ネフローゼ症候群を受容していない私が患者・支援者として持つ希望

2020.03.08公開 2020.05.07更新

ネフローゼ症候群、退院後の再発

近藤
退院後は、お勤めの会社に復職?
田中さん
いえ。退院して自宅で療養していたら、1ヶ月で再発してしまって。
近藤
1ヶ月で…!?
田中さん
ただ二度目だったので、最初よりは早めに対処ができ、1ヶ月で退院できました。
近藤
でも、そんなにすぐに再発してしまうんですね。
田中さん
自宅療養していた1ヶ月間は、病院の指導を守り、さらに自分流に厳しく生活改善に取り組みました。

 

ただ少し神経質にやりすぎていたかもしれません。

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近藤
守っていたのに再発?
田中さん
再発の原因はわかっていません。

 

もちろん、塩分やナトリウムの量を毎回細かく調べていたのは勉強になりました。

 

ただ完璧主義になり過ぎて、それが守れない時には逆にストレスになっていたんだと思います。

近藤
ネフローゼ症候群の食事制限では、どのあたりを意識していたんですか?
田中さん
主に、塩分と蛋白質ですね。入院中で尿が出ない時は飲水制限もありました。
近藤
水分も。
田中さん
結局、体から出せず、飲めば飲むほど体がむくんじゃうんですよ。

 

口が乾いたら、含んで出すという感じでした。

 

入院中にたんぱく尿が出ている間は、腎臓に負担がかかるから蛋白質の制限があったり。

 

ただ、普段は「塩分の摂り過ぎ注意」や薬の飲み合わせで食べられないものがあったりくらいです。

近藤
厳密に管理しすぎて、しんどくなるのは本末転倒ですもんね。
田中さん
昔は何が何でも一食の中の塩分量を守ろうと必死でした。

でも今は、三食のトータルや、翌日の食事などでざっくりと帳尻合わせたりもしています。

近藤
最初のうちは神経質になっちゃいますよね。
田中さん
でも、それが病気には良くないのかもっていう…。
近藤
その試行錯誤を経験されているから、今は適切な意思決定ができているのかもしれないですね。
田中さん
以前は、再発する度に「ふりだしに戻る」という感覚でした。

 

たしかに、せっかく減ってきていた薬が再発する度にまた大量の服薬から再スタートするのはしんどいです。

 

でも、再発によって知見が積み重なっていくので、決してふりだしではないと思っています。

近藤
まさに経験したからこそ、ですね。
田中さん
再発して「またイチからか…」ってヘトヘトになる人も多いでしょうね。

 

私も薬を飲むことを1ヶ月ボイコットしたことがあります。

 

いきなり止めるのは生命に危険が及ぶかもしれないのに、当時はどうでもよくなってて。

近藤
そういう時期があったんですね。
田中さん
命に関わるほど危ないので決して真似はしないで欲しいのですが、「もう薬は1粒も口に入れたくない!」と。

 

そのくらい追いつめられるので、再発で苦しんでいる人には「見えないところで積み上がっているものがあるから、ふりだしではないよ」と伝えたいと思っています。

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近藤
経験者からの言葉って、すごく励みになりますもんね。
田中さん
当初から再発しやすい病気とは聞いていたけど、努力しても報われない感じが虚しいんですよね。

 

当時の私は結局、最初の入院から数えて約2年間仕事を休みました。

近藤
病休と傷病手当を活用して休職を?
田中さん
そうですね。もうなんか…仕事する気にならなくて。笑

 

食事を作ったり散歩したり、自宅で生活する訓練をしていました。

近藤
入院前はバリバリ働いてたんですよね?
田中さん
そうなんですけど…私がいなくても会社は回ることに気付いてしまったんです。

 

組織だからもちろんそうあるべきだし、もちろん迷惑もたくさんかけたんですけど。

近藤
辞めることも視野に。
田中さん
仕事は楽しかったのですが、実際、期限までに復職できなかった時のことを考えたり。

 

