(Aさんを復職させるなら、私が辞めます等)。
BさんとAさん及び産業医との面談機会を設けるも、その日はAさんの雄弁さ・ハイテンション振りが目につく。
自分本位の考え方や判断に変わりはなく、同僚への気遣い・人間関係構築を心配している様子はなかった。
会社として総合的に復職不可と判断する。
Aさんは休職期間満了で同月末に自然退職となる。

 

X+1年7月
会社に紛争調整委員会からあっせん通知書が届く。
Aさんが解雇無効で労働局へのあっせんを申請したとのことである。
労災保険申請も希望しているとのことである。
一連の対応をしていたBさんには、不眠・食欲不振の症状が見られ、度々の欠勤が続いている。

 

休職期間満了前に復職の機会を

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江口尚氏 北里大学医学部 公衆衛生学 講師 医学博士

これまで10年ほど、中小企業、外資系企業などの産業医として現場の課題に向き合ってきました。

 

産業医として企業にいた当時、この事例のように「復職をしたい」というご本人の意志があれば、休職期間満了の2,3週間前には一度は復職をしてもらう旨、会社側にはお話しするようにしていました。

 

メンタルヘルスの問題は、何かの数値を見て判断できる部分が少なく、やってみないとわからない側面が多分にあります。

 

生活習慣が完全に整っていない状態であっても、働き出してみるとちゃんと働ける可能性もあるんですね。

 

ですので、診断名は「うつ病」となっていますが、主治医やリワークの支援員ともコミュニケーションを取って、さらなる情報収集に努めることも必要だったのではないでしょうか。当事者を含めた関係者との対話が重要と考えています。

 

一度復職をした結果、復職が難しいということでしたら、ご本人も納得の上で、今後に向けて会社側と話を進めやすくなり、事例のようなトラブルは未然に防げた可能性もあります。

 

また、復職不可の選択肢が意識された時点で、会社側との話し合いのプロセスの中で、休職期間満了を見据えて、顧問弁護士の先生など法律の専門家にも入っていただいて進めていくことも大切になります。

 

最後に、Bさんにもメンタルヘルス不調の症状が見られていると思いますが、このような事例にはチームで対応をする必要があり、属人的な対応になることは避けるほうがよいと思いました。

 

 

「支援のバグ」「潜る診断」を直視した支援を

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中金竜次氏 就労支援ネットワーク ONE 代表

これまで労務行政で難病の方の就労支援や、看護師として急性期病棟から慢性の障害・病気のある方々の病棟でのケア、障害者職業センターでリワークなどに携わっておりました。

 

今回の事例については、背景に色々な事情があることは承知の上で、休職期間が残り3ヶ月時点でのリワーク支援への参加は、準備期間の不十分さによる焦りなど、マイナス影響を与える可能性が考えられます。

 

障害者職業センターでは、

・睡眠時間やリズムが相応に安定していること

・安定通所が見込めること

・小集団でのグループ活動ができる程度に症状が改善していること

・休職期間が6カ月以上残っていると、無理なくプログラム受講可能

などと説明書きが添えてあります。

 

ですので、復職に向けてしっかりとした休職期間を過ごす上でも、リワークに充てる期間は6ヶ月、できれば1年以上あるとより良いと考えています。

 

次に、リワークプログラムへの参加により、「遅刻や欠席が若干あるも」と書かれている点は、就労準備性がどの程度まで整っていたのかという側面が気になるところです。

 

現在の就労移行支援事業所やリワークプログラムに通えたとして、シュミレーションできる時間数は20〜30時間程度で、一般雇用でのフルタイム相当の就労負荷には及ばないためです。

 

また、本事例では疾病性から事例性として発展した人間関係の問題が、職場での職場への復帰を阻む要因となっているようでした。

 

ご本人を含めた対話の機会を早期の段階で、他の支援者を含めた面のサポートにしていくのがいいのではと考えます。

 

ただ、そこには疾病性と事例性を翻訳でき、必要なネットワークを構築する支援者の存在がキーマンになってくるのでは、と考えます。(時に診断の背景に他の疾病が隠れているケースを散見します)

・障害者職業センターと事業者の相談を早期に開始・コーディネートを受ける

・治療から就労への移行期の訪問看護の活用

なども踏まえながら、病気や障害を踏まえた知見(認知機能・疾病によるコミュニケーションへの影響・調子を崩した時のサイン・服薬管理・生活、睡眠リズムの把握)により、リワーク支援の導入期の参考にすることもひとつです。

 

