「希死念慮って実際どんなものですか?」希死念慮経験者と精神科医で座談会

2019.12.28公開 2020.05.07更新

「死にたい」は甘えですか?

近藤
死にたいと言う人に対する「甘え」「かまってちゃん」みたいな意見ってどう感じますか?
中安さん
Twitterでもたまに、「今までありがとうございました」とか意味深な投稿をする人もいますね。それで数日後に「ご心配おかけしました」と。
近藤
ほう…
中安さん
たしかに、それが何回も続けば「かまってちゃん」と言われるのもわかります。

 

でも、その時に死にたいっていう感情が出てるのは嘘じゃないと思うので、一概に「甘え」「かまってちゃん」とは決めつけられないと思います。

 

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近藤
おれの心配かえせやー!みたいな感じなんですかね。
中安さん
まぁでも、それはその人の勝手な押しつけですよね。

 

死ぬのが甘えっていうのも価値観の押しつけだと思うし、甘えと思ってない側には全く響かない、むしろ傷つけるだけなので、一方的なのかなと思います。

近藤
なるほど。竹内さんはどうですか?
竹内さん
私は“甘えでいいじゃん”って思います。

 

ただ、相手の気を惹くためだけに、そういう表現を使うのは良くないのかなと。

近藤
希死念慮の程度って本人にしかわからないですし。
竹内さん
他人が判断することは難しいですよね。

 

本当に死にたいと思ってる人も世の中にはいるから、全部が全部そうじゃないよってこともわかってもらえればと思います。

近藤
岡本先生はいかがですか?
岡本さん
甘えって悪い言葉に聞こえますけど、そもそも人間って甘えながら生きていくものだと思うんです。

 

自分自身もそうですし、死にたいって言葉を繰り返している方々って、甘え方が下手なのかなとは感じます。

 

うまく甘えることができないから、そういう表現方法になってしまっている人も一定数いるのではないでしょうか。

 

「死にたい」がタブー視されすぎ問題

近藤
次は「死にたい感情、タブー視されすぎ?」っていう質問です。

 

以前、竹内さんとお話した時に、「お腹すいたレベルで言ってもいい」と仰っていたのが印象的で。

 

出てくる感情をフタをするのではなく、吐き出したほうが精神衛生的にも良いのかなと。

竹内さん
言いづらい時点でタブー視はされてますよね。

 

お腹すいたレベルっていうと少し語弊があったかもしれないんですけど、「死」そのものをタブー視しすぎているのかなって思います。

近藤
積極的に話すテーマとしてはたしかに重い…
竹内さん
でも本来、生きてると死んでるはフラットだと思うんですよ。

 

生きてることが絶対と人間が価値を付けているだけで、みんな必ず死ぬわけですし。

 

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近藤
中安さんは、タブー視についてどう思いますか?
中安さん
病気や事故などで亡くなる人もたくさんいる中、死にたいって思うことはよくないという風潮はあるとは思います。

 

でも、嫌なことがあって「死にたい」とか「死にたいほどつらい」って思ったことがある人ってたくさんいると思うんですけどね。

近藤
みんな、心のなかでは一回は思ったことがあると。
中安さん
そう。死にたいという感情が存在する以上、そんなにタブー視する必要はないのかなと思います。
近藤
「命は大事にしよう」っていうのはわかってるけど、それで症状としての希死念慮までタブー視されるのはしんどいですよね。
中安さん
言う場所や相手は考えなきゃいけないですけどね。笑
竹内さん
仕事中に突然、大声で「死にたい」と叫んだら周りもビックリしちゃいますしね。笑
中安さん
自分の死にたいという感情を聞いてくれる人がいて、気持ちが軽くなるんだったら言ってほしいですね。悪いことじゃないですよ。

 

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近藤
世の中的にタブー視されていても、理解してくれる一人がいれば心強いですね。岡本先生はどうですか?
岡本さん
死が身近な人の方が世の中的には少ないですし、正面から言ってはいけない風潮はあると思います。

 

冷静に考えれば誰にでも死は訪れるのに、話す場が圧倒的に少ないから触れてはいけない感じになっているのではないでしょうか。

近藤
希死念慮っていう言葉自体もみんなが知ってるわけではないし、本気かどうかも本人しか分からない難しさはあるんでしょうね。

 