不安や焦りで考えがひっちゃかめっちゃかになっていました。

近藤
復職に向けて会社とはどのようなやり取りを?
田中さん
傷病手当の書類を月イチで送っていたこともあり、その時に今の様子を伝えていました。

 

上司がすごく良い方で、週イチでちょっと笑える営業の面白話をメールで送ってくれたり。

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近藤
それはめっちゃ良いですね。
田中さん
その後、主治医と相談しながら時短勤務で復帰しました。
近藤
復帰後は、以前の営業職に?
田中さん
いえ。体力的に営業にすぐ戻るのは無理だと思っていたので。内勤の業務に変更になりました。
近藤
復帰はスムーズでした?
田中さん
そうですね。

 

段階を踏んでフルタイムに戻していく「リハビリ休職制度」というものがありました。

 

最初は時短で、午前中だけ働いて徐々に時間を伸ばして慣らしていくのは良かったです。

近藤
復帰後、職場ではネフローゼ症候群への理解はありましたか?
田中さん
はい。ただ、復帰までこんなに時間がかかると思ってなかったみたいです。

 

医師とも復職に関してはずっと相談はしていましたが、私自身、本当に自信を喪失していて。

 

もしかしたら、本当はもっと早く戻れたかもしれませんが、「気分が乗らなかっただけ」なんて言えないですよね。笑

近藤
無理にすぐに復帰すれば良いわけではないですからね。

 

そこのホンネはしっかり記事にさせてもらいます。笑

田中さん
色々な考え方がありますが、使える制度をしっかり使って、復帰に向けて体調を整えることも選択肢の1つだと思っています。

 

長い人生ですしね。

 

復職、再発、そしてアメリカ

近藤
復職後の体調は?
田中さん
もともと2時間通勤だったところを引っ越しをして、30分で会社に着けるようにするなどして、安定はしていました。
近藤
復職した後も何度か再発があったとのことですが、どのように気付いたんですか?
田中さん
むくみが出る前に気付けるようになっていました。

 

疲労感が溜まってきた時にたんぱく尿の検査紙で自分で尿を調べて、色が変わっていれば再発という感じ。

近藤
なるほど。そして2015年秋に大きめの再発を?
田中さん
久々の入院でしたね。

 

当時もふりだしに戻る感覚で、メンタルがヘトヘトでした。

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近藤
またか…という落胆ですよね。
田中さん
しかも、仕事でチャレンジしたい意欲が湧いてくる時に再発するのが悔しくて…
近藤
その後、10年勤められた会社を辞められたきっかけは?
田中さん
アメリカに行ける切符が手に入ったことです。
近藤
アメリカ!?

 

いつ頃から行こうと考えていたんですか?

田中さん
2015年の秋の入院時です。

 

嫌になって主治医に愚痴っていたら、「田中さんの場合は環境要因もあるかもしれないから、思い切って変えてみたら?」と。

近藤
それでアメリカ行きを決意?!
田中さん
「環境と言ったら仕事かなぁ」と思いながら、たまたまアメリカ留学のことを見つけて。

 

入院中のベッドから、エントリーシートを出して通っちゃいました。笑

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近藤
え、すごい。笑
田中さん
薬を飲み続けなきゃいけないけれど、私の場合は、薬のほかに、「働くこと」が病気に効くような気がしていて。

 

「仕事でお金が入ると余暇に使えて心身ともにリフレッシュできるなあ」
「仕事をしている時は病気の事を忘れられるなあ、職場で人と話すのも気が晴れるなあ」

 

という感覚がぼんやりとあって。

 

近藤
その思いが、今のお仕事や当事者会の立ち上げにつながってくるんですね。

 

アメリカ留学では福祉の勉強がメイン?

