りたりこさん、就労移行支援事業のこと教えてください【LITALICOワークスPart1】
障害を抱えながら自分に合った働き方を探す上で、「就労移行支援」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
その一方で、
「就労移行事業って、自分が該当するかよく分からない…」
「本当に就職できるのか…利用料はかからないか心配…」
という方も多いのではないでしょうか。
そこで今回、就労移行支援を行っているLITALICOワークスさんの中の人に、就労移行支援について「全く知らない人」を対象に、分かりやすく教えていただきました。
>>【LITALICOワークス】インタビュー全4回まとめ【就労移行・障害者雇用】
今回、お話いただいた人
吉村紘樹さん(LITALICOワークス ヒューマンリソースグループ マネージャー)
恒吉麻実子さん(LITALICOワークス ヒューマンリソースグループ 社会福祉士)
そもそも、就労移行支援事業とは?
いきなりですが「就労移行支援事業」って何ですか?
恒吉さん:就労移行支援を一言で言うとすれば、「障害がある方が、一般企業への就職などを目指すにあたって使うサービス」といった感じになります。
その方が希望している職種だったり、「こんなお仕事したい」といった希望に沿ったスキルを身に付けるということが、就労移行支援の1つの役割です。
また、「どんな仕事が向いているのか」「どんな働き方が自分に合っているのか」「どんな職業人生を送ると自分が幸せになれるのか」といったことを、就労移行支援を行っている所に日々通いながら整理をしています。
これらをまとめると、「自分がどんな就職するんだろう?」ということをスタッフと一緒に考えて、就職するために必要なスキルの習得から実際の就職活動、就職してからの職場定着までのサポートを受けられるのが、就労移行支援事業所といったところでしょうか。
初めから色々決めておく必要はないですよね?
恒吉さん:そうですね。利用者さんの中にはもちろん、「この仕事に就きたい」と思って来られる方もいらっしゃいます。
その一方で、「自分に何ができるか分からない」「これまで就職したけれども上手くいかなかった」「自分で働けるんでしょうか」という方もいらっしゃいます。特に、全く働いた経験がない方はそういった傾向があるかもしれません。
全く働いたことない方もいらっしゃるんですね
恒吉さん:もちろん、いらっしゃいますよ。例えば、引きこもりの期間が長かったり、20歳になって精神の病気を発症されて、そのまま入院…という方は働いた経験がない場合もあります。
そういった中で、「自分ができること、できないことが何なのか」「自分は何に興味にあるのか、ないのか」ということを認識することが難しい方も利用者さんの中にはいらっしゃいます。
就労移行支援事業を受けられる対象はどんな人ですか?
恒吉さん:障害者手帳や自立支援医療の受給者証を持っている方、主治医から意見書をいただいた方などです。行政から障害福祉サービスの「受給者証」というのを出してもらって、それを使って就労移行支援を利用します。
たとえば、精神疾患の手帳を持っていなくても、医師から「就労移行支援事業所のサービスを受ければ、就職や自立のために良いね」という意見書をいただいた方などは、就労移行支援事業所のサービスを利用できるっていうことになっています。
受給者証や意見書の発行には、どのくらい期間がかかるんですか?
吉村さん:意見書の発行は主治医の先生によるところがあります。
受給者証の発行自体は、行政によって若干違うんですけど、窓口で申請してから、早くて2週間、長いと2か月くらいです。受給証が発行されて初めて利用契約が成立するという形ですね。
1事業所にあたり、何人くらい利用されているんですか?
吉村さん:LITALICOワークスの場合、登録者数ですと、1拠点あたり平均で30~35人くらいです。ただ、法律で利用できる方の上限の数が決まっているので、35人が毎日来ているわけではないのと、利用者さんの体調などによって、「週3日ぐらいからスタートします」というケースもあります。
割と自由に利用できるんですね
吉村さん:そうですね。基本的には、利用する前月に翌月の利用希望日を出していただいて調整していきます。
恒吉さん:ちなみに希望日程は、「その方が将来的にどんな働き方したいのか」という点を主に考慮して決めます。
例えば、フルタイムで働きたいという方だったら、少しずつ体調を整えた上で最終的にはフルタイムでの勤務や生活スタイルに慣れるためのリズムでシフトを組んでいきます。
就労移行と就労継続の違い
「就労移行」「就労継続」の違いはなんですか?
恒吉さん:就労系の障害福祉サービスの中には、「就労継続支援A型」「就労継続支援B型」「就労移行支援」という3つのサービスがあるんです。
LITALICOワークスが行っている就労移行支援は、一般企業などへの就職を目指すための事業所で、利用の期限は2年間です。
一方で、就労継続支援A型では、事業所を利用しながらその事業所自体と雇用契約を結ぶので、福祉サービスの利用でもあり労働者としての勤務でもある、という形になります。
就労継続B型は、お仕事をする点はA型と同じですが、雇用契約は結ばず利用契約のみです。
就労継続支援A型は「利用しながら働く」みたいな感じでしょうか?