希死念慮が症状の一つだという理解が進めば変わってくるんですかね。

竹内さん
タブー視されていると、症状としての理解も得にくいから過敏に反応されちゃうと思うんですよ。
 
「死ぬな!」「死んじゃダメ」ではなくて、死にたいくらいつらい状態を受け止めてほしいなぁって思います。
中安さん
理解してほしいとまでは思わないんです。

 

ほんとは死にたいわけじゃないのに死にたいみたいな感じって、希死念慮を経験したことがない人にはわからないと思いますし。

 

ただ、そういう風になっちゃう人もいるんだよ、ってことは知ってほしい。

近藤
知ってる知ってないで、対応が全然変わりそうですよね。
中安さん
PMDD(月経前不快気分障害)もそうなんですけど、男性に言ってもどうしてもわからない部分ってあると思います。

 

でも、そういう症状があることを知ってもらえれば、例えばパートナーの女性に優しくできたり、話をきいてあげたり、なにかしら繋がりますよね。

 

ただただ知ってほしいですね。理解はしなくていいんです。

 

むしろ理解できちゃったら、その人も希死念慮を感じるようになっちゃうし。笑

竹内さん
それも困る!笑

 

対処法として「書く」ことのアレコレ

竹内さん
中安さんも言ってましたが、私も最近は書くようにしてます。

 

あとは、現実的に変えられることに対して具体的にやることを決めるようにしています。

 

ひとりでやるとパニックになるので、夫に手伝ってもらいながら決めたり。

 

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近藤
今の感情を書き出すというより、そのときどきの状況で出来ることを書いていくということですか。
竹内さん
どっちもあります。ひとりの時はバーッて書き出さないと、考えられる脳にならないんですよ。

 

落ち着いてきたら、現実的な対処をする段階という感じです。

近藤
そういうのって、どこに書いたりしてるんですか?
竹内さん
私は以前はその日にあったことを書く「メンタル日記」みたいなのを毎日つけていました。

 

それを旦那に見てもらって「これはわかるけど、こっちは思い込みじゃない?」「あ、そうですか〜」みたいなやり取りをしていましたね。笑

岡本さん
書くことで客観的に見れますし、信頼関係がある人に見てもらう方が自分でも納得しやすくなりますよね。
近藤
岡本先生もけっこう書き出すことが多いですか?
岡本さん
最近はそこまで希死念慮も出てないので、「こう思ったということは、今少し無理してるのかな」とか頭の中で考えられるんですね。

 

ただ、本当に調子が悪い時は、書く余裕もなかったです。

 

とにかく苦しいから、「この日に死のう」と。

 

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一同:「……。」

 

岡本さん
本当に調子が悪いときは、この日にどういう方法で死ぬかを具体的に決めて、とりあえずそこまで生きてみようっていう考え方でした。

 

一同:「あぁ〜なるほど!」

 

岡本さん
「今日だけは」「この日までは」と、なんとか目先を変えてやっていましたね。
近藤
なるほど…。正直、紙に書いて気分が楽になる感覚がちょっとわからないんですが、最初から効果があったんですか?
中安さん
最初は日記を書いてたんですよ。

 

希死念慮が出た瞬間ではなく、その日の終わりに日記に書いて振り返ってたんです。

 

それを続けることで、「今日はこういう日だったから、明日は無理しないでおこう」とか対処法に繋がっていきましたね。

 

この振り返りをやれば楽になるんだなって自然と体が覚えたって感じです。

近藤
以前カウンセラーさんから、書いた後にビリビリに破いて捨てるという話を聞いたことあるんですが、どうなんでしょうか?
岡本さん
物に当たるのと同じで、ぶつけて終わり、それ以上は何もしないというやり方はあります。
近藤
表現としては攻撃的でも、紙をビリビリにして発散できれば良しということですよね。
岡本さん
健全ですよね。誰かを傷つけなければ良いと思います。
近藤
なるほど。ちなみに個人的には日記みたいに続けるのが苦手なんですが…
竹内さん
私も続けられない派ですよ。

 

よく、寝る前にその日の良かった自分を褒めましょうとかあるけど、絶対続かないですもん。

 