田中さん
「難病や障害と仕事」「マイノリティ」をテーマに、企業訪問などを通じて調査していました。
近藤
実際行ってみてどうでした?
田中さん
色々ありますが、日本との違いをまず最初に感じたのが、「他人が他人でない」という感覚。

 

日本だと道端で知らない人にぶつかっても謝らない人も多いけど、少し当たっただけでもちゃんと謝る。

 

目があったらにっこりする。その洋服いいね!とほめてくれる。

 

もしここで私が体調不良で倒れていても、「きっと誰かが気にかけて助けてくれるだろう」という安心感がありました。

近藤
「難病と仕事」に関する取り組みも日本とは違うんですか?
田中さん
当時アメリカでは、企業の求める項目さえクリアできれば障害があっても関係ないと聞きました。

 

「この仕事さえできれば、障害があろうがなかろうがどっちでもいいよ」という考え。

近藤
以前のインタビューで、「求人情報内に『心身ともに健康』という書き方に違和感がある」とも仰っていましたよね。
田中さん
今はさすがに日本でも堂々と書くことは無いと思うのですが、昔は結構ありましたよね。

 

それに「心身ともに健康」というワードって疎外感があるんですよね。

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近藤
たしかに、病気に罹っている人にとっては疎外感のある言葉ですね。
田中さん
私は寛解している時はわりと元気だけど、心身ともに健康じゃないときもあります。

それに心身ともに健康な完璧な「健常者」って存在するんですかね?それは幻想な気がします。

みんな弱いところがあると思う。

近藤
皆がみんな、皆勤賞レベルで健康なわけではないですし。
田中さん
あとは、会社内でのマイノリティのグループ活動が活発と聞いたのも印象的でした。

 

LGBTとか人種でもグループがありましたね。

近藤
サークル活動みたいな?
田中さん
そうですね。グループ活動を通して会社に要望を伝えたりしているみたいです。
近藤
社内でグループがあれば声を挙げやすくなりますよね。
田中さん
日本の場合、「障害者雇用」で守られている側面はありますが、逆に言えば、手帳がなければ就職すら難しい現実があります。
近藤
難病の方の場合、障害者手帳を持っていない人も少なくないですよね。
田中さん
そうですね。

 

「配慮を受けるためには障害者雇用」みたいな1つのルートだけでなく、もっと働き方にバリエーションあってもいいのかなと思います。

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近藤
職場でちょっとした配慮があれば、障害者採用でなくても、もっと活躍できる人はいるということですよね。
田中さん
そうですね。でも現状、その受け皿が今の社会にはまだまだ少ないのかなと感じています。

 

元々、持っている素晴らしい個性もあるので、選択肢がもっとあれば広がるのになと思います。

近藤
どうしたら、選択肢が広がっていくんでしょうか。
田中さん
「そうやって働けるんだ」っていう事例を少しずつでも増やしていければじわじわ変わるのかなと思います。
近藤
ぜひいくつか教えてほしいです!
田中さん
そうですね…。例えば、以前の職場(就労継続支援A型)では花屋やカフェの接客をやってもらっていたんです。
近藤
障害者採用の職種って事務職が多いイメージですが。
田中さん
自分にできるか不安になっているだけで、接客に興味はある方も少なくないですよ。

 

その職場では気遣いのある優しい接客をしてくれていたんですね。

 

現在の社会では、その人の個性の前に健常者・障害者って括られる事もあるように感じますが、いつかその必要も言葉も無くなればいいと思います。

 

ちょっとした工夫や配慮で、職種を限らず、働きたい人の働く選択肢が広がればと思っています。

近藤
他にはどんな工夫が考えられますか?
田中さん
難病でいうと、再発等で働けなくなった時期に体調が落ち着いてきたらリハビリ的に仕事をしたいニーズはある気がします。
近藤
リハビリ的に仕事?
田中さん
はい。私も実際に経験したことですが、症状が和らいでくると、「もしかしたら仕事できるんじゃないか」と思うようになるんです。

 

