EAPの役割とは?休職者を減らす事例を挙げて臨床心理士が解説

2017.02.24公開
 
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最近、過労死や過重労働によるメンタルヘルス不全が多くなり、産業分野でのメンタルヘルスケアはさらなる関心を集めています。

 

企業自体も「メンタルヘルス不全で熟練した従業員が休職や退職するよりも、多少お金をかけてもメンタルヘルスケアに力を入れたほうが長期的に見て得」という考え方に変わってきたように思います。

 

現在、産業分野で主流となっている考え方にEAP(Employee Assistance Program)があります。

 

そのまま「EAP」と使われることもあれば、「従業員支援プログラム」と和訳されることもあります。

 

「プログラム」という名前がついているように、メンタルヘルス不全に対して「予防・早期発見、早期治療・再発防止、職場復帰」という観点から会社内にシステムを構築します。

 

よく勘違いされるのですが、EAPという言葉そのものは職種ではないので注意が必要です。EAPを実践するメンバーの中にカウンセラーやコンサルタント、医師や看護師がいるイメージです。

 

 

外部EAPと内部EAP

自社でEAPを構築し実践する場合は、「内部EAP」と呼ばれます。その場合、EAPチームを会社内の人員で構成し企画・立案して実践します。

 

会社の事情を十分に把握しているメンバーがその実践に当たるので、効果的なEAPが構築できます。

 

その反面、EAP専門の職種を自社で雇用する必要があるのでコストがかさみます。また、予防をはじめとした劇的な効果が感じづらい分野の仕事でもありますので、経営陣の説得にも苦労があるでしょう。

 

一方、EAP専門の会社にEAP構築と実践を依頼することを「外部EAP」と言います。

 

EAPを専門に研究している企業ですので、ある程度の実績に基づくEAPを実践することが出来ます。

 

その反面、外部の立場であるため、会社の事情に精通しているとは言い辛い面もあります。そのため、事前のコミュニケーションでニーズを伝えることは不可欠です。

 

コストの面や効果の面を考えても、外部EAPの利点は非常に大きいと言えます。

 

実際、内部EAPよりも外部EAPのほうが日本では一般的になっています。それに伴い、EAPを専門とする企業も増え、産業分野を専門とするカウンセラーの需要が高まっています。

 

 

EAPのコンサルタントとカウンセラー

一般的にカウンセラーというと、皆さんはどのような場面を想像するでしょうか。

 

おそらく多くの人が、机と椅子だけがある部屋で、二人でお話をしているという場面を想像されるのではないでしょうか。それはある意味、間違いではありません。

 

実際、企業中で特定の従業員を対象に、継続的に面接を行うということは多くあります。

 

病院などのカウンセラーと、EAPのカウンセラーで一番違うのは、「予防医学的な観点」でカウンセリングを行うことです。

 

例えば、うつ病やアルコール依存などが背景に考えられる時、治療と目的とした心理療法は行わないことがほとんどです。

 

背景に、うつ病やアルコール依存などの精神障害が推測される場合は、医療機関につなぐことが、EAPのカウンセラーの主な仕事になります。

 

それでは、カウンセリング場面で何が行われているかと言うと、ストレスが過多だと考えられる従業員の聞き取りを行ったり、うつ病をはじめとした精神障害で休職した従業員に対して、どのような復帰の仕方をするかなどの相談を行ったりします。

 

このように、ある企業の従業員に対して「予防医学的な観点」からカウンセリングを行う職種がEAPカウンセラーと呼ばれます。その性質から、企業外にある病院や団体などとやり取りが多くなる職種でもあります。

 

一方で、EAPチームの中にはEAPコンサルタントという役割もあります。

 

これは、企業の中でメンタルヘルス不全の従業員がいる場合に、人事や職場の管理職、経営者などと治療や職場復帰に関する調整を行う役割です。

 

EAPを実践するうえでまさに要となる職種で、良いコンサルタントがいるかいないかでその効果は大きく変わってきます。

 

理想を言うのであれば、EAPカウンセラーとEAPコンサルタントは別の人員で用意したほうが良いです。

 

なぜならば、コンサルタントとカウンセラーが一緒だと、メンタルヘルス不全を起こした従業員は「ここで話したことが人事部などに伝わり、自分の昇進などに響くのではないか」と考え、自由な発言を保障することが出来なくなるからです。

