メンタルヘルスのラインケアで必要な管理職の能力とは?臨床心理士が解説

2017.02.24公開 2017.03.21更新
 
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メンタルヘルスの不全による休職や退職が増加するにつれて、心の健康に対してどのようにアプローチすればよいのかという関心が増してきています。

 

「どのように向き合えばいいのか」という企業の呼びかけに、厚生労働省は「労働者の心の健康の保持増進のための指針」というものを発表しました。

 

この文書の中には、メンタルヘルス不全を防ぐためにはどのような方針で向き合えばいいのかということがまとめられています。

 

そこで今回は、4つのケアの中でも、特に重要な管理職による「ラインケア」について解説していきます。

 

 

メンタルヘルスの4つのケア

「4つのケア」という概念は、前述の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」の中で触れられています。

 

「心の健康の保持増進のためには、4つの観点で取り組みを見つめてみましょう」ということがこの概念の概要です。

 

1つ目のケアは「セルフケア」です。労働者自身が自らのストレスや体調などに気を配り、「自ら(セルフ)ケアをする」ということを目的としています。

 

2つ目は「ラインケア」です。上司をはじめとした職場の仲間が、自分の職場に体調が悪い人がいないか発見し、適切な専門家につなぐことを目的としています。

 

3つ目は「事業場内産業保健スタッフによるケア」です。会社の中にいる労働者の健康管理を専門に行うスタッフが、職場の監督者や労働者に直接何らかの支援を行うことを目的としています。

 

4つ目は「事業場外産業保健スタッフによるケア」です。会社外で健康管理を専門に行う専門家が治療や予防といった支援を行うことを目的としています。

 

これが、厚生労働省の「心の健康の保持増進のための指針」で述べられている4つのケアです。

 

職場の管理職が担うケアは2つ目のラインケアということになります。健康管理を専門に行う部署の管理職の場合は、事業場内産業保健スタッフによるケアを担うことになります。

 

様々な議論がされていますが、企業の心の健康の保持増進に関しては、ラインケアがしっかりと機能するかどうかが鍵を握っています。

 

なぜならば、会社の中に健康管理を専門に行う部署があったとしても、その部署のスタッフがすべての労働者の健康状態を把握することは不可能に近いからです。

 

しかし、管理職であれば自分の職場のスタッフ把握しているものですし、ちょっとしたことに気を付ければ、体調悪くしている労働者を容易に見つけることが出来るからです。

 

 

ラインケアとは

それでは、ラインケアをもう少し詳しく見ていきましょう。

 

先ほど、ラインケアは上司をはじめとした職場の仲間が周りに体調を悪くしている人がいないか発見し、専門家につなぐ、という説明をしましたが、ラインケアに求められていることはそれだけではありません。

 

部下がストレスをためすぎていないか、繁忙期で過重労働に陥っていないか、などを見極めて、必要であれば仕事量などを調節するというのもラインケアの一つの形です。

 

また、休職から復帰した労働者に対して、いきなり以前と同じ量の仕事を与えるのでなく、以前の半分の仕事から与えるというのも一つの形です。

 

要するに、「職場の上司が部下に対して、心の増進保持の観点から支援を行う」というのがラインケアということになります。

 

 

正しいラインケアのために

それでは、正しいラインケアが行われるためには、一体何が必要でしょうか。

 

まず、「精神障害や不適応に対する正しい知識」は必須項目と言えるでしょう。

 

まれに、「治療法こそが正しい知識」だと思い込み、診断や心理療法や投薬について学ぶ方がいますが、ラインケアにおいてはそこまでの知識は必要ありません。

 

「うつは甘え」や「傾聴とはただ聞くだけ」などの偏った考え方に陥らないための最低限の知識とお考え下さい。

 

管理職に向けて書かれたメンタルヘルスの本などがあるのでそういったものを一読されることをお勧めします。

 

また、職場内に産業保健スタッフがいるならば、管理職向けのメンタルヘルス講座などを開いてもらうのも良いでしょう。

 

 