ただ、まず何からしてよいかわからず、それが焦りに変わってきてしまうこともあります。

近藤
そこで、リハビリ的に仕事を?
田中さん
そうですね。例えば、1日1時間でも仕事があれば社会と繋がることができるし、それがリハビリにもなる。

 

今は職場復帰か休職か、いわば10か0を選択する状態。

 

でも、いきなり0から10というのは負荷が大きいので、希望者は少しでも仕事に携われるといいなと感じています。

 

アメリカのフードバンクでボランティアをした時、認知症の方も数時間そこで一緒に働いていました。

 

ケアされ続ける対象ではなく、出来る範囲で社会に貢献したいという気持ちを大切にしていると感じました。

近藤
リハビリがてら自宅で少し仕事に携わり、次のステップで正式な職場復帰として、時短勤務という感じですよね。
田中さん
仕事復帰前から少しずつ負荷を増やす方が、無理がなく出来ると思います。

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近藤
ちなみに田中さんの今の働き方は?
田中さん
1日7時間×週5で在宅ワークという働き方になります。
近藤
ゼネラルパートナーズに入社後、ずっと在宅ワークを?
田中さん
いえ、最初はリンクビー秋葉原で就労支援をしていました。

 

ところが、2019年5月に再発して9月まで自宅療養をしていたんですね。

 

それを機に会社と相談して、復帰後は現場に戻るのではなく、もともと兼務をしていた企画のお仕事専従にすることになりました。

近藤
在宅ワーク、どうですか?
田中さん
やっぱり、通勤の負荷がないのは大きいです。

 

前よりもうまく時間が使えるようになって、治療と仕事の両立はよりしやすくなりました。

近藤
会社側はどのようにして勤務管理をしてるんですか?
田中さん
私は11時から19時まで仕事をして、その日の終わりに上司や人事に活動報告をし、勤怠をつけています。

 

あとは週2回30分ずつ、大阪にいる上司とTV会議をしてコミュニケーションをとるようにしています。

近藤
具体的にどんなコミュニケーションを?
田中さん
上司は仕事の依頼のほかに「体調どう?」と聞いてくださいますね。

 

私からは仕事の報連相や、仕事に直接関係のないちょっとした事も相談します。

近藤
定期的に上司とカジュアルに話せるのは安心ですよね。

 

体調の波はどうですか?

田中さん
割と安定しています。が、もちろん体調の悪いときもあります。
近藤
体調が悪いときにはどうしてるんですか?
田中さん
在宅の場合、一日休みを取るほど大げさなことをしなくても、少しの間、ベッドやソファで横になっていれば体調が回復して、仕事に戻れたりするんですよね。
近藤
なるほど。たしかに、出勤して体調が少し悪くなっただけで早退だとロスが大きくなりそう…
田中さん
そうですね。日々の体調変化は、日報や週2回の電話会議でも伝えるようにしています。
近藤
変な質問ですけど、上司との週2回のやり取りってマンネリ化しません?
田中さん
確かに。笑。

 

でも、今の上司は、オンラインでもちょっとした声がけが素敵で、色々な会話が出来ますね。

近藤
リモートでもそう感じさせるって、すごい上司ですね。
田中さん
仕事をほめてくださった時に合わせて言ってくださるのが、

 

「くれぐれもご無理ないように」
「ベストじゃなくてベターでいいからね」

 

とか。じーんと効く言葉をいくつもくれるので、メモを取ってます。笑

近藤
頑張りすぎずに済むブレーキになりそうですね。
田中さん
そうですね。

 

「ご無理なさらず」とも言ってくれるので、ご無理しないようにしています。笑

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近藤
リモートでそこまで信頼関係が築けているのは、もともと一緒に仕事をしていたからですか?
田中さん
いや、リモートで初めて上司になった方です。5か月くらいですかね。
近藤
リモートで、そこまで信頼できるものなんですか?
田中さん
「もし自分が上司の立場だったら、そこまで声がけできないだろうな」というところまで気にかけてくれているので尊敬ですね。