「やらなきゃ!」って縛ってた時期もあったけど、逆につらくなったからやめました。笑

中安さん
「続けなきゃ」ってプレッシャーになりますよね。
竹内さん
ですよね!だから本当に必要な時にやればいいのかなって思います。
近藤
それだと楽に考えられますね。ポジティブなことを書き出すことはあんまり?
竹内さん
使わないですね…。
岡本さん
なかにはポジティブなことも記録して、あとで振り返って気持ちが安らぐ方もいると思うので、その人次第でしょうかね。

 

私もあまり続かない方で、例えば今日できたことを3つ振り返って書こうとしてた時期も、3つもないなって思ってしまったり。

竹内さん
わかります。笑

 

私もやろうとしたけど、つらかったですもん。3つも出てこなくて。笑

 

20歳くらいの時に、初めて認知行動療法の本を買って自分でやってみたんですけど、めんどくさかったです、ほんとに。

 

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近藤
どんなところが面倒だったんですか?
竹内さん
まず、行動を思い出して、その時の気持ちが何点だったか付けて、前とどう変わったかとかとか。

 

なんかもう、ちゃんと出来ないやって途中で面倒くさくてやめちゃって。

 

でも30歳になって、スキーマ療法をやってみたときは割とスッと入ってきたので、出来るタイミングや相性はあるかもしれないですね。

近藤
中安さんは?
中安さん
やっぱり「めんどくさい!」ってなっちゃいますね。笑

 

ガチガチに決まってるのが苦手で、逆に負担になってしまうんですよ。だから、自分のやり方でやればいいやって思ったので。

岡本さん
正直、私も精神分野のカッチリしたものってあまり好きじゃないんですよね。

 

好きじゃないというか、むしろ嫌いなくらいで。笑

 

実践としてどうなのかなと思っていたり。

近藤
へぇ〜そうなんですね。
岡本さん
その人によって対応の仕方は変わってきますので、カチッと型にはめるのは違うし、なんだか偉そうで嫌だなって思いがあります。

 

実際に自分も、今日できたことを3つ書こうとして無理だったので。自分ができないことは人に押し付けたくないですね。

竹内さん
頭の整理にはなるという意味ではすごく良いんです。

 

ただ、体調が良くなるって思い過ぎちゃうと、できなかった時に「やっぱり治らないんだな」って絶望しちゃうんですよ。

近藤
それが希死念慮に…
竹内さん
そうそう!笑

 

なので途中から、「これをやったら治る」っていう考え方は捨てるようになりました。

岡本さん
あまり、ひとりで「やらなきゃ」って入り込まないでいただきないなとは思いますね。
近藤
試してみるくらいの気持ちでってことですね。
竹内さん
「やって、できなくて、落ち込む」みたいな負のサイクルになってしまうので、今後やられる方は、自己卑下に繋がらないように気をつけてほしいなって思います。

 

希死念慮を支えてくれる人へ

中安さん
「大丈夫?」って聞かれるの、つらいときってないですか?
竹内さん
わかります〜。負担になっちゃうというか。
岡本さん
大丈夫?って聞かれても大丈夫しか返せないですよね…。

 

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中安さん
メールでもLINEでも「ゆっくり休んでね」とか返信のいらないものだったら嬉しいんですけど。

 

色々と聞きてくる感じだと、「ちょっと放っといてほしいな」って気持ちになるのが正直なところだったします。

近藤
どんなふうに声をかければいいんだろ…、難しい…
中安さん
希死念慮が出たことをTwitterで書いたとき、その投稿を見てくれた友だちから「どんな紀ちゃんでも受け止めるからね」って言ってくれて。
近藤
へぇ〜、いいですね!
中安さん
すごい嬉しい気持ちになりましたね。支えてくれてるんだなぁと思って。
近藤
希死念慮のことを知ってくれた上で、受け止めてくれるのは嬉しいですよね。
中安さん
支えになってくれる人が増えるっていうのは安心感になりますね。
竹内さん
私の場合、友達には一回も言ったことがないのです。

 

一番仲良い子に、「瑠美って抱え込んでるのに全然言わないよね」って言われたこともあるくらい。

 

