息子の発達障害を契機に児童発達支援・放課後等デイサービスを立ち上げるまで
目次
子育てはずっと一人ぼっちだと思っていた
もともと、すごく負けず嫌いな自分もあったので、否定的なことを言う人たちに対して「なにくそ」と思ったことも正直ありました。
私の中では、ずっと子育ては一人ぼっちだと思っていました。
誰かに相談をしても、「私の奥の奥までは理解してくれないでしょ」と、やさぐれている部分も私の中にはあったと思います。
保護者会で、「うちの子、障害を持っているんです」と最初に言った時は、手も震えてたし、声も震えてたし、今までの気持ちがどっと出てきて、泣いてしまったんです。
多分、私の話を聞いていた人は、「何言ってたんだか分からない」感じだったと思うんです。
それでも、「寛乃さんがそういう気持ちで子育てしていたことは伝わったよ」って言ってくれる人がいて。
その言葉がすごく嬉しくて、自分一人で抱えても、何も解決にならないんだなと思えるようになりました。
当時は自殺願望も強かった時期もありましたが、気持ちはすごく楽になりましたね。
今だからこそ、人に恵まれてると言えますけど、どちらかと言うと、障害に対して否定的でネガティブなことを言ってくる人のほうが多かったです。
そんな状態だったので、「この子を殺して、自分も死のう」って毎日思ったり、「このままどっか行っちゃいたいな」と、電車に乗りながら、ふと思ってしまうこともありました。
悩みの種だった子供が私を救ってくれた
そんな私を前向きな方向に動かしてくれたのは、あろうことか私の悩みの種である私の長男でした。
あの子が生きることを諦めてなかったんですよね。本当に日々を一生懸命に生きていたんです。
他人から見たら、決して良い子ではないし、物分かりの良い子でも、頭の良い子でも、生活能力の高い子でもない。
それでも、あの子自身が毎日を生きることを一回も諦めなかったんですよね。
息子が一生懸命に生きてる姿をみて、私自身がハッとさせられたり、助けられていたのかもしれません。
長男が小学校に上がったタイミングで、今の旦那さんと再婚をすることになりました。
彼は昔からの知り合いで、私が休みなくずっと働いていた頃、週末にうちの子どもを預かってくれていた友達の一人でした。
息子の障害のことも十分理解してくれた上で、「この子たちのお父さんになりたい」と言ってくれて。本当に心強く感じました。
毎年、保護者会の度に、うちの息子の障害についてのプリントを作り、アスペルガーやADHDについての説明や、うちの息子に嫌なことをされた時の対処法をお話させていただくこともありました。
それでも、絶えずトラブルは起きてしまっていたこともあり、「障害を持ってるからって許されると思ってるんじゃねえよ」「家に縛っておけよ」と言われたこともありました。
もちろん、うちの息子が、クラスの友だちに嫌なことをしないように育てることが、私たちの役割だと言うことは重々承知していましたし、その努力もしていました。
ただ、そうなるまでにはすごく時間がかかることも事実です。
もちろん、人を傷付けてしまったことに障害があるかないかなんて関係ないので、「傷付けてしまって本当に申し訳ないです」と、その都度謝罪していました。
同時に、障害を持つ人もその周りにいる人も、心地よく生活できるようになるにはどうしたら良いんだろうか、と少しずつ考えるようにもなりました。
障害の特性上、ルールを覚えたり、集団行動がすごく苦手な一面があったのですが、主人が「息子に集団での活動をやらせてみたい」と言っていたこともあり、野球を始めることにしたんです。
当初、私は入団を渋っていたのですが、「だったら、俺がコーチで入るよ」と言ってくれて。
入団から卒団まで、レギュラーなんて1度も取れたことのない「万年補欠」で、試合の時はベンチで声を出すことしかしていませんでした。
でも、息子にとっては野球が楽しかったし、自分で居場所を見つけて、仲間もたくさん作ることができて、野球との出会いはとても意味のあるものだったと思います。
結果的に中学を卒業するまで自らの意志で野球を続けてくれました。
私自身が一番助けられたのは、野球仲間のお母さんたちです。
障害に対して、本当に理解のある中で野球をやらせてもらい、私が辛い時は助けてくれたりもしました。