いくつかの支援機関は浮上しますが、マンパワー不足や支援の縦割りによる連携の課題など、ある種の「支援のバグ」によって、人事労務担当者に責任が重くのしかかってしまうのが実際的な状況かもしれません。

 

治療を進めながら就労を継続する企業・就業者へのサポートそのもののあり方をどうするべきか。

 

企業側の細かなニーズやインサイトを可視化しながら、適切なタイミングで支援が行き届く仕組みを整えていくことが今後より必要と思います。
 

ならし出社・短時間勤務などの段階的なサポートを

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宿野部武志氏 一般社団法人ピーペック 代表理事(CEO)

はじめまして。私は3歳のときに慢性腎炎に罹って、18歳から週3回、32年間透析をしています。

 

その間、がんを罹ったり、耳も悪くて補聴器が手放せないなど、病気とともに生きてきた人生がございます。

 

今回のケースに関しては、以前勤めていた企業の人事部として同じようなケースを経験していました。

 

その当時の経験や、現在取り組んでいる透析患者さんへの就労などの支援活動も踏まえて、今回の事例への見解をまとめてみました。

・X年2月:事務部門課長による本人との面談と、事務部門の人員体制の見直し

・X年6月:メンタルクリニックへの受診の促しの前に産業医との面談実施

・X年10月:産業医が関わるべきでは?

・X+1年4月:現職場での「ならし出社」の制度を採用すべき

・X+1年6月:事務部門メンバーからのAさん復職の旨に対する反応を確認する必要性はないのでは?

 

・X+1年7月:本人にとってみれば主治医からは復職可能との判断を受けているのに、「ならし出社」もなく、一度も復職できずに解雇となったことは納得いかないのであろう。 また、休職開始時には(少なくとも文面では)産業医が介入していないのに、復職可否の判断の際には主治医の診断ではなく、産業医の判断で復職不可と判断されたことも納得いかないことの一つではないか。

上記にも挙げた、「復職したい」という意図があるのに、慣らし出社などを含め、一度も職場に戻れずに解雇になってしまったことで不満が出てきてしまうことは、ある意味自然なことのように感じています。

 

「ならし出社」という取り組みをされている企業も多いと思いますが、職場復帰にあたって出社時間を遅めにずらしたり、短時間勤務から始めるなどの工夫があっても良いように感じました。

 

また、職場復帰を始めて、安定して出勤の習慣ができたタイミングで業務を増やしていく…という段階的なサポート体制もやや足りない印象を持ちました。

 

さらに、それ以前にも業務量を分散させてパワーバランスをとることも、本来的には人事部主導で進める必要があったと考えています。
 

その人の特性や得意を活かした仕事に組み替える

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橋本一豊氏 特定非営利活動法人WEL’S 理事長

私たちの団体では15年前に法人を設立し、現在は就業生活支援センター・就労移行支援事業所・就労継続支援B型・相談支援事業、その他さまざまなプロジェクトに取り組んでいます。

 

日頃の現場での取り組みを通じて、会社トップの考え、企業の方針・環境、現場の方々の理解など、様々な観点から分析していく必要性を非常に実感しています。

 

その上で、この事例では特に、アセスメントによってご本人のストレングスを把握し、段階的に復職を進めていくことが必要ではなかったのかなと感じました。

 

この事例と同じように、ご本人としてはうまくいっているけれども、現場の方が受け入れに難色を示しているという会社での復職支援に関わっていたことがあります。

 

もちろん、障害によってはどうしても復職が難しいこともありますが、大切なのは組織としてメンタルヘルスへの理解を深めることです。

 

例えば、メンタルヘルス研修を通じて、職場で生じる問題を紐解いていくと、受け入れる側の職場の人自身にも「自分にも◯◯な傾向があるかも」と自分ごととしてお感じいただくケースが多々あります。

 

社内研修は、障害特性や配慮事項や事例の情報提供をおこない、受入れに向けた準備を段階的に進める上で有用です。

 

そのように、メンタルヘルスへの理解が職場全体で浸透していくことで、いままでの視点を変えようというマインドが組織に醸成されやすくなります。

 

復職にあたって、その人の特性や得意なことを活かした仕事内容に組み替えるなどの発想にシフトできれば、復職に向けたミスマッチを減らすこともできるのではないでしょうか。

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  • 本コンテンツは、メンタルヘルスに関する知識を得るためのものであり、特定の治療法や投稿者の見解を推奨したり、完全性、正確性、有効性、合目的性等について保証するものではなく、その内容から発生するあらゆる問題について責任を負うものではありません。

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