 

しかし、実際はEAPコンサルタントとEAPカウンセラーを兼務しているという例は少なくありません。コンサルタントの役割の中には当然、医師やソーシャルワーカーなどとのやり取りも含まれます。

 

そのようなやり取りをするには、基礎知識だけでなく、精神障害に対する専門知識も必要となります。

 

そのような理由からも、EAPカウンセラーとコンサルタントを兼務するスタイルのプログラムを組む企業は少なくありません。

 

理論的には両者は別職種だけれども、実践的には同一職種として扱われることが少なくないというのが現状です。

 

余談ですが、「こんなに年をいってからカウンセラーを目指しても無駄ですよね?」という質問を受けることがあります。

 

産業分野のカウンセラーは、年を取っていれば不利ということは全くなく、今までの社会人経験がすべてプラスになります。

 

むしろ社会人経験が長く、カウンセリングも学んだ人材というのはどの企業もほしがる人材です。

 

もし、「長く会社に勤めているけれどもカウンセラーにも興味がある」という人がいるのであれば胸を張って産業分野を勧めたいと思います。

 

 

事例を挙げて

それでは、今までの話を踏まえて事例を見てみましょう。

 

********

 

A社のある部署では、毎年何人か必ず休職者を出す部署が存在します。経営陣はこの事態を重く見て、さっそく外部EAPを採用しました。

 

外部EAPを行う会社(B社)は、この問題に対するEAPを作成するために、EAPコンサルタント(兼カウンセラー)を派遣し、A社のヒヤリングを行いました。

 

EAPコンサルタントは、管理監督者から聞き取りを行い、働き方の調査を行った結果、業務が多忙であり、その部署のほぼ全員が「月間80時間の残業」を行っているとのことでした。

 

残業が多いこともあり、人件費が高く、その分多くの仕事を回さなければならない自転車操業の状態でした。コンサルタントは休職者とも面談を行ないました。

 

社内でも有名な多忙な部署であり、従業員一人当たりに課せられるノルマも非常に高く、それを達成するためには、日常的に残業を行わなければならない状況にあるとのことでした。

 

ある休職者は、「またあの部署に戻るならば、すぐに体を壊してしまいそうなので退職を考えている」と言っていました。

 

コンサルタントは産業医とも面談し、聞き取りを行いましたが、従業員との過重労働面接はほとんど行われていないということでした。

 

また、事業場の中を観察したところ、ノルマの未達成、ミスなどに対する叱責が激しく職場の雰囲気は最悪ともいえる状況でした。

 

この状況を自社に持ち帰り、当該ケースのEAPの作成を始めました。話をまとめると以下のような状況が、この部署から休職者を生み出している原因になっているのではないかという話になりました。

 

・日常的に人件費がかさみ遂行能力以上の成績を上げなくてはならない状況である。

・従業員自身がストレスに対してそれを察知する機会がない

・管理監督者が従業員の体調変化に対して察知する余裕がない

・事業場内に産業保健スタッフがいないために適切な介入が行われない

・2と3の理由から産業医につながらず必要な人が必要なケアを受けられていない

 

この5つの理由に着目してEAPを作成することになりました。具体的には、

 

・かかっている残業代の部分で新しい人材の投入。

・一人あたりの負担を減らすことで、遂行能力以上の仕事をしなくても良い状況を作り出す

・質問紙によるストレスチェックを隔月実施

・ストレスチェックである得点以上の従業員に対してEAPカウンセラーが面談を行う

・管理監督者に対して、メンタルヘルスに関する基礎的な講座を行う

・会社内に産業保健スタッフを設けて管理監督者が相談しやすい状況を作る

・内規で産業医面接の基準を決めて、産業保健スタッフはそれに該当する従業員がいれば、速やかに産業医面談を設定する

 

以上の事柄を中心としたEAPがA社に対して作成され、その結果、休職者が減少に転じました。

 

********

 

以上、例を挙げてEAPについて見てみました。

 

現在、EAPの需要は増加の一途をたどり、外部EAPの企業では多くの求人が出ています。メンタルヘルス不全の予防に興味がある方は、是非一度調べてみるのが良いでしょう。

 

 

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icon_4【執筆】

林田 一

臨床心理士

 

 

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