うつ病を4回経験。精神科医に説教された過去
くまの
岡本先生は、ご自身もうつ病になったそうですね。しかも、4回も…?
岡本さん
そうです。
最初にうつ病を発症したのは、中学1年生のときでした。
陸上部に入ったばかりの5月に、初めての試合に出たんです。それまでは、「走ること」はとても「楽しいこと」だと思っていました。
競技場に着いた瞬間に、今まで味わったことのない緊張や恐怖を感じたんです。
岡本さん
そうです。競技場に着くまでは、「入部していきなり試合に出られるなんて嬉しい」と思っていたんです。
なのに、いきなり吐き気や腹痛が止まらなくなって…。その状態でスタートして、気が付いたら、地面に倒れて吐いていました。
「特に、前触れもなかったですね」
岡本さん
それから、走ろうと思うと吐いたときのイメージが浮かんできて…。だんだん食べられなくなって、眠れなくなって、最終的にはうつ病になりました。
岡本さん
もしかしたら、無意識にプレッシャーは感じていたのかもしれないです。陸上部に入って、いきなり先輩たちに勝って、試合に出させてもらって。
だけど、自分では「これから陸上選手として頑張ろう」と思っていました。自分の身になにが起きたのか、最初はよく分からなかったですね。
岡本さん
病院にも行ったんですけど、まぁ、今から25年以上前なので。子どものうつ病にあまり理解がない時代だったんです。
体に聴診器を当てても、先生からしたら異常がないんですよね。「スポーツをやっているなら、これくらい乗りこえなくてどうするの!」と説教されて…。
岡本さん
そうです。
「乗りこえ方が分からないから、病院に来ているのに…」と思いました。
結局、病院に通っても治療らしいことをしてもらえなくて。中学3年生で「もう無理です」と陸上を離れてから、やっと症状が落ち着いていきました。
岡本さん
2回目のうつ病は、高校3年生のときです。受験勉強で自分を追い込んでいたので、「眠れない」「食べれない」の症状がまた出てきて…。
3年生の終わりくらいには、「死にたい」と思う気持ちが強くなっていました。
くまの
受験勉強のプレッシャーに、とても苦しんでいたんですね。
岡本さん
親がとても厳しい人だったんです。テストでいい点数を取らないと、母は泣いて、トイレで吐くこともありました。
岡本さん
そうです。自分のせいで母親が泣きながら吐いている様子は、子どもにとっては辛いんですよね。
ただ、いきなり死ぬのも怖かったんです。だから「現役で受験が失敗したら死のう」と決めて、遺書も書いて、受験に臨みました。
岡本さん
受験当日は頭が働いていない状態だったんですが、なんとか合格しました。
それから、大学でまた陸上を始めたんです。最初は思うように体が動かなかったけど、少しずつ昔の勘を取り戻していきました。
岡本さん
でも、「だんだんいい記録を出せるようになってきたな」と思っていたときに、大きな怪我をしてしまったんです。ももの裏の肉離れなんですけど、何回も繰り返して、走れなくなってしまって…。
岡本さん
大学にも行けなくなって、3回目のうつ病を発症しました。
結局そのときも、しっかりとした治療はしなくて。復活はしていないけど、なんとなく動けるようになったかな?くらいで大学を卒業したんです。
岡本さん
4回目は、社会人のときです。精神科医の仕事が忙しくなってきて、つい自分を追い込む悪い癖が出てしまって。月に1回は胃の調子が悪くなって、熱を出すのを繰り返しました。
やがて眠れなくなって…。運動していないのに、体重が1年で10キロ以上減りました。
岡本さん
食べていないわけじゃないんですけど、どんどん痩せていきました。それだけ、体も心も弱っていたんだと思います。
周りの人の評価よりも、自分が「できた」と思うことが大切
くまの
どうやって、4回目のうつ病から回復していったんですか?
岡本さん
それまでは、なんとなく体調が良くなって、また悪くなってを繰り返していました。4回目のうつ病のときは自分も精神科医だったので、さすがにしっかり治さなくちゃと思って…。
幸い、周りは精神科医だらけだったので。専門家に相談して治療を進めていくうちに、症状も落ち着いていきました。
岡本さん
あとは、「自己肯定感」がとても低かったので、「自分は“だめ”な人間なのか?“だめ”なところがあるとしても、本当にそれだけなのか?」と考えるようにしたんです。
くまの
自分のだめなところだけではなく、いいところを探すということですか?