恒吉さん:そんなイメージです。例えば、レストランになっている就労継続支援A型事業所があります。
一般的なレストランと表向きは変わらず、従業員として働いて、特別な事情がない限り最低賃金以上のお給料をもらいます。
一般的なレストランと異なる点として、社会福祉士などの支援員がいて、福祉サービスとして従業員をサポートをしている点です。
ちゃんと雇用契約を結び、福祉サービスの利用契約も結んでいるというところが就労継続支援A型の事業所となります。
ビジネスとしてもしっかりやっていく部分がありそうですね
恒吉さん:そうですね。就労継続支援A型の事業所だと、最低賃金分を稼がないといけないので、事業所でちゃんとお金を回すという経営面でのスキルも必要です。さらに、障がいを持つ利用者さんと雇用契約を結ぶ以上、その方に力を発揮してもらうための支援のスキルも必要になります。
就労継続支援A型の運営はとても難しそうですね
恒吉さん:そうなんです。今、就労継続支援A型の事業所が増えているんですよ。
そのため、ビジネス面で他社との差別化も意識しなければいけないし、利用者さんに対して適切な支援できるという意味でも差別化を図らないといけなくなってきています。
吉村さん:利用者さんの最低賃金は担保しないといけないので、普通の会社を経営しているのと同じですよね。
そこにプラスして、福祉事業所としての支援も行っていくので、よっぽどビジネススキルが高くないと、就労継続支援A型事業って経営できないんです。
就労継続支援B型というのはどんな所なんですか?
恒吉さん:就労継続支援B型の事業所は、利用契約を結んでいる点とお仕事をする点はA型と一緒ですが、雇用契約は結んでいません。
そのため、最低賃金の保障はないんですけど、お仕事に応じて、1ヶ月に1万~2万ぐらいの「工賃」と呼ばれるお給料みたいなものが 利用者さんに支払われる作業所といった感じです。
就労移行支援の2年間でちゃんと就職できますか?
吉村さん:LITALICOワークスの例になりますが、ほとんどの方が利用期間である2年以内にご就職されます。2年という期限は、私たちの目標でもあり、区切りでもあるんです。
ただ、2年間という区切りによって、「いろんな方を受け入れたい」という思いが当然ある一方で、「ちゃんと2年で就職まで支援しきれるのか」という思いもあり、そこがジレンマでもあります。
ですからその方の状況によっては、就労継続支援A型事業所で1年間ぐらいトレーニングしてから、就労移行支援事業所を利用するという方法もいいと思います。
恒吉さん:利用期限が一律で決まっている難しさはあります。ただ、どんなに障がいが重い人であっても、マッチする企業さえ見つかれば、すぐに就職が決まるんですよね。
吉村さん:実際、知的障がいのある方で、「挨拶が苦手」「笑顔を出すのが苦手」「パソコンが使えない」という方がいました。
ただその方は、すごく集中力が高かったんです。そういう能力が仕事とマッチすれば、就職は可能なんです。
LITALICOワークスは、長いこと働いていらっしゃる中で、うつになって仕事ができなくなったり、過去に失敗体験をされて、なかなか自分に自信が持てない方も利用されています。
その方々が、よりよく働くことを通じて、「自分らしく生きていく」ということを考えた時に、2年間という期間は人生にあっても良い時間だと思うんですね。必ずしも、早く就職する方が良いとも思わないですし。
いきなり病気をして、長い期間仕事をしなかった時に、「何をしたいか」ということを、もう1回リセットして考えたり、もう1回自分の中で再構築して物事を考えないといけないので、2年間という時間は適切な期間なのかなという風には思っています。
例えば、「朝9時には起きれないけれども、12時には必ず来れます」という方がいらっしゃった場合、その方が朝から働くことを望まなければ、12時から18時までの仕事を探してしまえば良いだけという考え方もできます。
人それぞれの働き方について、こちらから「型にはめない」ということも、支援させていただく上で、私たちは大事だと思っています。
就労移行支援事業を経て、一般就労という感じですか?
吉村さん:障害のある方が働くのを支援する施設の中で、一般就労、つまり企業なんかで働くような働き方に一番近いのが就労移行支援というイメージです。
その次に近いのが、就労継続A型で、働きたいけど現段階では一般就労は難しいという方は就労継続B型の事業所に行くというのが、大まかなイメージとなります。
ただ、ご本人も自分がどこに行けば良いのか分からなかったりすることもしばしばで、実際に就労継続B型の事業所で10年くらい過ごしてる方でも、お会いすると一般企業で働けるんじゃないかなと思う方もいらっしゃいます。
恒吉さん:一般企業でも働けそうな方でも、就労継続B型の事業所にずっといらっしゃる背景には、ご本人が「一般企業で働きたい」って思っていないこともあります。
ずっとB型の事業所にいて、毎日楽しく作業して、スタッフも優しくて…ってなると、働く能力があったとしても、そこが馴染みのある、安心できる居場所になることがあるんですね。
それはとても大切なことでもあるんだけど、いかに「次を目指そうと思ってもらうか」「新しいチャレンジを促していくか」という支援も必要だと思っています。
吉村さん:制度的な面から言うと、就労継続B型、A型から押し上げていって、就労移行支援に近付けていって欲しいのですが、逆の流れになっていて。「就労継続B型、A型に行ってしまったら、一般就労はできない」「再チャレンジの機会がない」というような感覚を持つ方が結構多いんです。
恒吉さん:これまで当たり前に働いてきたことが1回でもある人って、「働いていない状態のほうが異常」ですよね。
でも、若い頃に病気を発症してしまったり、知的障がいの方などで、働いた経験がないまま生きてこられた方にとって、「働くほうが特別なこと」なんです。
吉村さん:何不自由なく学校に通ってる中学生が、高校に行かずにいきなり就職するという選択肢を持つことは難しいですよね。そもそも働いたこともなければ、自分が働くことをイメージできていなければ当然だと思います。
それくらい、働いた経験のない方にとって、「働く」という世界は遠くて、イメージがしづらいからこそ、一般就労を目指す上で支援スタッフの力量はとても重要になっていきます。
「障害に理解がある社会かどうか」って言われると、そうではないのが現状で。「社会に出るのが不安だったりとか、怖い」って思うのは当然と言えます。
だからこそ、いかに安心感を持ってチャレンジを促していくかが私たちの使命と思っています。
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- 本記事は2017年2月8日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。