特に有難かったのは、
「ママ友だと思うと遠慮があるでしょ」
「親友だと思えば遠慮がないじゃん。ママ友じゃなくて、ヒロノちゃんと友達だよ」
といったスタンスで付き合ってくれたことでした。
つい、「一生懸命、療育しなきゃ」と、一つひとつにすごく真面目に取り組み過ぎて、すごく疲れてしまうこと多い時期があったんです。
そういう時も息を抜かせてくれる一言をかけてくれたり、時間を作ってくれた野球仲間のお母さんたちには感謝の気持ちでいっぱいですし、「いろんな人に助けられて今がある」ことをつくづく実感しています。
辛い時は辛いですし、辛い時は必ずやってきます。それでも、周りの助けや理解があったらこそ、ここまで何かとやって来れたと思います。
支えてくださった方々へ恩返しするつもりで何かできることはないか。そんな想いから、Smile Seedを立ち上げるに至りました。
もちろん、障害児のママにしか分からない辛さや悩みはあると思うので、一人ひとりに寄り添いながらも、世の中を動かしていけるような第一歩にしていきたいですね。
うちの息子が抱えているような障害を微笑ましく見ることができるくらい、世の中での理解も増えてくれば、多くの親御さんもきっと楽な気持ちで楽しく子育てができるようになるのではないでしょうか?
ご自身の原体験から始まった活動
Smile Seedは、療育(※1)支援を通じて、社会で生きていく力を育んでいく所で、普通学級にいるけれども、なかなかうまく生活できなかったり、特別支援学級に在籍している軽度の知的障害の子どもたちを主な対象にしています。
「児童発達支援」「放課後等デイサービス」と言うと、国や自治体が運営しているイメージがあると思います。
Smile Seedは、東京都から「東京都指定多機能型事業」の指定を受けているので、自治体が運営しているものと同じ金額体系や施設となります。
発達障害を持つ子どもたちは知的障害を伴わないので、障害者手帳が出にくいケースが多く、最近は就労支援等が拡充しつつありますが、まだまだ社会的支援や就職先が不十分であることがすごく多いんですね。
その一方で、普通に将来の夢があったり、普通の社会人になって「ああなりたい、こうなりたい」といった想いがある。
私たちは、そういった子どもたちの想いを応援してあげたいと思っています。
将来の夢を持てて、仕事に就いて、自立して生活ができて、結婚して子供が生まれて…といった人生の選択肢を増やせるところまでサポートすることは私たちが絶えず見据えてる目標でもあります。
児童発達支援では、小学校入学前の子どもたちを対象に、集団で生活をしていくためのスキルを身につけていきます。
例えば、着替えができる、食事が1人でできる、お手洗いがちゃんとできるといった基本的なことから、決められた時間内で決められた行動をするといった集団行動の練習などがあります。
そこで取り残されてしまうと、本人もすごく辛い思いをしますし、「なんでだろう」ってめげちゃったりすると思います。
もちろん、最初から何でも上手にできるわけではないので、一つひとつの行動に対して、カードを用意したりしながら、「次は何をやるか」と分かりやすく、丁寧にやっていくことを大切にしています。
子どもたちの中には、今の瞬間が一生続く感覚を持っていたり、今を楽しめなかったり、絶えず次のことしか考えられないなど、様々な感覚を持ち合わせてる子どももいます。
ですので、個別の子どもたちに応じた対応や声掛け、絵カードの提示の仕方には常に心を配っています。
昨日来ていた小学校の男の子の話ですが、じゃんけんに負けて悔しくて、どうして良いか分からなくなって、「わー!」とパニックなってしまったんです。
「どうしたの?」と聞いてみると、「僕は一人になりたいんだ!」と。「いいよ」と言うと、「えっ、いいんだ?」とキョトンとしていました。
「危ないことのないように、ちゃんとカメラから見てるから、一人にしてあげるね」
「うん」
「何分間、一人になりたいの?」
「2分」
「じゃあ2分経ったら出ておいでね」
そんな会話をして、キッチンタイマーを2分にセットして渡したら、2分後にちゃんと戻ってくるんですよ。
彼が出てくるまでの2分間、モニターで観察しながら、2分で出て来れなかった場合の次の策をあれやこれや考えたりもしていましたが…。
