
乳児期の「基本的信頼」とは?育むポイントを臨床心理士が解説
乳児期(0〜1歳半、2歳)の時期は、人としての人格の基盤を作る最もだいじな時期です。
赤ちゃんは真っ白な状態で生まれてきてから、すぐに育児(養育者、特に母親との関係)が始まり、親との関係の中で、たくさんのことを真似て、学習し、身につけていきます。
人に対して信頼感や安心感を持てるか、もしくは不信感や不安感を抱くかは、この乳児期に得た体験が大きく影響してきます。
乳児期の発達の特徴とは?
この時期の赤ちゃんは、泣くこと以外、最初は自分では何もできません。
しかし、人生の中で体、脳、心の発達がこれほど大きく顕著な時期は他にはありません。
首が据わる → 寝返り → ハイハイ → つかまり立ち → ヨチヨチ歩き → アーウーと独り言 → 言葉がでる → 親に遊んでもらう → 1人遊び(手をみつめる、など)
子どもの成長を家族みんなで喜んだり、ほめることで、子どもたちは安心して身体的にも精神的にもどんどん発達していき、自分の世界を広げていきます。
一緒におしゃべりしたり、笑いかけることで、子どもたちの情緒もどんどん発達していきます。
乳児期は信頼感が育ちやすい
乳児期において、自分では何もできず、相手に頼るしかないからこそ、相手に対する信頼感、もしくは不信感が育ちやすいのです。
そして、その後の人生において、どんなに偏差値の高い学校に入っても、どんなに名のある一流企業に就職しても、この時期の人格形成を覆すことはできません。
人格形成の最も大切な時期が、最も早い段階にやってくることを是非、覚えておいてください。
世代間連鎖による影響
女性は赤ちゃんが生まれたことで、突然お母さんになるので、今までに自分が受けた経験をもとに子育てに突入していきがちです。
人を信頼できるお母さんに育てられたお母さんのもとでは、人を信頼できる子どもが育ちますが、人を信頼できないお母さんに育てられたお母さんのもとでは、人を信頼しづらい子どもが育つ傾向があります。
これは、「世代間連鎖」と呼ばれる現象で、一概にお母さんたちに責任があるわけではないと私は思っています。
しかし、子育てに違和感を感じているお母さんたちの「世代間連鎖」をなるべく早い段階で断ち切ることが、お母さんも子どもたちも、「自分らしく」ラクな親子関係を築くことにつながると思います。
やり直しが難しい子育て
子ども達は、以降のどんな時期でつまずいたとしても、乳幼児期に戻ってやり直しをしようとします。
乳幼児期をすでに過ぎてしまったとしても、やり直しはできますが、しかるべきときよりも後で身につけるには、親も子もより多くのエネルギーが求められます。
大人が保育園にはもう通えないように、大きくなればなるほど、この時期をやり直すことが難しいことは想像できると思います。
子ども達の「つまずき」に気が付いたら、見過ごさずに、勇気を持ってなるべく早めに手を差し伸べてください。
前の段階に戻っておぎなうことが、長い目で見てもベストな決断になると思います。
乳児期のこころの発達課題
基本的信頼感とは?
この時期に身につけるべき、とてもたいせつな感覚は、「母親(養育者)を信頼することができる」ことです。
これを、難しい言葉で、「基本的信頼感」といいます。
「ママがいつでも、自分が望んだことを叶えてくれる」
「泣いて訴えれば、ママが何とかしてくれる」
「ママは見えないところにいっているけど、ちゃんと戻ってきてくれる」
「ママがいつでも見守っていてくれる」
と信じられる感覚です。
基本的信頼感を身に付けるには?
どのようにしたら基本的信頼感が身に付くかと言うと、
・オムツがぬれていると泣いて訴えることで、お母さんが気付いて換えてくれる。
・おなかがすいて泣いて訴えると、おっぱいやミルクをくれる。
・不安なときに泣いたらお母さんが抱きしめてくれて、安心させてくれる。
上記に挙げたように、赤ちゃんが「自分の望んだことを、望んだとおりに十分にかなえてもらっている」と感じられることが大切です。
この「十分に満たされている」という感覚があって、初めて、赤ちゃんはお母さんを信頼できるようになるのです。
乳児期は「信頼」のスタート
そしてお母さんを信頼できる子どもは、他の相手を信頼することができるようになり、人に頼ることができるようになります。
また、人を信じられる子は、自分を信じられるようになり、「この世界も案外いいところだ」と自分の住んでいる環境や社会を信じられるようになります。
社会を信じられる子は、夢や希望をもって生きていけます。
この「信頼」のサイクルがスタートするのが、乳児期の「母親との関係」なのですね。
「泣くこと」の意味
赤ちゃんが何もできないうちは、自分でできる努力というのは、「泣くことだけ」です。
自分では体も動かせず、言葉も使えないので、泣くことで自分の希望を必死に伝えているのです。
たまに、よく泣く子(親にしてみれば手がかかる子)がいますが、別の言い方をすれば、こういう子は、
「泣くことを諦めない」
「自分の希望を諦めない」
「とても根気のある努力家」
とも言えますね。
ですから、決してお母さんが嫌いだからとか、お母さんを困らせようとして泣いているのではないですし、子どもに手がかかるからといって、お母さん失格なんてことはありません。
むしろ、自分の主張がしっかりとできる子が育っていて、子育てがうまく進んでいる証拠だと胸を張りましょう。
次回は乳児期の子どもたちと関わる上で大切なポイントを紹介します。
【執筆者】
おやこ心理相談室 佐藤文昭 臨床心理士
- 本コンテンツは、特定の治療法や投稿者の見解を推奨したり、完全性、正確性、有効性、合目的性等について保証するものではなく、その内容から発生するあらゆる問題についても責任を負うものではありません。
- 本記事は2018年7月14日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。