 

不信感って相手が何をしているか、考えているかわからないというところから始まるので、リモートは特に意識的に多めに話す事が大事なのかも。

近藤
信頼感とか職場の人間関係で悩む人が多い中、リモートで実現できているのは素晴らしいですね。

 

ネフローゼ症候群の患者会立ち上げ

近藤
「発症から立ち上げまで8年」とのことでしたが、発症した時から患者会を立ち上げようと思ってたんですか?
田中さん
周りにもいなかったし、情報も少なかったので「誰かやってくれないかな」とはずっと思っていました。他力本願的に。笑
近藤
8年の間、同病の方との関わりはあったんですか?
田中さん
一切なかったですね。

 

どこかに同病の人もいるんだろうなと思いつつ、孤独に苛まれながら自己解決していました。

近藤
そんな中、患者会の立ち上げのきっかけは?
田中さん
渡米前に難病や障害の調査のために、Twitterで細々とお声がけを始めたことがきっかけです。
近藤
患者会HPで「患者の力で治りにくい病気を治せる病気に」という言葉を拝見しました。

 

寛解と再発を繰り返すことで、治す気持ちが薄れていくというお話もお聞きしましたが、完治に対する思いに変化はありましたか?

田中さん
発病した当初は「治さなきゃ」というプレッシャーがありました。

 

あと、職場復帰して「治ったんだね」と言われるけど、実際は治ってないんだよなぁという悶々とした思いもあったり。

 

でも今は、いつかは完治すると思っています。

 

それをどれだけ早められるかが、私の中でのミッションです。

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近藤
現在(※2020年2月時点)は完治する病気とは言われてないんですよね?
田中さん
そうですね。発病の理由もはっきりしていないし、完治するとは言われていません。

 

それでも、患者次第で完治できる病気になると信じています。

近藤
患者次第?
田中さん
私個人の想いとしては、完治に至らない背景のひとつには、患者会がなかったり患者からのアクションが少なかったこともあると思うんです。
近藤
もっと患者さんからの情報提供が必要だと。
田中さん
「ネフローゼ症候群診療ガイドライン2020」という、医師が診療の参考にする本を出すのですが、その作成に私も参加しています。

 

参加してみて、エビデンスが足りないんだろうなと思ったんですね。

近藤
患者からの声をなかなか拾えきれず、エビデンスを得ようにも研究数がどうしても少なくなってしまう…。
田中さん
そうですね。

 

他の患者会の例では基金を作って、自分たちが必要とする研究をおこなった医療者に対して、アワードとして研究費を渡しているらしいんです。

近藤
それは面白いですね。
田中さん
金額自体は少額であっても、患者のためになっているなら、医療者としても励みになると思います。

 

患者の立場としても、どういった研究を進めてほしいのかの意思表示にもなるので、今後ぜひやってみたいですね。

近藤
患者が医者を表彰するという斬新さが良いですね。
田中さん
患者と医療者がネフローゼを治すチームとして対話しながらやっていかないと、いつまで経っても一向に患者の私は薬を飲み続けるまま。

 

治る保証はないですけど、完治するという希望を持ち続けたいなと思います。

近藤
医療者との協働が患者会にはますます求められていきそうですね。
田中さん
はい。研究に関しては医療サイドからだけでなく、患者が自分で研究テーマを決めて研究して成果を発表しても良いと思います。

 

双方向であることが大事かと。

近藤
今のネフローゼとの向き合いはどう変化しましたか?
田中さん
最初はネフローゼが「いなくなってほしい」と思っていました。もう一刻も早く。

 

でも、途中から私の人生にとって味方になっていると感じてきました。

近藤
味方?
田中さん
患者会もそうですが、ネフローゼがあったから出会えた人も知れた世界もあります。

 

もともと無理しがちな私をネフローゼが再発をちらつかせながら、いい塩梅で見張ってくれています。笑

 

直視したくなかったムーンフェイスで丸くなった顔も「悪くないな」という境地にまで。笑

近藤
へぇ!
田中さん
以前は鏡を見るのも避けていたし、写真を撮られることも嫌でした。

 

変わってしまった姿を直視出来なかったし、それは病の象徴でした。

 

本当の自分ではないんだとも思っていました。

 

――カメラマンの手が止まる

 

田中さん
今は全然大丈夫です!