岡本さん
そうですね。どんな小さなことでもいいから、
自分の“できているところ”を認めてあげることが大切だと思います。
自己評価が低い人は、「自分の“できていない”ところ」と人の“できている”ところ」を比べるんです。当然、勝てるわけがないんですよね。
かつ、自分の“できている”ところは、「できてあたりまえ」だと思ってしまう。だから、前にできたことを失敗してしまうと、「前はできたのに…」と落ち込んでしまうんです。
くまの
その考え方は、自分をどんどん追い込んでしまいそうです…。
岡本さん
私も、最初は
「こんな小さなことができたって意味がない」と思うこともありました。そんなときは、同時に
「できていることには変わりない」と考えるようにしたんです。
そうやって考えていくうちに、「今日は〇〇が駄目だった。でも、〇〇はできた」と思えるようになりました。気持ちが落ちるだけで終わらなくなったのは、自分でもいい方向に変わったなと思います。
くまの
「できた」と思うことは、自分にとって小さなことでもいいんですか?
岡本さん
もちろんです。周りの人に評価されることが大切ではなくて、自分で「できた」と思うことが大切ですから。
くまの
うつ病のときに、岡本先生が救われた言葉はありますか?
岡本さん
うつ病の症状が辛くて、薬を何回変えてもまったく眠れないとき、自分では「もう回復なんて無理だ…」と諦めていたんです。
そんなとき、担当医の人に「私はまだ諦めていないから」と言っていただけたことは、希望を感じましたね。
岡本さん
そうですね。回復してから思い返しても、先生の言葉は自分にとって大きかったなと思います。
あとは、友達の言葉も支えになりました。
うつ病の症状が少しずつ良くなって、走ることも再開したんです。でも、発症前のようにはまったく走れなくて…。それでも、「今日は5分走れたよ」と友達に報告はしていました。
くまの
走ることを再開しただけでも、すごいなぁと思いますが…。岡本先生にとっては、悔しい記録だったんですね。
岡本さん
うつ病になるまでは、フルマラソンを走っていたので…。そのときの自分と比べて、「今の自分はこれだけしか走れないのか」とがっかりしていました。
そんな中、友達が「この前は5分だったのに、今日は10分走れたんだ!」「走れる距離も伸びてきたね!」と言ってくれたんです。その言葉に、「そういえば、そうだな」とストンと納得することができたんです。
くまの
客観的に、“できるようになった”事実を教えてくれたんですね。
岡本さん
そうです。新しい視点から意見をもらうことで、自分では気が付けなかったことを知ることができました。
外来で「自分のすべてを伝えよう」と意気込まなくても大丈夫
くまの
心が疲れている人が病院に行きたいときに、ぐったりした状態で病院を探すのって、とても大変だと思うんです。自分に合う病院を探すために、なにかいい方法ってないですか?
岡本さん
そこは、本当に難しいところだと思います。ホームページには、どの病院にもいいことが書いてありますし。口コミも自分に当てはまるものばかりではないから、参考意見程度に留めたほうがいいかと思います。
くまの
じゃあ、やっぱり実際に病院に行くしかない…?
岡本さん
そうですね。行かないと分からないことがあるのは事実なので、
病院に行く前に、いろいろな情報に振り回されないほうがいいかなと思います。
初診で先生のことがよく分からなくても、診察を重ねていくうちに、先生との信頼関係を深めていける場合もありますし。
まずは病院に行ってみて、何回か診察を繰り返す中で、病院や先生との相性を見てみるのがいいと思いますよ。
岡本先生のクリニックは、木が好きな先生の希望でウッド素材がメイン。木のいい香りが安心します。
くまの
「病院に行く程か分からないけど、お話を聞いてほしい」と思った人も、診察に行っていいんですか?
岡本さん
当院では、病気の診断がつかない場合でも、ご相談に来ていただいて大丈夫ですよ。
くまの
「その程度で病院に来るなよ!」って、冷たくされたりしないですか…?
岡本さん
まぁ、ひとつの見分け方というか、参考程度なんですが…。
1日に数百人の患者さんを見ているような大きい病院だと、「じっくり話を聞いてほしい」と思っている人には合わないかもしれないですね。
予約を受けている患者さんを、時間通りに診察しなくてはいけないでしょうから。
くまの
時間に追われて、ゆっくりお話ができない場合もあるんですね。
岡本さん
医師によっては、
「こんな軽い症状で来るんじゃないよ!」という態度を見せるかもしれません。その医師が忙しくて余裕がないのか、診断が付かない人は受け付けたくないのか、それぞれ理由はあるでしょうけど…。
そういう態度をされるようなところは、「こちらから願い下げだ!」という気持ちでいるようにしましょう。診察を重ねても、その医師とは噛み合わない可能性が高いですからね。
「北本心ノ診療所」の診察室には、患者さんが作った猫の羊毛フェルトが並べられていました。
くまの
初めて精神科を受診する人が、行く前に準備しておいたほうが安心なことってありますか?