戻ってきてからは、きちんと順番通りに自分の机を拭いて、歯磨きをして、他の子どもたちと手遊びに参加していました。
まず、「一人になりたい」って自分で言えることってすごいことで。
気持ち高ぶってしまうと、そのループにはまってしまって、「一人になりたい」なんてなかなか言えないんですよね。
だからこそ、「一人になりたい」って言えたことをまず褒めて認めたんです。そして、その後に「何分間が良い?」って自分で時間を決めさせて、その時間内にちゃんと出て来れた。これもすごいこと。
本人はクールダウンがしたくて「一人になりたい」と言ってるのに、それを否定して、さらに手遊びなどに参加させないとなってしまうと、それは罰になってしまいます。
私たちは罰を与えるためにやっているわけではないですし、気持ちが「わー」となったり、ムカッてくることは人間誰しもありますよね。
そういった感情をうまくコントロールできるようになるために、子どもが自分でちゃんと落としどころを見つけて、「2分、僕は一人になりたい」「2分経ったら戻ってくる」と言えたことをまず認めてあげることがとても大事だと思っています。
放課後デイサービスでの取り組み
放課後等デイサービスになると、子どもたちは学校での勉強が始まってきます。
ただ、親御さんには、
「うちは学習塾じゃないですよ」
「療育の一環で、いろんなワークを取り入れてます」
とはっきりお伝えしています。
ワークの1つとして、「脳トレEQジム」があります。EQは、IQ+心で日本では「こころの知能指数」と言われています。
「脳トレEQジム」のワークを進めていくと、計算問題なども出てきますが、基本的には、空間認識能力、ストレス耐性などといった、普段生活していく上で必要な基礎能力の土台を作るところを繰り返しやっていきます。
しっかりした土台ができると、そこに積み重なってくる勉強面での学習能力も安定してくると思っています。
ですので、親御さんも「宿題は家でやらせるから、EQジムをやらせてください」と言ってくださる方が多いですよね。
その他にも、ソーシャルスキルトレーニング(SST)の教材を用いて、社会で生きていくためのルールやマナーを学んでいきます。
それも個別にやるのではなく、3人ぐらいの小グループでそれぞれの意見と価値観を引き出した上で、どうすることがベストかを話し合いながら考えるようにしてます。
私たち大人が持っている常識と、子どもたちが生活の中で自然と身に付いけていった常識って、必ずしもイコールじゃないと思います。
なので、SSTのワークをやる時も、頭ごなしに「これはこういうことだからこうだよ」とこちらから言うのではなく、その子がどういう考え方なのか、どういう常識や認識を持っているかを、必ず聞いて引き出すようにしています。
集団生活が苦手な子どもは結構多いですが、集団生活や行動が得意じゃないことには必ず理由があるんですよ。
私たちが大切にしなくてはならないのは、その理由をまず知って、共感して、理解してあげることですよね。
原因となるものが取り除けるものであれば、なるべく取り除いた環境を用意したり、もしくは良いイメージになるように置き換えてあげるようにします。
「この子はいたずらをする、だから悪い子だ」
「この子は悪い子です。だからいたずらをする」
これだと、ただの循環論なんですよね。何の解決にもなってないんです。
「この子、集団生活が苦手です。なぜなら〇〇だから」「この子は〇〇だから、集団生活が苦手です」って言ってたら、いつまでも解決しないんですよね。
例えば、「ずっと座っていなくちゃいけない」といった場合も、
「座っていなさい!」
「なんでできないの?」
「みんな座っているでしょ?」
ではなくて、
「隣の子との距離が近くてストレスを感じているのかな?」と少し間隔を開けてみたり、「座り心地が悪いのかな?」と座布団を渡すといったことを心がけています。
小さな成功体験から「できる」を増やす
また、プログラムやタイマーを渡して「◯分でおわるよ!」と見通しを立ててあげたり、「こうやるとすごく格好良いし、すごく素敵なことなんだよ」と言い方を変えるだけで、出来てしまう子もいます。
もしかしたら、体幹がまだしっかりしていなくて、上手に座れないだけかもしれません。
