「悩みを吐き出して生きることはおかしいことではない」【平賀信吾さん Part2】
目次
喋らない家族
あと、我が家は私を含めて5人家族だったんですが、夕ご飯の時に誰も全く喋らないんです。
夕ご飯の時は、みんな同じ時間に席は着くようにしていたのですが、誰も喋らない。
積極的にコミュニケーションを取ろうとしなかったのか、みんなが何かの空気を読んだ結果、誰も喋らないほうが良いと思ったのか、私もよく分かりませんが。
昔からそういう感じだったので、私としては普通だと思っていたのですが、他の方に「そんなのあり得なくない?」と言われて、そこで初めて「うちの家庭って異常だったんだ」と気付きましたね。
「もう、授業料は払いません」
私自身、「両親と一緒に暮らしていくのは嫌だ」と思って、大学3年になったら家を出ようと目標を決めて、アルバイトを頑張ってお金を貯めていました。
親にも「大学3年になったら家を出る」と伝えていたのですが、3年になった時に突然、「もう授業料払いません」と言われました。
「それだけ貯金があるのなら、今回の授業料は自分でお金を払ってくれないか?こちらにも負担が大きいし」、と。
幸い、私が行った私立は授業料がそこまで高くはありませんでしたが、一生懸命貯めた貯金が一気になくなりました。
「自分1人でなんでもやっていけるだろう」と思っていた矢先、実はまだまだ親の影響を強く受けていたことが一番自分の中ではショックでしたね。
自立できない現実の壁
「あなたが大学に行きたかったんだから、自分でお金を出して行くのは当然でしょ」と言われましたが、そこで「そんなの関係ない」「自分は1人で家を出る」と言うのも納得ができなかったんです。
自分が思い描いていた理想と現実とのギャップを一番感じさせられた出来事でした。
大学をやめて家を出るか、両親の出した提案をのんで大学を続けるか、という選択肢しかなくなって、最終的には妥協する形で大学を続けることにはしました。
それが21歳くらいの話で、立ち直れたのは27~28歳ぐらいですね。
その間の5~6年は、どうやったら「現実の壁を乗り越えられるか」と、息も絶え絶えの状態が続いていました。
あの頃の自分は「自立=人生の目的」になっていて、それだけは自分の力で達成したかったので、それが叶えられなかったことで、心の傷が深くなったと思いますね。
冷戦状態の両親がいる食卓
その後も同じ家に住んでいましたが、両親は家庭内別居のような感じで会話はほとんどありませんでした。
「会話をしたら絶対険悪になる」と恐らくお互い分かっていたんだと思います。
休みの日は、両親も自分も家にいる時間が多かったのですが、両親が冷戦状態の中、自分はなぜか1人だけモソモソ飯を食べているのが、ものすごく辛かったです。
その頃には完全に両親のことを見ないようにしていました。
21歳で、両親が頼れる人間ではないということに気付いてしまったので、自分で自分の殻を閉じて、この人たちとは関わらないようにしよう、と決めていました。
母親の不満や愚痴を聞く役に
そんな険悪な家庭状況ではありましが、両親から歩み寄ってくることはありませんでした。
少なくとも、私自身がそう感じることはありませんでした。むしろ、母親がものすごく不満を溜めていたので、母親の愚痴を聞く役になっていました。
後々、「毒親」という言葉が流行って、私もある本を読んだ時に「自分の母親にも当てはまるところがあるな」と感じました。
母親としては、普段言えない言葉を私に出すことによって、なんとか自分を保っていたのかもしれませんが、私の不満はどこにも出すことができなくて辛かったです。
親の涙や怒りに触れて心が動揺する
一番印象的なのは、高校生の頃、母親が私の所に来て父親の悪口を言ったと思ったら、それ以外にも、いろいろと辛かった過去のことを話し出した時です。
東北の田舎から東京に出てきて、耳が聞こえにくいというハンデを背負いながらだったので、恐らく、「他の人以上に私は苦労しているんだ」という気持ちが拭い去れなかったんじゃないかと思います。
そういう生い立ちを泣きながら私に言うのですが、私としては、「気持ちは分かるけど聞かされてどうしたらいいの?」と。
親の涙とか怒りって普通に暮らしていたらあまり見ないと思うんですが、感情に直に触れてしまったので、心が動揺してしまいました。
どうにもならない現実はあるからこそ
大学生になって、自分の人生を自分で背負って、早く独り立ちして生きていこうと思っていたのは、両親や家庭環境から受けた影響だと思います。
その思いが変化したのはつい最近のことです。
一人で生きていこうとしても、どうにもならない現実は絶対あるよな、と気付いたんです。
今まで意地を張って一人で生きていこうとしていたけれど、逆に、それでうまくいかなかったから苦しい思いをしてきたのかもしれない、と。
そういうときに、辛い人同士で繋がって、持っている負担をみんなで分け合うことで、もうちょっと楽な生き方ができないかな、という考えにようやく辿り着けました。