 

むしろ昔の写真が残ってなくて残念くらい。笑

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未だに受容はしていない

近藤
疾病の受容って難しいと思いますが、それができているように感じました。
田中さん
いや、未だに受容はしてないです。

 

味方だと思うときもあれば、嫌だなって思うときも。

近藤
これまでのお話を伺うと受容できているようにも感じますが…?
田中さん
全然してない。笑
近藤
ほう…。逆に何ができたら受容なんですか?
田中さん
障害の受容についてよく話すんですけど、「それってなくない?」と思うんです。

 

日によってプラスにもマイナスにもなるから、ゆらぎがあるものだと思っていて。

近藤
たしかに…
田中さん
それに障害って、その人の中にあるものではなくて、人と人の間に存在するもの。

 

だから、一方的に「障害がある」と言われている側が、障害を受容する・しないという考え方自体がおかしいと思っているんですね。

近藤
仰るとおりで…
田中さん
受け入れるか否かではなく、折り合いをつけるが近いのかなと思っています。

 

「折り合いをつける」という言葉は同病の方が教えてくれました。しっくりきます。

近藤
極端ですが、病気を受容していたら、気持ちが完治に向かわないということにもなりそうですね。
田中さん
私はこのままずっと永遠に薬を飲みながら、一緒にいたいとは思わないですね。笑。

 

ただ、同じ病気でも色々な考えがあるので、皆が皆、完治を目指さなくてもいいと思います。

 

解決法が無い中で完治のために努力するっていうのはすごくしんどいことだと思いますし。

 

それこそ折り合いをつけながら日々を大切に過ごすのも大事です。

近藤
受容より、実生活で折り合いをつけるほうが大事ということですね。
田中さん
ネフローゼになって12年経っても、嫌だって思うときはありますし。

 

ステロイドの副作用でうつっぽくなると自分でもコントロールできないし、予約外で主治医のところへ行ってボロボロ泣いてしまったり。

 

嫌だって思ったときに人に迷惑をかけている自分を認めながらも、どうやり過ごすか、という感じですかね。

近藤
ありがとうございます。

 

これからやってみたいこと

近藤
最後に、これからのチャレンジについてお聞かせください。
田中さん
テレワークや在宅ワークなどをはじめ、難病のある方の仕事の幅を広げる取り組みを進めていきたいです。

 

難病のある方の中には、手帳がないことで働くスタートラインに立てない方もいます。

 

療養中に少し働ける仕組みなども含め、もう少し緩やかにいろんな働き方の選択肢を持てるような活動をしていきたいと思っています。

近藤
陰ながら応援しています!
田中さん
あと仕事とは関係ないですけど、子どもがほしいなと長年思っていまして、主治医と相談しながら薬を減らしています。
近藤
そういった話も主治医と共有されているんですね。
田中さん
そうですね。最初は話せなかったけど、徐々に信頼関係が築けたので今は包み隠さず話しています。

 

嫌になって勝手に薬をやめるよりも、そういうしんどい気持ちも伝えたりとか。

 

それは支援する中で利用者さんに教えてもらったというか、この仕事に就いてから、出来るようになりました。

近藤
話すことで医師も受け止めてくれるんですよね。
田中さん
医師も知りたいと思うんですよ、長い付き合いになるし。

 

人生のビジョンを共有して一緒に計画しながら、治療していきたいと思っています。

近藤
田中さん、今日はありがとうございました!

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近藤雄太郎

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  • 本記事は2020年3月8日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。