お腹がすくと人が変わるって本当?【米国心理学会の研究から】
お腹がすいて不機嫌になったり、つい八つ当たりをしてしまったりしたことはありませんか?
英語では、 “hungry”と”angry”をつなぎあわせた“hangry”と言う言葉がよく使われ、最近オクスフォード英語辞典にも掲載されました。それだけ一般的な体験なのでしょう。
これまで、血糖値が下がると、自分をコントロールするエネルギーが不足するためではないかと考えられてきました。
しかし、2019年に雑誌“Emotion”(アメリカ心理学会発行)で発表された研究により、実はもっと複雑な心理的な仕組みがあることが示されました。
空腹だけではネガティブにならない?
この研究によると、空腹時に、ネガティブな感情や態度が引き起こすのは、
“自分の状態への気づき(self-awareness)”を欠いた状態で、
嫌な”きっかけ(context)”が加わったとき
であるようです。
例えば、空腹時に重要な会議に出なければならないという「きっかけ」が加わったり、今の自分の状態に気づけない状況になると、ネガティブな感情を引き起こすということです。
あくまで空腹は、ネガティブな感情や態度の間接的な要因であるということがこの研究で示唆されています。
実験内容から分かる4つのこと
この研究の実験の1つ目は、事前に嫌な画像や心地よい画像などを見た後に、漢字(英語圏でなじみのないあいまいな刺激として)の印象を評価し、自己評価による空腹感との関連を調べるものでした。
2つ目の実験では、退屈な課題をどのくらいの長さ続けられるかをまず測りました(自己制御力:self-regulation)。
次に、いくつかの表情を見て質問に答えることで、特定の感情に注意を向けた後、突然パソコンが動かなくなり、それを実験者に注意されるという場面作って、実験中の感情や実験者への印象を調べるものでした。
こちらは、最後の飲食からの時間によって被験者を2群に分け、より具体的に空腹状況について統制しています。
この2種類の実験から、以下の結果が得られました。
・空腹だけでは、馴染みのない漢字への評価に影響がない
・空腹でも課題に取り組む時間は変わらない(自己制御に影響しない)
・空腹に加え、特定の感情に注意を向けなかった人は、特に嫌悪感(hate)を体験しやすく、実験者を批判的(judgemental)であると評価しやすい
つまり、空腹だけでは、出来事や人に対する評価や感情にはさほど影響せず、空腹状態に不快な刺激(きっかけ)が加わった時にはじめて、反応に差が出るようです。
また、感情に注意を向けることで、空腹によるネガティブな感情や評価を避けられる可能性も示唆されています。
ただ、お腹がすいていてもすぐに何かを口にできるとは限りませんし、そのまま重要な会議に出なければならない…なんてこともありますよね。
今回の研究結果は、そんな時にも落ち着いて行動できるためのヒントになりそうです。
感情が生まれる背景
この研究の背景には、「心理的構成主義(Psychological constructionist)」という考え方があります。
心理的構成主義とは、
私たちは身体的な変化を、置かれた状況(context)の中で意味づけることによって、感情を体験している
というものです。この研究においても、
【空腹】⇒【状況・自己認識】⇒【感情・態度】
というように、空腹が、状況や自己認識と絡み合って感情や態度を作り出すことが示されています。
今回の結果は、空腹以外の疲労や炎症など他の身体的要因に関しても、応用できる可能性もあります。
空腹時にネガティブ感情を引き起こさないために
では私たちは、この結果をどのように活用したらよいのでしょうか。
空腹に気付いたら、すぐに何かを口にできるのが、もちろん一番理想的です。
ですが、社会生活を送っていたら、なかなか難しいことも多いですよね。
そんな場合の対処法のパターンは以下の2種類が考えられます。
1.不快な刺激・きっかけを避ける
〇ストレスフルな状況を避ける
⇒空腹時は、嫌な人に会うことや、面倒な仕事を後回しにする
⇒休憩を取るなどして、ストレスフルな場から離れる
〇重要な判断を保留にする(ネガティブな判断を下しがちなため)
〇心地よい状況に身を置く
⇒好きな音楽や写真、香りなどに触れる
2.自分の状態に気づく
〇大事な会議や、ストレスフルな場に向かう前に、今の身体の状態や気持ちを確認する
〇普段から練習できること
⇒マインドフルネストレーニングで気づきの力を高める
⇒「お腹空いたなぁ」「ちょっとイライラしているなぁ」などと、つぶやくのを習慣にする。(心の中でも十分)
空腹に限らず不調の時は、まずは不快な刺激・きっかけを避ける工夫ができるとよいでしょう。
ただ、そうは言ってもできないことも多いと思いますし、対処行動につなげるためにも、自分の状態に気づくことも非常に大切です。
嫌なことがあっても、
「今はいつもよりイライラしやすい状態かも」
と気付くことで、考えや行動を調整することができます。
とっさにやろうとしても難しいので、普段から練習して身につけておけるとよいですね。
さいごに
空腹が直接的に態度に影響するわけではありません。
空腹のため気分が変化していることに気づかないまま、嫌(negative)なきっかけがあると、不機嫌になるのです。
きっかけになりそうなことを上手に避ける、自分の状態にきちんと気づくなどの工夫を実践して、空腹を落ち着いて切り抜けていきましょう。
【参考】
Jennifer K.M., Kristin A.L (2019). Feeling Hangry? When Hunger Is Conceptualized as Emotion. Emotion,19,301-319, http://dx.doi.org/10.1037/emo0000422
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- 本記事は2019年7月17日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。