そのきっかけが、日本離婚の子ども協会のルーツとなる、mixiのあるコミュニティとの出会いです。
「親、離婚、辛い」と検索する日々
28歳の時にmixiのコミュニティを見つけました。
mixiのコミュニティを見つけるまで、実は結構ネットで検索していました。
「親、離婚、辛い」とか「嫌」とか「うざい」とか…
いろんな言葉を検索窓に入れて、自分の愚痴とか気持ちの吐き出し場所を探していましたが、見つけられずに気持ちを溜め込んでいました。
ようやく、自分は一人じゃないと気づけた
それで、2011年の地震後の時、mixiのそのコミュニティを見つけて、書き込みを見た時に、「ここに書き込みをしているのは自分だ」と思えるぐらい自分が言いたかったことをいろんな人が話していました。
「今まで居場所見つけられませんでした」とか「ここに来たことによって自分の気持ちが楽になりました」とか。
あとは「離婚で辛い思いをしたけど、今は、一生懸命頑張って生きてます」とか。
そういった投稿を見て、ようやく「自分は一人じゃないんだ」と気付けて、ある意味、救いになるものを見つけた感じでした。
それまではずっと我慢して、溜め込んできていましたが、そのコミュニティでは我慢していることを吐き出すことが普通の空気になっていました。
そこから自分の中の価値観が180度変わって、こうやって生きることが別におかしいことではないんだ、と気付くことができました。
自分の苦しみを吐き出せるようになった
mixiのコミュニティを見つけた後も、見たりするだけで自分から書き込みはしませんでした。
その後、「自分はこういう経験をして、ここのコミュニティを見て、ものすごい救われた気分になりました」というメッセージを管理人の方に送ったんです。
管理人の方からも、そういう気持ちに共感してくれるメッセージをいただいたので、そこで気持ちが繋がったことが確認できました。
その経験があって、親しい友人に対しても、両親の離婚や今までの経験を言えるようになりました。
両親のことまどを友人に話して、空気が悪くなったり、ドン引きされたりしていたら、また閉じこもってしまったと思いますが、特にそういうこともなく、「まじ?大変だったね」と受け止めてくれました。
「こうやって吐き出すことは普通なんだ」とようやく思えるようになりました。
日本離婚の子ども協会での取り組み
今では、日本離婚の子ども協会で親の離婚を経験した方の居場所づくりを行っています。
自分自身、居場所がない中で生きてきて、色々と辛い思いをしましたが、他にも同じ思いをしている方がいると思っています。
そういった方がもっと気軽に集まれる居場所を作りたいと思っています。
多分、カウンセラーさんは心のケアや改善はしてくれるとは思うんです。ただ、それだけではなくて、気持ちの繋がり合いみたいなものが欲しくて、当事者同士が出会える場所を作っています。
親の離婚を受け止められていない人は多い
この活動をしていて、「実は、うちも両親が離婚しているんですよ」っていう方にお会いすること多いんですが、お話を聞くと、半分ぐらいの方は離婚のことを「気にしたことなかった」っておっしゃるんです。
理由を聞くと、家庭内で離婚の問題をうまく処理していたり、子どもに負担が出ないように両親なりに話し合いを済ませたりして、本人がすんなり割り切れるようにできていたんだと思います。
ただ逆に、残りの半分は不満や辛さを抱えたまま大人になってしまっているんですよね。
私自身は、親の離婚を経験した全ての方に対して居場所を作りたいというわけではないので、「悩みを持った人はうちの所に来れば、その負担がちょっとは減らせるかもしれない」っていう感じで提案していきたいと思っています。
参加者が素直に通じ合うこと
実際に、日本離婚の子ども協会の会に出てくださっている方は、平均30~40歳ぐらいの方が多いです。年長者だと、60代の方もいらっしゃいますよ。
多くの参加者の方は、両親が離婚した結果、離れ離れになった方の親ともっと早く再会して交流ができれば、自分の中の気持ちをもう少し早く消化できたんじゃないか、という話をされていますね。
それぞれ離婚の形や現在の生活は違うので、ひとくくりにはできないですが、自分が経験したくもなかったのに経験してしまった、という理不尽な気持ちは素直に通じるものはありますね。
だからなのか、自分の経験を話すと、「あー、分かる分かる。そうだよね、そういうことよくあったよね」と、内容はネガティブなのですが、参加者同士の会話は盛り上がります。
現在進行で両親の離婚問題に直面して、悩んでいた時期は終わっていたとしても、「過去の消えない思いを外に出したい」とうちの団体に来てくれて、色々と話すことで満足してくれます。
みんなで気持ちを共有して負担を減らす
会話の内容がネガティブで、怒りや悲しみの感情が出やすい話題になりがちです。なので、極力そこに参加者が引っ張られないようにしよう、と心掛けています。
あくまでも、みんなが気持ちを共有して負担を減らしましょう、という取り組みなので、話題の出し方などを工夫して、まずい雰囲気にならないように気を付けています。
