心理学者としてのターニングポイントと『ウルトラ不倫学』で伝えたいこと【杉山崇さん 3/3】

今話題の『ウルトラ不倫学』の著者で、臨床心理士の杉山崇教授へのインタビュー最終章です。杉山先生がターニングポイントとして挙げた出来事や、『ウルトラ不倫学』についてお伺いします。

 

 

うつの世界を経験

私のターニングポイントになったのは、1つは私自身が4年間ぐらいうつ病の世界を経験したことです。

 

大学院の修士2年目の途中でした。その時に、当時うつ病の研究をしていたので、うつ病の人の気持ちばっかり考えてたんです。

 

「うつ病の人には世界がどう見えるんだろう」って、そればっかり考えていて、うつ病の人の気持ちを私の心の中に再構成しようとしてたら、出てきてしまったんですね。うつが。

 

そしたら、自分自身の人生もだんだん絶望的に見えてきて、「これがうつ病の世界か、こんなに消えたい気分になるんだ」というのを知りました。

 

 

4年間続いた「うつ」

毎朝、目を覚ました時から涙があふれてくる。「これがうつか」ってね。頭じゃ客観的に分かっているんですが、頭と感情は別回路なので、感情の回路の方は完全にうつ状態でした。

 

うつの状態は4年ぐらい続きました。それこそ研究もやりつつ、バリバリ実践の活動もやりつつ、忙しい時期で。うつ状態で結構辛かったけど、やることはやりました。

 

周りには迷惑を掛けてしまうこともありました。うつの症状が本当に重い時は動けなかったりするので、そういう時は休まなければならず…。

 

「申し訳なかったな」と思いながら、仕事もなんとか続けて、研究も続け、うつも続けてっていう感じだったんです。

 

 

クライアントを身近に感じられるように

でも、この経験のおかげで私の臨床が変わったんです。実際にうつを体験したことで、クライアントに共感することが怖くなくなりました。

 

クライアントに見えている世界を見るのが怖くなくなったので、クライアントのことをとても身近に感じられるようになったんです。

 

うつは辛かったけれど、クライアントを身近に感じられるようになったのはとても嬉しかったです。不思議なことに、うつ病のクライアントだけじゃなくて、統合失調症の人も身近になりましたし。

 

うつ病を経験したことであらゆる人が身近になったので、これが私のターニングポイントと言えるかな、と感じています。

 

 

疑ったことのない信念

うつ病で辛い時、自分でコントロールできない部分とかも出てきますが、私の原動力は「自分はこのために生まれたんだ」と思っていたことなんです。

 

「自分は心理学者になるために生まれたんだ」という信念。そこは疑ったこともないし、信じています。ミュージシャンになるのを嫌にならなかったら、音楽を仕事にしていたかもしれないし、バブルがはじけなかったらバブル入社をしていたかもしれない。

 

でもちょうどバブルがはじけて、「お金の時代が終わって、心の時代が来る」と実感できる場面があったから、「そういう風に私の人生は作られてるのかもしれない」と思うのです。

 

私が心理学を目指したわけではなくて、私が心理学を後押しするようにいろんなものが動いた気がするんですよね。だから「これが運命だったんだろう」って思うんです。どんな状態になっても、そこは全力で続けています。

 

 

ウルトラ不倫学…愛と感謝がある不倫はアリ?!

うつの経験を通して、価値観の部分は柔軟になりました。「人間ってやっぱり生物なんだな」って。

 

「ウルトラ不倫学」にも書いているのですが、心がある不倫はあっても良いんじゃないかなって思うんです。人の心を忘れてない不倫なら。

 

人の心を持っているからこその不倫っていうものがあるんですよね。こういう不倫は、それはそれで「1つの人の生き方としてありなのかもしれないな」なんて思えるのも、セラピストとしての経験値の中で得たものなんです。

 

人に対する見方はとても柔軟になりました。「愛と感謝がある不倫」はあっても良いのかなと。いろんな人がいて、いろんな見方があっていいのではないかと思います。

 

ただ、人権を無視して生きる人たちだけは許せない、ここだけは変わらないですね。

 

 

「 不倫」というタブーに切り込む

私は不倫の専門家ではありませんが、今年は「不倫」をテーマにいろんな本やドラマやニュースがありましたよね。

 

これまで学者さんって「不倫」というテーマを避けてくることが多かったんですけど、私は、人間を考える上では本当は避けられないテーマの1つなのではないかと思います。

 