ちゃんと原因を見つめて、そこに置き換える何かを示してあげたり、少し先の未来が見通せるようになると、子どもたちもクリアできたりするんですよね。
そうやって、小さな成功体験を増やしていき、たくさん褒めて定着(強化)させ、最終的に「できる」を増やしていきます。
Smile Seedには、週2、3回ペースで通う子どもが多いので、普段の生活では、必然的に学校、保育園、家庭で過ごすことが多くなります。
ですので、Smile SeedでやったことをSmile Seedで終わらせずに、その子が生活のリズムをきちんと自分の中で整えられるように、親御さん、保育園・幼稚園・学校と連携していくことが大事だと思っています。
実際に、お母さん方から、こんな話を聞くことがあります。
「担任の先生に、どう話したら良いか…」
「『語彙が足りないから、語彙が増えるような療育をしろ』って言われたんです…」
「『療育しろ』って言われるんだけど、何をどうして良いか分からない…」
「それは分からないよね」と、まず何事も共感から始めています。
おうちに帰ってからどうか、保育園等に行ったらどうかといったところまで見据えて、「こうやるとすごくスムーズですよ」とアドバイスさせてもらったり、絵カードを作るお手伝いをしたりと、それぞれのご家庭に合わせた支援を行っているんですよ。
扇の要に家庭があると思うので、私たちはその扇の骨組みをお手伝いしながら、1つの扇を作ることが、子どもたちにとっても生きやすくなるのかなと思います。
Smile Seedに来てくださる親御さんには、
「保育園の先生に『この子は発達の遅れがあるかもしれない』と言われた」
「3歳児検診の時に『発達の遅れがあるかもしれない』と言われた」
といった方ももちろんいらっしゃいます。
その一方で、実際にお話を聞いてみたら、「発達障害でも何でもなかった」「ただの育児の悩みだった」という人もいます。
ここに来てくださる親御さんのほとんどは、
「みんなと一緒に楽しく過ごして欲しい」
「人並みの学力や生活能力があって、保育園のお友達と離れることのないようにしてあげたい」
といった人ばかりで、最初から「何をどうして欲しい」がない人がほとんどなんです。私たちのスタンスとして、どんなことでもウェルカムです。
療育サービスを利用できるかは別としても、ちょっと育児の中で辛さが出てきたりしたら、相談にだけでも来てほしいと思っています。
子どもは親の笑顔を見ていたいから
これまでの人生を振り返って、「子どもは親の笑顔を見ていたい生き物なんだな」と実感しています。
それはきっと、いくつになっても同じなのかもしれません。
私もこの歳になっても、自分の親が、しんどい、辛い顔より、ニコニコする顔を見たいなって思いますし。
「子どもは『親がニコニコしているのを見たい』という本能を持った生き物なんだ」って思うと、笑顔になるために今できることが見えてくるのではないでしょうか?
私自身ずっと、「母親とは何か」「理想とする大人ってどこにいるんだろう」とか思いながら生きてきました。
でも実際、自分が思い描いていた大人や母親って実はどこにもいないと気づくようになったんです。
半ば妄想のような、理想の大人や母親を探す時間があったら、自分らしく生きよう、楽しく生きよう、子どもたちに笑顔でいてあげようって決めたからこそ、今があると思っています。
そこで、最後にこの2つのメッセージを、子育てに悩んでいるお母さん方にお伝えしたいです。
「一人の母親である前に、一人の人間であり、一人の女性ですよ。自分の人生を大事にしてください」
「一人の人間として自分の人生を大事にすることが、笑顔でいられることに繋がってきますよ」
「自分の子にむかついてしまう」「ちょっと濱島さんと話してみたい」という方もいらっしゃると思います。
一本、お電話やメールをいただければ、出来る限り、寄り添い共に歩んでいきたいと思っています。
- 本コンテンツは、特定の治療法や投稿者の見解を推奨したり、完全性、正確性、有効性、合目的性等について保証するものではなく、その内容から発生するあらゆる問題についても責任を負うものではありません。
- 本記事は2017年6月9日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。