他にも、依存的な関係にならないように配慮しながら会を運営しています。
うちの団体に参加すれば、今後人生がものすごく明るくなって、希望に満ちたものになる…と期待を持ちすぎて参加されても、そこまでのものは提供できないので、事前の説明も丁寧にするようにしています。
親の立場からの相談も来るように
子どもを子どもと思うのではなくて、自分とは全く別の人間として、「どう生きたいのか」「どういう未来を求めてるのか」といったところを見つめて欲しいと思います。
私自身、この団体をやっていて、「離婚した」または「離婚しそう」ということで悩んでいる親側からも問い合わせが来るんです。
「離婚すると子どもに悪い影響があるかもしれないけど、どういう対応をしたら良いんですか?」
「子どもはどういう負担、不満を持っているのか?」
といったメッセージも結構来るんです。
そういう相談に対しては「とにかく向き合ってほしい」といったことを伝えます。
両親が離婚しても立派に生きている人はたくさんいると思うので、親の離婚で子どもがグレたり、引きこもりやニートになってしまうのは、またちょっと別の話だと思うんです。
先日も、そういった親からの相談がありましたが、
「まず個人として、あなたが人生を安定させて、安定してから子どもと向き合ってみてはどうですか?」
「子どもは親のことをよく見ていると思うので、親がきちんと自分の心を安定させて自立して生きていけば、子どもはそういうところを見て、親から学んでいくのではないでしょうか?」
ということを伝えました。
悩みを受け入れて、自分を出せるような社会に
将来的な話になりますが、自分たちのような悩みを抱えた人たちが、悩みを受け入れて、自分を出せるような社会になって、子どもたちが我々の姿を見て、「悩みや感情を吐き出して生きることがおかしいことではないんだ」と気付いてもらえたら嬉しいです。
自分たちの経験を子どものために役立てて、子どもたちがその思いを持って大人になって、それをまた子どもに伝える…。そういった良い循環できるようになるのが理想です。
そのためにも、まず悩んでいる自分たち自身が悩みを解決しないといけないですよね。
悩みを過去形で語れるようになって、それを基に未来に目を向けられるようになると、希望を持って生きていけると思います。
味方は絶対にいる
私は専門家ではないので、あくまで経験に基づいた個人の意見ですが、自分の中での考えが2つあります。
一つ目は、頭が痛いとか気持ちが悪いとか、そういう身体の面での負担は、お医者さんを頼ったほうが良いと思います。
カウンセラーさんでも精神科でも診療内科でもなんでも良いので、そういうお医者さんに頼って、薬を飲んだりして、体調そのものを良くするのは、お医者さんなどの専門家を頼った方が良いと思っています。
二つ目は、体調が治ってからようやく心の負担と向き合う時は、仲間や居場所を見つけることが、悩みを減らすのには大切なのではないかな、ということです。
それは私自身がそういう経験を通して楽になったから。
別にうちの団体でなくても、もし身近にそういう愚痴を言えるような仲間がいたり、大切にしている居場所があれば、そういう所に頼って、自分の中の出してない部分を出してもいいと思います。
一人になって辛い時期があるかもしれないけれど、探し続ければ絶対に味方は見つかると思います。
もし、私たちの団体を見て、「この人たちは味方になるかもしれない」と思ったら、その時はコミュニティやホームページを覗いていただいて、まずは我々のことをちょっと知ってみてください。
その上で、もし何か心に変化があれば、いつでもメッセージを待っています。
【平賀信吾さんインタビュー完】
平賀信吾さん全インタビュー
【Part1】両親の離婚と「日本離婚の子ども協会」の設立に至るまで
【Part2】「悩みを吐き出して生きることはおかしいことではない」
インタビューを受けてくださる方、募集中です
臨床心理士、精神保健福祉士、看護師、保健師、産業カウンセラー、支援機関の職員など、すでに多くの方にインタビューを行っています。ご自身が、有名かどうか、権威かどうかは関係ありません。
また、精神疾患などの当事者の方、メンタルヘルスや人間関係でお悩みの方などのインタビューも行っております。
これまでの経験・取り組みや、ご自身の想いを読者に届けていただき、Remeのミッションである「こころの専門家へのアクセスの向上」「こころの健康に関するリテラシーの向上」の実現のために、お力をお貸しいただけますと幸いです。
ご興味をお持ちいただけましたら、下記フォームよりお問い合わせください。24時間以内にご連絡いたします。
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- 本記事は2017年7月31日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。