幼児期前期のトイレット・トレーニング…親の役割は?臨床心理士が解説

2018.09.26公開 2019.05.16更新

幼児期前期は、しつけ最大の課題である「トイレット・トレーニング」が始まり、オムツがはずれる時期でもあります。

 

「そろそろオムツをはずしたいけど、どうやったらいいのか…」

「お友達はみんなパンツになったけど、ウチの子だけまだオムツ…」

「なかなかトイレでウンチしてくれない…」

「お風呂に入ると、ウンチしたくなって…」

 

トイレット・トレーニングが上手く行かず、やきもきしているお母さんは多いと思います。

 

今回のコラムでは、トイレット・トレーニングから、幼児期前期において大切なしつけの考え方についてお伝えしていきます。

 

【前回記事】

>>幼児期前期の遊びへの親の向き合い方とは?臨床心理士が解説

 

トイレット・トレーニングは人格形成に影響?

子どもは初めて衝動を我慢することを覚えて、「恥ずかしい!」という感情を獲得するようになります。

 

そして、叱られることの「恐怖」、ほめられることの「満足」を体験します。

 

これらの体験を通して、自分の機能を自分でコントロールする能力を身につけ始めるということになります。

 

実はトイレット・トレーニングは、子ども達のその後の人格形成に大きく関わってくる大事なステップなのです。

 

ですので、この時期の子どもたちの考え・感じ方を理解した上で、トイレット・トレーニングを行うことは、すこやかな心の育成を手助けする上でとても大切になります。

 

 

ウンチをめぐる周囲との関わり

ウンチもオシッコも、子どもにとっては人生ではじめて与えられる「自分の持ち物」という一面があります。

 

2~3歳の幼児が、道端に落ちている犬のウンチに(最近は見かけなくなりましたが…)あれほど興味を示し、熱心に眺めているのはそのためですし、

 

これを体内に止めておくこと、出してしまうことをめぐって、親との間でさまざまな「とりひき」をするのもそのためなのです。

 

「ためこんで出さないでやろう!」という反抗も出てきますが、この反抗は、それまでの子どもにはありえない行動なので、子どもは大変な武器を手に入れたとも言えます。

 

出さないでじらすと、お母さんが「お願いだから出してちょうだい!」と言いますよね。

 

すると、子どももえらく優位に立った感じがするもので、「それをやってやろう!」という気持ちにもなってくる。

 

それからウンチをすると大人がなぜか異常に喜ぶということを知り、今度はウンチがプレゼントになります。

 

ウンチが水洗便所で流れていくときに「バイバイ!」と手を振って名残惜しそうにしているとか、

 

すごくいいのが出たと褒められたら、「これをパパが帰ってくるまで取っておいて見せる!」と流さないので困ってしまうというエピソードも聞きますね。

 

このように自分の排泄を自分でコントロールできるようになると、それを使って人を振り回すこともできるようになるのです。

 

周囲と関わる手段を獲得したわけですから、社会性の第一歩でもあります。

 

 

トイレット・トレーニングでの親の心構えは?

「トイレができるようになる」というしつけを通して、子どもたちは

・自分で自分の衝動をコントロールできる力

・自分で自分を管理することができる力

といった「自律性」が身についていきます。

 

子どもたちは、自分でできることが増え、向上し、発達していくことに大きな喜びを感じます。

 

ここまでトイレット・トレーニングについてお話してきましたが、しつけというのは、

 

「ここでウンチをしてほしい、ここでオシッコをしてほしい」

 

と、くりかえし伝えることです。

 

しつけをする上でたいせつなことは、くりかえし伝えながら、しかし、「できるようになるまで、お母さんはいつまでも待っているよ」という心構えです。

 

始めのうちは、まずこちらの願ったようにはいきません。

 

もちろん、親にとっては仕事が増えてしまい、イライラしてしまうこともあります。

 

それでも、親が「あきらめずに待っているよ」という「待つ姿勢」を持っているだけで、子ども達は気持ちがラクになります。

 

できるだけ子どもにまかせてあげることで、子どもは親や周囲の人に対する信頼感を持つことができます。

 

人を信じ、尊敬し、自分に自信を持つことで、自分の感情や衝動をコントロールする力(自律性)をさらに発達させていくのです。

 

 

神経質なトイレット・トレーニングの弊害とは?

この時期に、あまり神経質にトイレットトレーニングをしてしまうと、偏った強迫性格の基盤を生み出してしまうことがあります。

 

トイレットトレーニングが、大人になってまでも、人格に影響するなんて思ったことはないでしょうし、驚かれる方も多くいらっしゃいます。

 

例えば、もうそろそろ出るころだから、「出るまでトイレに座っていなさい」というやり方は、自分で自分をコントロールすること(自律)ではなく、他人がコントロールしていること(他律)になります。

 

確かに、何度も何度も失敗して、その都度、お掃除をさせられるお母さんたちにとっては、叱りながらでもすぐに上達してもらう方がラクですよね。

 

しかし、厳しく、脅しながら、なにがなんでもオムツを取るというやり方は、子どもにしてみれば、自分のコントロールよりも、他の人の言うことを守る方が第一になってしまいます。

 

それでは、自律性が育つどころか、無力感を植えつけ、決断することに怖さを感じることになりかねません

 

そのまま大人になると、些細なことでキレたり、細かいことにこだわってしまったり、潔癖症や、融通がきかないとか、完ぺき主義で思い通りにならないとすぐキレる、とか周囲を自分の思い通りに動かそうとするタイプになりかねません。

 

こういった強迫性の人格は、この時期にしつけを通して、自分の衝動(排泄)をコントロールするという基礎的な自律性が育たなかったことが大きく関わっている可能性があります。

 

社会的に見てもこういう大人が多いのは、まちがったトイレットトレーニングをやる方が案外多いということかもしれません。

 

 

オムツ卒業が遅いのは悪いことではない

トイレトレーニングで大事なことは、まず、お母さん自身が「ちょっとのミスはしょうがない」と、気持ちを楽にしてあまり焦らず、子どものペースに寄り添いながら進めていくことです。

 

そして、お父さんやおじいちゃん・おばあちゃんなど周囲の人の理解と協力も不可欠です。

 

オムツが取れるのが遅いのは悪いことではありません。

 

ましてや、子どものせいでも、お母さんのせいでもないということをきちんと理解してください。

 

もし、

 

「○○ちゃんはは、いつまで経ってもオムツがとれないわね~」

「トイレに行けないのはお母さんのやり方がまずいのかしら」

 

などと言うことがあれば、子どもやお母さんを責めることを即刻止めましょう。

 

3歳半前後までに終わっていなくても、あまり過度に心配しないことも大切です。

 

 

親は待たされるだけのチョイ役

幼児期前期に大切なことは、しつけを通じて自律性の基盤を育てることです。

 

それは、乳児期にたくさんの依存体験をして、母親との関係において基本的信頼感が育っていることが大前提です。

 

しつけとは、こちらの希望や要求をくりかえし伝えることで、脅して無理やりやらせることではなく、早く結果を出すことでもありません。

 

子どもの目線に立ち、子どものペースでやってこそ上手く機能し始めます。

 

しつけのやり方次第で、その後の人格形成に大きく違いが出てくることを心に留めておきながら、この時期の子どもと関わりましょう。

 

しつけにおいての主役は子ども達で、親はひたすら待たされるだけのチョイ役である、くらいの心積りでいるほうが上手くいくようです。

 

次のコラムでは、幼児期後期へとステップアップしていきます。

 

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佐藤文昭

臨床心理士

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  • 本記事は2018年9月26日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。