共感することへの苦手意識や抵抗感を少なくするには?【実験心理学研究】

2019.07.31公開

どんな実験だった?

まず実験者たちは、二つのカード(写真)を用意しました。

 

このカードにはそれぞれ、難民の子どもの悲惨な状態が写しだされています。実験の参加者は、
 

①写真に写っている子どもの身体的な特徴を説明する

②写真に写っている子どもが何を感じているのかを考える(=共感する)

 
という課題のいずれかを選択し、実際に行うように指示されました。

 

また、別の実験では、難民の子どもの写真の代わりに悲しんでいる人や微笑んでいる人の写真を使用して、同様の実験を行いました。

 

すると、全ての実験を通して、平均35%の参加者しか共感する課題を選択せず、多くの参加者が共感を必要としない課題を好むことが示されました。

 

このことは、共感する内容(相手の表情や置かれた状況など)を問わず、共感すること自体が避けられる傾向にあることを表しています。

 

そして、実験後の質問調査ではほとんどの参加者たちが

・共感はより多くの認知的な努力(cognitive cost)が必要である

・身体的な特徴を述べることよりも、共感することの方が苦手である

と報告しました。

 

ここまで読んだ限りでは、「共感するってやっぱり大変なことなんだ」と感じるかもしれませんね。

 

 

共感への抵抗はどう減らせる?

しかし、この研究の面白いところはここからです。

 

一連の実験をするにあたり、半分の参加者は「あなたは他の参加者よりも共感することが上手である」と伝えられていました。すると彼らは、

・共感することが求められるカードを選択する

・共感に精神的な努力はそれほど必要ではないと考える

といった傾向が高いことが分かったのです。

 

このことはつまり、

人々は常に共感を避けているのではなく、状況次第では共感しようと積極的になる

ことを示しています。

 

中でも、その人自身が共感について「得意だ・上手くできる」と思うことが、共感への抵抗感を和らげることに繋がるようです。

 

同じ空間にいる人がお互いに共感的になることが出来れば、これまで以上に上手くいく場面もありそうです。

 

例えば、職場のチームをまとめなければならないリーダーは、チーム内の共感性を高めることで、メンバーがお互いに助け合えるような良い雰囲気を作ることが出来るかもしれません。

 

この研究を発表した研究者たちも、

人々が共感に積極的になることで「支援の必要な人たちに、皆が助けの手を差し伸べるようになるかもしれない」

と述べています。
 
 

積極的に共感できる実践ポイント

では、人々が持つ「共感への抵抗」を取り払っていくにはどうすれば良いでしょうか。

 

この研究では、共感した人に関して、

「他の人に共感し、理解できたと感じられること自体が、本人にとっての報酬(rewards)になる」

と述べられています。

 

このことを参考にすると、共感した人が「相手と共鳴できた」と感じられる状況を作ることで、共感へのモチベーションを上げることが出来そうですね。

 

具体的には以下のようなことを実践してみることもひとつです。

 

1.してもらったことを評価して伝え返す

誰かに何かをしてもらった際は、少し大げさに相手の共感性を汲み取り、その精度の高さを伝え返しましょう。

「〇〇までしてくれるなんて、気が利くね」

「指示した以上のことをしてくれて、こちらの意図することがよく分かるんだね」

といった具合です。

 

2.ちょっとした相談事をする

あえて深刻でない相談事をすることで、相手の共感力を引き出すことも出来そうです。

 

相手がこちらのことを想像したり意見してくれたりしたことに対して、

「私もそう思っていた」

「気持ちを汲み取ることが上手なんだね」

といったポジティブな声掛けをすることで、相手がこちらに共感し、理解できていることを示すことが出来ます。

 

一方で、相手のことを褒めたり、評価したりするシチュエーションが上手く巡ってくるとは限りませんよね。

 

そんな時は、

・挨拶ついでに世間話をする

・ちょっとした話にもきちんと耳を傾ける

・クッキーやチョコレートなど気軽なものをシェアする

といったことで、仲間内での接点を増やすのも良いでしょう。

 

話す機会が増えることでコミュニケーションへのハードルが下がり、自然と自分の気持ちを表現したり相手に意見したりできることに繋がると思います。

 

 

さいごに

一般的に、誰かに「共感すること」は認知的な努力を必要とするものであり、避けられることが多いものです。

 

しかし、共感しようとしている本人が、

「共感することが得意である、よく出来る」

と感じている場合は、その限りではありません。

 

人々の共感力を高めることは、その場の雰囲気をより協力的なものにし、お互いに助け合えるような環境づくりの一助になるかもしれません。

 

【参考】

C. Daryl Cameron, Julian A. Scheffer, Eliana Hadjiandreou, Cendri A. Hutcherson, Amanda M. Ferguson, Michael Inzlicht(2019)“Empathy Is Hard Work: People Choose to Avoid Empathy Because of Its Cognitive Costs,” Journal of Experimental Psychology: General

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鈴木さやか

臨床心理士・公認心理師

心理系大学院修士課程を修了後、臨床心理士資格を取得。福祉分野のケースワーカーとして従事したのち、公的機関でテスター兼カウンセラーとして勤務。子どもの問題(不登校、非行、発達障害等)や労働、夫婦問題をはじめ、勤労者、主婦、学生など幅広い立場への支援を行っている。

  • 本コンテンツは、特定の治療法や投稿者の見解を推奨したり、完全性、正確性、有効性、合目的性等について保証するものではなく、その内容から発生するあらゆる問題についても責任を負うものではありません。
  • 本記事は2019年7月31日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。