今年のいろんな不倫ニュースをきっかけに、「不倫というものを通して人間を考える」機会が増えてきたのではないかな、と少しだけ思っているんです。不倫を前向きに捉えるドラマも増えてきましたしね。

 

「ウルトラ不倫学」、最初にオファーを受けた時は、「えー?!」と思いました。不倫って、これまであまりテーマに上がることがない、タブーなものじゃないですか。

 

それを書くのはちょっと勇気がいりますよね。しかも、最初のタイトルは「超ウルトラ不倫学」だったので(笑)。

 

でも、自分のいろんな経験を通して得た「柔軟な考え方」に基づけば、不倫だって良い不倫と悪い不倫があって、下衆なだけの不倫もあれば、「愛と感謝」がある不倫もあるのではないか、ってそう思うのです。

 

 

愛することは働くこと

私の座右の銘は、「愛することは働くこと」。

 

これは、フロイトの言葉なんです。「愛する」というのは「何かを大切にしたい」って思うことで、「働く」ということは「大切にするために手を抜かない」ということだ、という意味です。

 

愛する者がいれば人は生きがいがあります。働くことができれば、愛する者と長く一緒にいられるわけで、そういう生き方をいろんな人に「良いものだな」って分かって欲しいですね。

 

それが「不倫」にもつながってくるのかもしれません。「愛と感謝がある不倫」はまだ良いと思います。まだ人の心があるっていう意味で。「愛と感謝のない不倫」は鬼畜な不倫です。

 

自分自身だけではなく相手が家族を持っていたら、相手の家族に対しても感謝をしなければいけません。

 

相手の家族がいてくれるおかげで、その女性はこの世に存在しているわけですから。間違っても「奥さん死なないかな」とか「旦那死なないかな」なんて、そんなこと思ってはいけない。

 

 

非日常を支えてくれるのは「日常」

不倫って非日常だから良い面もあると思うのです。日常の関係になってしまうと、仲良くできないかもしれないじゃないですか。非日常であることを支えてくれるのは「日常」なんです。ですから相手の家族にも感謝をしなきゃいけないと思います。

 

人生の楽しみっていうのは不倫だけではないですからね。私は「不倫をしよう」と思ったことはありません。ほかにやりたいことがたくさんありますからね。

 

でも、「不倫をするのが自分の運命なんだ」っていう風に思うきっかけがあればするかもしれませんが(笑)。まだそう思うようなきっかけがまだ今の所ないですね。

 

 

日常生活に役立つメッセージを伝えたい

本もまだたくさん書きたいテーマがあります。子どもがいるので、子育てに関する本なんかも書きたいですね。

 

心理学的に子育てで気を付けているのは、「ダブルバインド」なメッセージを子どもに与えないようにすること。ダブルバインドって、子どもが何をしたら良いのか分からなくなるんです。

 

例えば、キレたママがよくやることなんですけど、「あなた、何回言われたらやるの」と怒って、子どもが怒られて嫌々やり始めたら、「もういい、やらなくて」って言う。

 

これは子どもが何をしたら良いか分からなくて混乱してしまう典型的な例です。

 

だから、本気で怒ることはしないようにして、子どもに与えるメッセージは1つだけ。「やることはちゃんとやろうね」ということだけなんです。「はい、動いて」、これぐらいは言いますけど。

 

キレて、「もう何回言わせるの。もういい、やらなくて」。これはだめですね。そういう子育てなどの日常生活に参考になるメッセージをこれからも伝えていきたいな、と思っています。

 

【杉山崇さんインタビュー完】

PHOTO by 齋藤郁絵

 

 

杉山崇教授の最近の著書

ウルトラ不倫学

記憶心理学と臨床心理学のコラボレーション

 

 

インタビューを受けてくださる方、募集中です

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【専門家の方へ】

臨床心理士、精神保健福祉士、看護師、保健師、産業カウンセラー、支援機関の職員など、すでに多くの方にインタビューを行っています。ご自身が、有名かどうか、権威かどうかは関係ありません。

 

これまでの経験・取り組みや、ご自身の想いを読者に届けていただき、

Remeのミッションである「こころの専門家へのアクセスの向上」「こころの健康に関するリテラシーの向上」の実現のために、お力をお貸しいただけますと幸いです。

 

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  • 本記事は2017年1月5日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。