「希死念慮って実際どんなものですか?」希死念慮経験者と精神科医で座談会

2019.12.28公開 2020.05.07更新

希死念慮の前兆って何かある?

近藤
そういえば、中安さん。昨日の希死念慮って前兆はあったんですか?
中安さん
昨日は朝起きたのが10時くらいだったんですね。

 

いつもなら母と一緒に家事をやるのに、「家にいるのに何もしてない私はダメ人間だ」って。それが希死念慮に繋がった気がします。

近藤
自責が関係ありそうですね。
竹内さん
私の場合も、自責だったり我慢が希死念慮のスイッチになることが多いです。特に人間関係。

 

具合が悪くて、仕事に行けなかった自分を責めたり、言いたいことが言えずに我慢したり。

 

そういう時に死にたいと思いやすくなってるなぁって感じます。

中安さん
あとは、小さなことでもとにかく落ち込みやすくなります。

 

この前もTwitterで仲良くしていたと思っていた人から失礼なDMが来て…

竹内さん
いや、それけっこうショックですよ…、普通にショック。

 

IMG_1476

 

近藤
岡本先生の場合は、何か前兆などはありましたか?
岡本さん
私は根がそういうことを気にしやすい性格なので。笑

 

でも希死念慮が出る時って、周りから見たら「それくらいで?」っていうことが多いんですよね。

竹内さん
たしかに…。私、被害妄想がけっこう強くて。

 

例えば、周りの人が私のことを嫌ってるとか責めてるとか勝手に思ってしまうんですけど、そんなこと考えてもしょうがないじゃないですか。

 

しょうがないってわかってても、その感覚を取り払えないで勝手に孤独感を感じてしまったりします。

近藤
被害妄想して、自責して、孤独感。なかなかの悪循環ですね…。
竹内さん
最悪ですよね。笑

 

最後は周りを全員敵に囲まれてポツーンみたいな感覚になるとほんと死にたくなりますね。

中安さん
マイナス思考が全然止まらなくなるんですよね、すごくわかります。
竹内さん
ビックリしますよね。もうほんとにコントロール不可で。笑

 

希死念慮で「死んじゃダメ」って言われること

近藤
そもそもですが、希死念慮を感じてる時に「死んじゃダメ」って言われたことありますか?
中安さん
ありますあります。昨日、まさにそういうことをTwitterに書いてて。
近藤
どんなことを書いたんですか?
中安さん
「希死念慮が強いときに『死んじゃダメだよ』って言われてもあまり響かない」という事を書いたんです。
近藤
何かきっかけがあったんでしょうか?
中安さん
以前、希死念慮が強いときに家族の前で泣いていたら、「生きたくても生きられない人がいるんだから…」みたいなことを言われたことがあったんです。
竹内さん
そんなことはわかってるよ!って言いたくなりますよね。
中安さん
そう、頭ではわかっているんですけどね。それとは死にたいの種類が違うので、逆にイラッと来ちゃうというか。
近藤
症状としての“死にたい”が理解されづらいということですよね。
中安さん
希死念慮の死にたいって、さっき竹内さんが言ってた精神的な部分の話で、心が死にたいというか、つらい自分が死にたいってだけなので
近藤
希死念慮を感じた経験がある人じゃないとわからないかもしれないですね。
竹内さん
死にたい気持ちがあるのは事実なので、死のうとしてる人がもし目の前にいたら「あなたが死んだら悲しいよ」とは言うと思うんです。

 

ただ、一般論で「生きたい人もいるのに〜」って言われても、「うん、それは分かってるけど…」ってなっちゃいます。

 

IMG_1543

 

近藤
希死念慮が迫ってきているこの状況で綺麗事?!みたいな。
竹内さん
下手すると、「そんな一生懸命に生きたがっている人がいるのに、こんなことを思う私なんか死んだほうが良いや」とか、わけ分かんないことになっちゃう。

 

一般論は逆効果です。

 

私なら、あくまで「あなたがいなくなったら寂しい」「いなくなったら嫌だよ」ってお伝えすると思います。

近藤
アイメッセージってやつですね。
竹内さん
最後に止められるのは、自分以外の人しかいないんですよね。

 

本当に死にたいと思っている人は、死にたいこと以外考えられなくなっているから。

 

最後の砦だからこそ、一般論なんかじゃなくて、死んでほしくないっていう思いを伝えた方がいいと思います。

岡本さん
私も家族に言われたことがあります。

 

本当に死にたい時って、自分でもどうなってるのかわからない状況で、その時に何か言われて響くことってなかなか無いのかなって思いますね。

近藤
ちなみに、振り返ってみて何か覚えている言葉ってありますか?
岡本さん
あとで振り返ったときに、響いた言葉であればあります。

 

当時、診てもらっていた先生に「薬も全然効かないし、一睡もできない。正直もう無理です」って言ったことがあったんですね。

 

そしたら、先生が「私は諦めてないから。頑張るから」と。

 

私に言い聞かせるというより、先生が自分自身に言ってるような感じでしたが、後になってそれがすごい蘇ってきましたね。

近藤
本心だからこそ響く言葉ですね。
岡本さん
その人を止めるために何か言わなきゃという言葉ではなく、心の奥から出てくる声というのが大事なのかなと感じましたね。

 

だから、普段の診療で希死念慮の話を聞く時も、患者さんが質問をし始めてから、こちらから話しかけたりしています。

 

それでも特別なことは言わないし方がいいですし、言ったところで伝わらないかなと思います。

中安さん
気持ちはすごくありがたいんですけどね。
岡本さん
ただ、何か言わないと、止めなかったとか自殺を促してると捉えられることもあるので、すごく難しくもあります。

 

相手だけでなく自分を守るためにも、ご家族や周りの方には、特別なことはしないで、受け止められることは受け止めましょうと言っていますね。

近藤
死にたいという気持ちを受け入れる…
岡本さん
難しく聞こえるかもしれませんが、死にたいくらいつらい思いが、話している中でだんだんと具体的な形として見えるようになります。

 

それから現実的な対処をしていけると良いのではないでしょうか。

 

希死念慮、いつ誰にどうやって伝える?