ラインケアが重要視される理由

前述したように、すべての労働者を産業保健スタッフが把握するのは難しいです。これがラインケアの重要視される一つ目の理由です。

 

また、産業保健スタッフはメンタルヘルスにおいては精通しているかもしれませんが、業務内容については完全に把握してはいません。一方で、仕事に従事していない労働者はいません。

 

時には、仕事が原因で体調を悪くすることもあるので、産業保健スタッフは産業保健スタッフの観点で、管理職は管理職の観点で労働者を見ていくことが必要なのです。

 

しかし、残念ながら、労働者の心の健康の保持増進という目線で労働者を見ることが出来る管理職というのは多くありません。

 

そのため、心の健康の保持増進が、産業保健スタッフ任せになって休職を繰り返したり、時には退職してしまったりということが増えてしまうのです。

 

管理職が心の健康の保持増進という目線を持ち、産業保健スタッフと連携をとることが出来るのであれば、労働者の健康は守られ、会社の生産性はより高まるでしょう。

 

だからこそ今、ラインケアの出来る管理職というのが色々な業種の企業で求められているのです。

 

 

ラインケアで必要な管理職の能力

それでは、実際にラインケアを行う上で必要な管理職の能力は何でしょうか。

 

まず前提として、先ほど挙げた「正しい知識」は必須です。

 

「うつ病になるのは根性が足りないからだ」などと思っていないでしょうか。これは「根性が足りないから、胃がんになったんだ」という言い分と同じくらい突拍子もないことです。

 

「食べてもすぐに嘔吐してしまい、吐血する」

「何も食べることが出来ずに日に日にやせ細っていく」

 

もし、このような部下がいたら「ちょっと病院行ってみて」と言うのではないでしょうか。

 

これと同じように、うつ病などの兆候が出ている部下がいないか注意深く見ることは非常に重要です。そしてこれは「正しい知識」なしでは成しえません。

 

そして、「誰か一人が過重労働に陥ってしまわないような職場環境づくり」というのも必要な能力の一つです。

 

誰か一人に仕事が偏ってしまえば、その人がメンタルヘルス不全を起こす可能性は高くなりますし、その人が抜けた穴を埋めるために、また誰かが過重労働をしなければなりません。

 

そうすると第二、第三の休職者が登場してもおかしくありません。そうならないように、仕事量を調節していくというのは、ラインケアのできる管理職に求められている能力と言えます。

 

「しっかりと相手の言うことに耳を傾けることが出来る」というのも必要な能力の一つです。

 

よく例に出す話があります。学校の職員室に「相談がある」と来た生徒がいたとします。

 

生徒が「勉強に集中できない」と一言相談すると、教師が「こうすればいい」「ああすればいい」と一方的にしゃべり相談の時間が終わってしまいました。

 

この例では、生徒は「勉強に集中できない」という一言しかしゃべっていません。その背景には、両親の不仲があるかもしれませんし、恋愛の問題や部活の問題などが絡んでいるかもしれません。

 

このように、相手の話をよく聞かずに、一方的に話していることはないでしょうか。

 

部下の話をしっかりと聞けないと問題の本質に近づくことも難しくなりますし、何より信頼関係の構築にも影響を及ぼします。

 

職場の管理職も、部下のことを隅々まで把握しているのかと問われると、そうではないと思います。普段から職場で働いている人たちが、自由に発言できる雰囲気を作っておくというが必要です。

 

「Aさんが具合悪そうです」

「Bさんが最近、寝られていないと言っていてとても心配しています」

 

などこのようなことを言える雰囲気を作ることで、管理職は労働者の健康状態を把握しやすくなるでしょう。

 

 

以上のことに気を付けて、行動してみると「ラインケアの出来る管理職」として開花するかもしれません。

 

繰り返しになりますが、ラインケアの出来る管理職がいるかいないかで職場の環境や生産性は大きく変わります。

 

意識するだけでも大分変ってきますので是非明日から意識してみましょう。

 

 

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icon_4【執筆】

林田 一

臨床心理士

 

 

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