【臨床心理士解説】心理的ウェルビーイングとは?②環境統制力・人生の目的・人格的成長

「ウェルビーイング」という言葉は、1946年の世界保健機関憲章草案において「良好な状態」「いきいきとした状態」を表す言葉として用いられています。

 

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.

(健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。)

 

6つの構成要素があると言われている心理的ウェルビーイング。

 

今回は、

・環境統制力

・人生の目的

・人格的成長

について、臨床心理士に解説していただきました。

 

【関連記事】

>>【臨床心理士解説】心理的ウェルビーイングとは?①自己受容・積極的な他者関係・自律性

 

1.環境制御力(environmental mastery)

環境制御力とは、一言で言えば「周囲の機会を有効に活用できる」という有能感のことです。

 

その場の文脈を理解して上手く適応したり柔軟に対応したりする力や、その中から自分に適したチャンスを見つけて活かすことが出来る力のことを指します。

 

また、状況をより良くするために働きかけるなど、周囲の複雑な環境を統制できる力のことも表しています。

 

アサーションのスキルを身に付ける

その場にうまく適応しながら周囲に働きかけていくには、アサーションのスキルを身に着けることが有効です。

 

アサーションとは「相手も自分も傷つけない表現方法」を指します。

 

相手の意見を押しのけたり自分の意見だけを主張したりするのではなく、相手の立場も受け止めながら自分についてもきちんと表現できることで、無用なトラブルを招かずに環境に働きかけることが出来ます。

 

多様性を受けとめる視点を持つ

また周囲に柔軟に対応するには、相手の主張や姿勢を受け止めて理解しようとすることが大切です。

 

環境制御力とは、単に強い力で周囲を無理やりコントロールすることではなく、

・周囲と上手く折り合いをつけながら自分らしくあること

・周囲の環境に適応しながら自分を活かすこと

といったような包含的な力でもあるからです。

 

自分ならどうするか?と考える

自分に適したチャンスを活かしていくために、普段から目についた問題について「自分ならどう対処するか?」と考えるクセをつけておくのも良いと思います。

目的を叶えるため、または問題を上手く処理するために最善の戦略は何か?

と意識しておくことは、いざ自分にチャンスが巡ってきた時により良く立ち回るため鍛錬になります。

 

2.人生の目的(purpose in life)

人生の目的(人生に意義を感じ、人生の目的や方向性が定まっている状態)を持つ上でのポイントや日常生活での実践ポイントも考えてみましょう。

 

他人と比較しない

人はそれぞれ、全く異なる人生を生きています。生きてきた環境も条件も、一人ひとり違います。

 

よって、自分の人生の目的や自分らしい生き方を考える時、それを誰かと比較することはできませんし、そうすることに意味はないと知っておくと良いと思います。

 

オーストリアの精神科医で心理学者でもあったアドラーは、

「理想の自分と実際の自分との比較から生じる劣等感は健全なものである」

と述べ、自己成長においては他者ではなく自分との対話こそに意味があると示しています。

 

大きな目的を叶えるために小さな目的を設定する

人生の目的を持つ上では、最終的な目的を叶えるため小さな目的を設定しておくことも大切です。

 

ある程度手の届きそうな挑戦的な目標を設定することは、行動力を強くしたりパフォーマンスを向上させたりすることが出来ると言われています。

 

人生の目的が見つからない時は?

自分のしたいことや生きがい、目的が分からない…

 

そんな時は、「したいこと」を探すことを一旦置いておいて、自分の良くないと感じる点や苦手なことを克服する努力をしてみるのも一つの道だと思います。

 

自分のウィークポイントを克服しておくことは、実際に人生の目的が見つかった感じられた時に、自分のプラスとして返ってくることでしょう。

 

3.人格的成長(personal growth)

最後に、人格的成長(成長し続けている感覚)についても考えてみましょう。

 

ウェルビーイングにおける「人格的成長」とは、

「成長し続けている感覚を有している状態」

のことを指します。

 