近藤
「死にたい」「消えたい」「死ななきゃいけない」という感情、どんなふうに人に言いますか?
中安さん
最近は言わないですね。以前母に言ったことがあるんですけど、「つらいのを見ている方もつらい」と言われたことがあって。

 

それからは、身近な人に心配をかけたくない気持ちもあってTwitterに吐き出すようになりました。

 

IMG_1457

 

近藤
Twitterでは言えるんですね。
中安さん
Twitterには希死念慮を味わってる人もたくさんいるので、共感が得られるのが大きいですね。

 

その共感が回復に繋がっている感覚もあります。

近藤
共感の力ってすごいんですね…
中安さん
Twitterで希死念慮のことを書くと、数百単位で“いいね”が来るんですよ。
竹内さん
えー!そうなんですね。みなさん死にたい気持ちを人に言えずにいるのかもしれないですね。
中安さん
フォロワーさんが増えたり、「私も今そうです」とリプライが来たり。

 

共感できる人がいることは、私にとってはプラスになっていますね。

近藤
受け止めてもらえた感覚って嬉しいですよね。
中安さん
そうですね。孤独感が和らぎます。私だけじゃないんだっていうのが大きいです。
近藤
竹内さんはどうでしょう?
竹内さん
夫にだけは言ってます。というより、限界が来てワーッと泣いて言っちゃう感じですが。笑
近藤
希死念慮に限らず、そのときどきで共有しているんですよね。
竹内さん
そうですね。今まで家族にも言えなかったので、やっと言える場所ができたことが精神の安定にすごく繋がってると思います。
近藤
家族に言えなかったのは、迷惑をかけたくなかったから?
竹内さん
うーん、一番落ち込んでた時期に「普通になってほしい」って親に言われたことがショックで。

 

そういうネガティブなことは言っちゃいけないんだと思っていましたね。

近藤
ポロッと出た本音のトゲって怖いですね。気をつけます…
竹内さん
家族だけでなく、今まで付き合ってた人にも言えなくて別れてたんですよ。こういう事を言えば嫌われちゃうと思って。

 

好きな人ほど本当の自分を出すのが怖くなっちゃって。

中安さん
すごくわかります…!
竹内さん
ようやく、全部さらけ出しても動じない人に出会えたので、それは救いだったなぁと。
近藤
逆に、旦那さんはなんで動じなかったんですかね?
竹内さん
なんででしょうね。笑

 

ひとつ言えるのは、親御さんの育て方がすごく良かったんだと思います。

近藤
えっ?!
竹内さん
話を聞く限り、昔から良し悪しの評価をしないご両親だったみたいで。

 

旦那も人に対して、「出来るから良い、出来ないからダメ」と評価をすることがないんですよね。

 

「この人はこういう人なんだ」ってフラットに受け止められる人なのかなと思っています。

近藤
ありがとうございます。岡本先生は人に言いますか?
岡本さん
何回か言ってみたことはあります。

 

ただ、「恵まれた生活をしているのに死にたいなんて、どれだけ贅沢なんだ」って言われてしまって…

 

IMG_1539

 

竹内さん
えー!そんなこと言われたらつらい!
岡本さん
言って楽になるどころか余計にキツくなったので、それ以降は口に出してないです。

 

今後も溢れ出ない限りは言うことはないかなと思います。

近藤
周りにも言えないとなると相当ストレス溜まりません?
岡本さん
走るのが好きなので、診療が終わったら走るようにしています。

 

走るといろいろリセットできるので、ストレス発散に繋がってるのかもしれません。

近藤
体を動かして発散するのはいいですね。
岡本さん
あと、自分自身がいろいろ経験している分、患者さんの言っていることがすごくわかることもやっぱりあるんですよ。生い立ちも似ていたりとか。

 

ただ、そこで医師の立場から「わかる」と言ってしまうと、相手のことを見ず、自分の姿を重ねることになってしまうんですね。

 

それって相手のためになるのかなって。

 

同じ経験をしていても感じ方は違うので、変に入り込みすぎないように意識はしています。

近藤
気がついたら、自分の話ばっかりになっちゃうみたいな。
岡本さん
自分が経験したことも大事なんですけど、あくまでもひとりの経験なので。

 

そこの境界線を区別できなくなったら精神科医はできないだろうなと思います。

竹内さん
はぁ、すごい…。
シェア
ツイート
ブックマーク

近藤雄太郎

Reme運営

インタビューのご希望の方はこちら

  • 本コンテンツは、特定の治療法や投稿者の見解を推奨したり、完全性、正確性、有効性、合目的性等について保証するものではなく、その内容から発生するあらゆる問題についても責任を負うものではありません。
  • 本記事は2019年12月28日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。