ただ、あんまり自分ではわかってなくて。笑

近藤
えっ、自覚がなかったんですか?
竹内さん
そうなんです。頭のどこかで「人様にこの姿を見せてはいけない」みたいな思いが強くあるから。

 

でも、そこまでできたら良いなぁとは思います。

近藤
オープンにするには心の準備が必要ですよね。
竹内さん
特に希死念慮が出てる時は、自分が一番自分を嫌ってる状態なので。それを外に出すのは怖くてできない…。

 

私も中安さんと同じで、聞き出そうとしてくる質問はキツイなって思います。

近藤
つい「大丈夫?」って聞いちゃいそう…。あんまり良くないんですね…
竹内さん
気持ちは嬉しいなって思うんですよ。

 

ただ、その時は来るものすべてが刺激物みたいな。痛い、痛い!ってなっちゃうんで。

 

一方で、「見守ってるからね」って存在として支えてくれるのはすごく嬉しい

 

拒否しないで居てくれる安心感みたいな。

 

近藤
希死念慮を周りの人があるがままに受け止めるのって…どうやったら良いんでしょう?
岡本さん
とりあえず、一回声をかけてほしいですね。

 

ただ、聞き出そうとすると圧迫感を与えてしまうので、「いつでも声かけていいよ」とか言葉を添えつつ。

 

そして、ただ待つということが大切です。

 

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近藤
「待つ」んですねぇ〜。
竹内さん
メールやLINEだとどう待てばいいんでしょうか…。
近藤
たしかに。LINEが来ても待ちの姿勢だと、既読スルーになっちゃう。笑
岡本さん
メッセージを送ってくるということは、話したいと思ってるはずですよね。そこは聞き出してあげていいと思います。

 

あとは「言える範囲でいいよ」とか「じっくり考えて答えたいから後で必ず返信するね」とか、そういう一言があればいいですよね。

近藤
なるほど、勉強になります!
中安さん
ただ、中には「でも〇〇ですよね」とか「あなたは違うんです!」とだんだん攻撃的になってくる方がいたりしませんか?
岡本さん
実際にそういう患者さんも来られます。

 

あんまりそのやりとりが続くようなら、「噛み合ってないですよね」とハッキリ言うようにしています。

中安さん
なるほど…
岡本さん
「お金と時間をこれだけ使って噛み合わないなら、もしかしたら私は期待に添えていないのかもしれません。それは申し訳ないです。

 

もし私の話をまだ聞いてくれるなら、是非もう一度来ていただきたいです。けれど、そうではないなら私には見切りをつけてください」

 

と言いますね。

中安さん
断ることも大事なんですね。
岡本さん
やっぱり限界はありますからね。
竹内さん
そして何より「ただ、待つ」というスタンスも忘れずに、ですね。

 

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岡本さん
はい。焦って苦しんで騒いで薬を変えて、その結果、回復を遅らせてしまった経験もあるので、待つことの大切さは身にしみて感じています。
近藤
「死にたい」って言われて穏やかに待つって難しそうではありますが…
岡本さん
私が心がけているのは、同じ話やまとまりのない話を何回しても、途中で遮らないようにしようと決めています。

 

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中安さん
遮らずに聞いてくれるの、すごく大事です…。
岡本さん
その分、診察時間は長くなり、待っている方をさらに待たせてしまうのはとても心苦しいのですが…。

 

ただ、時間がないんだからと雑に対応することで、目の前で訴えている患者さんが回復する機会を奪ってしまうので、まずは遮らず聞くようにしています。

近藤
すぐPDCAまわして、色々とやっちゃうのは危ないですね。気をつけます!
岡本さん
もちろんすぐに結果を出したい気持ちもわかるのですが、精神的な波もあるし時間をかけて落ち着いていくものなので。
近藤
聞く、受け止める、待つ。という姿勢は意識しておくと良さそうですね。

 

今日は希死念慮という難しくて深いテーマでしたが、皆さん、ありがとうございました!

自分のことを待ってくれてる人がいる

 

この感覚が、希死念慮を感じている人にとって何よりの希望になるのかもしれません。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

中安さんのTwitter @non47659489
竹内さんのTwitter @rrumindaa
岡本さんのTwitter @running_doctor

 

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近藤雄太郎

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  • 本記事は2019年12月28日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。