これには、新しい経験を積み重ねることへの積極性や抵抗感の低さ、自分を高めていくことができると思う感覚といったものも含まれています。

 

「人格的成長」を高めていくためには、マインドセットの考え方が役立ちます。

 

マインドセットとは「その人の経験や先入観などによってつくられた思考パターンや心理状態」のことを言い、中でも

「自分の才能や能力は、自身の努力や人からの助けによって向上することが出来る」

という考え方をグロースマインドセットと呼びます。

 

グロースマインドセットを持っている人ほど挑戦や失敗を恐れない傾向があると示されており、このことは新しい経験を重ねたり自分を高めたりすること(=人格的成長)にも繋がる考え方であると思われます。

 

では、グロースマインドセットを持って人格的成長を促すためには、どんなことに気を付けるべきでしょうか。

 

達成可能な目標を立てる

グロースマインドセットを育てるために、まずは身近で達成可能な目標を持つことから始めましょう。

 

私たちは、自分が目標に向かっていることを実感できると、よりやる気をもって前進してくことができるからです。

「去年と同じ時期よりも売上成績を伸ばす」

「前回のテストよりも〇点良い結果を出す」

「資格試験に合格する」

といった具合です。

 

グロースマインドセットを育てる意味でも、人格的成長を達成することにおいても、一つ上を目指して踏み出してみることが不可欠です。

 

「正しい努力ができたか」を問い直す

目標に向かって取り組むと当然何かしらの結果が出ますが、まずは結果の良し悪しを置いておいて、「努力できた」ということを認めるのも大切です。

 

自分なりに力を注いだ点を振り返り、そうできたことを「よくやったな」と受け入れてください。

 

そしてその上で、その努力の仕方は良い結果に繋がるものであるかを見直してみます。

 

どんな戦略が結果に良い影響をもたらしたのか、あるいはよく働かなかったのかを検討し、成功だけでなく失敗も学習のプロセスとしてとらえることで、その挑戦をまた次のチャレンジに活かすことが出来ます。

 

落ち込みや自信のなさを感じる時もあっていい

目標を達成できなかった時や、自分の自信のある分野で他の人がとても優れた結果を出したりした時、私たちは「もうダメだ」「自分はここまでだ」と自信をなくすことがあります。

 

これはある意味では仕方のないことですし、自然なことでもあります。

 

一方で、そんな時こそ「自分の才能や能力は成長させることが出来る」ことをことさら意識し、思い出しましょう。

 

落ち込みや自信のなさを感じている自分を受け入れた上で、その段階からもう一つ上のステップに行くためにはどうすべきかを考えていけると良いですね。

 

【関連記事】

>>【臨床心理士解説】心理的ウェルビーイングとは?①自己受容・積極的な他者関係・自律性

 

【参考】

「心理的ウェルビーイングとウェルビーイング療法に関する展望」

「成人女性の多様なライフスタイルと心理的well-beingに関する研究」

「看護師の心理的well-beingに対する職場におけるソーシャルサポートの効果―共分散構造分析を用いた検討」

「嫌われる勇気」

「能力や素質は成長できるとする思考様式『グロースマインドセット(しなやかマインドセット)」で陥りやすい落とし穴とは?

「『成長する考え方』と『成長できない考え方』の違いが20年の研究で明らかに」

「人生をイージーモードに切り替える『しなやかマインドセット』の育て方」

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鈴木さやか

臨床心理士・公認心理師

心理系大学院修士課程を修了後、臨床心理士資格を取得。福祉分野のケースワーカーとして従事したのち、公的機関でテスター兼カウンセラーとして勤務。子どもの問題(不登校、非行、発達障害等)や労働、夫婦問題をはじめ、勤労者、主婦、学生など幅広い立場への支援を行っている。

  • 本コンテンツは、特定の治療法や投稿者の見解を推奨したり、完全性、正確性、有効性、合目的性等について保証するものではなく、その内容から発生するあらゆる問題についても責任を負うものではありません。
  • 本記事は2021年6月12日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。