岡本さん
慣れていないと緊張するでしょうから、「自分のすべてを伝えよう」と意気込まなくても大丈夫です。
何回か病院に通う中で、「少しずつ伝えていこう」と思っていただければいいと思いますよ。
待合室には、精神疾患の本や、ファッション雑誌、レシピ本などがたくさん。
岡本さん
ただ、「大事な症状を伝え漏らしたくない」という気持ちもあると思うので、
伝えたいことを紙に書いておくのもいいと思います。携帯のメモに残しておいたり。
メモを先生に見せるのもいいし、見ながらお話しするのもいいですね。
くまの
先生に伝えたいことを忘れてしまったり、話すことが苦手な人にもぴったりの方法ですね!
岡本さん
もちろん、長文すぎると先生に読んでもらえない場合もあるので…。
「この3つは伝えたい」と思うことをピックアップするとか。
文字として残しておくと、「前回これを伝えたから、今回これを伝えよう」と考えやすくもなるんです。紙に書いた場合は、コピーを取ったり、写真を撮っておくといいかと思います。
コミックもずらり。岡本先生は「こち亀」ファンだそうです。
くまの
岡本先生から、診察に来る人にお願いしたいことや、伝えたいことはありますか?
岡本さん
「生活に運動を取り入れましょう」とは、診察の中で伝えています。月に1回ほど、病院でもランニング講座を開催しているんですよ。
岡本さん
もちろんです。一方的にこちらが教えるというより、「一緒に走りましょう」というイメージですね。
重いうつ状態のときは、私も動くどころではありませんでした。誰でも、どんな状態でも運動すればいいいというわけではない。
ただ、動くことがプラスに働く人が多いのも確かです。無理のない範囲で、運動に触れていただきたいなと考えています。
くまの
先生が運動をおすすめするのは、運動後の達成感を味わってほしいとか、すっきりするとか、そういうことが理由で?
岡本さん
もちろん気持ちの面もあるんですが、
運動することで脳の神経回路を強くするなど、理屈の面でも運動はとてもメリットがあるんです。
体の健康だけではなく、心の健康にも運動は大切なんですよ。
過去に実施したラン教室の様子。親しみやすい文章で、見ていると参加したくなります。
くまの
しっかりとした根拠があると聞くと、運動へのやる気も出てきますね。
岡本さん
当院の患者さんでも、電車にも乗れないほどのパニック障害の方が、
ホットヨガを始めたことで症状が和らいだことがあります。もちろん、適切な治療は並行して行っていましたよ。
でも、治療の力だけではないと思います。
自主的にホットヨガを始めてからは、「電車にも乗れるようになったんです」と嬉しそうに報告をしていただきました。
岡本さん
私自身も、運動を取り入れることで8年ほど安定した状態を保っています。できる範囲で、体を動かしてほしいなと思います。
くまの
最後に、この記事を読んだ方に伝えたいことはありますか?
岡本さん
「生きづらさ」を感じていることは、なかなか人に言えない場合も多いと思います。ただ、もちろん当院のようなクリニックでも、それ以外でも、
自分の気持ちを共有できる場所と繋がってほしいです。
今はSNSもありますから、ネットの中でもいいですよね。私でよければ、Twitterのアカウントもありますので。どうか、自分ひとりだけで抱えることがないように。
もちろん、人と繋がることですべてが解決するわけではありません。でも、その繋がりがどこかで活きると思います。そのときは分からなくても、後から思い返して「あの言葉に支えられた」と気がつくことがあるかもしれません。
そんな繋がりを、どこかに作っていただけたらなと思います。
「精神疾患って甘えでしょ?」
そんな人には、自分の症状を、まずは知ってもらうこと。精神疾患を否定する、相手の気持ちを知ろうとすること。自分ができるラインを、相手にしっかり伝えること。そして、どれだけ対話しても、理解してもらえない人はいると割り切ること。
その4つが大切だと、今回のインタビューで岡本先生に教えていただきました。症状が重いときは、このすべてを実践することはとても難しいかもしれません。
少しずつ回復していく中で、「これならできる」と思うものから、ぜひ試していただけたらなと思います。