元Gapマーケターが渋谷男女平等・ダイバーシティセンターから目指す社会
「パートナーシップ証明書」など、LGBTをはじめダイバーシティ推進に全国的にも先駆けて取り組む渋谷区。
今回のインタビューは、自身もLGBT当事者で、渋谷区の男女平等・ダイバーシティ推進に取り組む、永田龍太郎さんにお話を伺いました。
目次
Gap時代とLGBTのカミングアウト
はじめまして、永田龍太郎です。私は現在(2018年6月時点)、渋谷区の職員として男女平等と多様性社会推進に取り組んでいます。
大学卒業後、広告会社でプランナーの仕事をした後、ルイ・ヴィトンジャパンに入社。
その後、培ったマーケティングのスキルを他でも活かしてみたいという思いから、Gapに移ることになりました。
Gapでは、社内で当たり前のようにLGBTのことをオープンにしている人がいました。
「◯◯さん、パートナーとバケーションで旅行に行ってたんだって」
といった会話が社内でごく自然にされていて。本当に自然だったので新鮮に感じました。
そんな環境でしたので、私自身も「言い出しづらい」「言ったら何かリスクがあるかも」と、一日中考えながら過ごすことが、どんどん面倒になっていったんです。
「言いづらさ」に対して我慢したり、話す内容にフィルタリングすることに24時間ずっと自分の脳みそを使い続けることって相当な負荷になるんですよね。
でも、「オープンにしたところで、別に困らないんだったらもういいや」と、たぶん入社3-4年経った頃に思い立ってカミングアウトしました。
私の場合は、いきなり「ゲイです」と打ち明ける感じではなく、「週末、みんなで遊んでて…」みたいな普段の会話の中で、徐々に小出しにしていったような記憶はあります。
実は、自分自身のカミングアウトをどうやってしたかって、あんまり覚えていないんです。笑
なので、自分のことを知って欲しいというよりは「面倒くさいからもういいや」っていう感覚でしたし、その感覚が持てたGapの環境はすごく有難かったなと思いますね。
Gapのフラットでオープンな文化
Gapのフラットでオープンな文化には、1969年にアメリカ西海岸から始まったという背景もあります。
1969年のアメリカでは、ウッドストックという伝説的なライブが行われたり、自由で新しい価値観を求めるカウンターカルチャーが一世を風靡していた時代でもありました。
そんな時代に、夫婦がお金を半分ずつ出し合って作った会社がGapだったんです。
「50:50でお金を出し合ってるから、意見も50:50でね」
というフラットなカルチャーからスタートした会社で、その意識は海外の支社においても、とても大事にされています。
また、Gapには「オプティミスティック(楽観的)」というキーワードをものすごく大事にする文化がありましたし、社内でもよく使われていました。
一般的に、「これが良くなかった」「ここが悪かった」というネガティブな議論で終始してしまうことは少なくないと思います。
そこをGapでは、「何がオポチュニティ(機会)だったの?」という言い方をするんですね。
要は、物事をチャンスとして捉えて建設的な議論をしていく。これは今まで勤めていた会社ではなかなか体験しなかったことでした。
そういった楽観的・明るいカルチャーによって、それぞれの従業員が100%の能力を発揮しやすくなりますし、上司は自分の部下が100%の能力を出せるようにすることに常に気を配っていました。
もし仕事で結果が出なければ、それは部下ではなく、マネジメントに問題があると。それくらい徹底していました。
Gapのカルチャーに根ざした取り組みの一つひとつが、LGBTだけではなく、他者への理解や多様な価値観を受け入れることにも繋がっているように感じます。
以前、本国のCSR担当の人と話をした時、
「学校でも家庭でもカミングアウトできない。でも、僕がバイトで働いているこのお店ではオープンにしていられる。」
「自分が一番自分らしく、安心していられるのはここなんだ」
という話をしてくれた子がいたそうなんです。
その話を聞いたときは、さすがにちょっと泣きそうになりました。
改めて、カルチャーの力ってすごく大きいんだなということを感じましたね。
個人的にもGapですごく学ぶことが多く、LGBTやジェンダーの多様性と平等に取り組む中でも、すごくヒントになっています。
渋谷を埋め尽くしたOUT IN JAPAN
実はGW期間中、マルイさんが、渋谷の公園通りにあるフラッグをOUT IN JAPAN(※)のポートレートで埋め尽くされました。
そのOUT IN JAPANプロジェクトの立ち上げに、当時はGapの立場から1年間支援していました。
私もOUT IN JAPANのプロジェクトで撮ってもらったのですが、1000人のLGBT当事者の人たちのスタイリングのお手伝いをしました。
OUT IN JAPANでは、10年20年経っても色褪せない、その人の個性がしっかりと表現をされている写真を創ることが目標でしたので、
「今日、この人はどういう気持ちでここに来ていているのか」
「どういう自分でありたいと思っているのか」
という、被写体となる皆さん一人一人にしっかり向き合うスタイリングでした。
OUT IN JAPANプロジェクトでは、「テレビの中の人でしょ」と言わせないことが目的の一つです。
実際、OUT IN JAPANのコンセプト文でも「日本の市井に暮らすLGBTの人たち」と書かれています。
そして、ほぼ全員のポートレートには各々のメッセージが添えてあります。
参加するに至った思いや、ポートレートを見てくれた人に向けたメッセージなど、いろんな思いを寄せてくれましたが、まさに今、日本に暮らしている人たちの生身の言葉が、LGBTが当たり前の隣人であることを伝えています。
また、OUT IN JAPANのキャッチコピーとして、「カミングアウト・フォトプロジェクト」という言い方をしているものの、カミングアウトを推奨するのでは全くなくて、
「このポートレートをメッセージを通じて、自分以外のLGBTにエールを送っている」
ことだと私は思っています。
可視化されたメッセージは何も非当事者に向けられたものだけでなく、声を上げられていない当事者にも届くものだからです。
約1000人もの方と接する中で、もともと知り合いだった、あるトランスジェンダー男性のスタイリングをした時は少し衝撃的だったかもしれません。
スタイリングする際、骨格に合わせることを意識しないと格好悪くなってしまうことがあります。
Gapってメンズライクなレディースアイテムの取り揃えも充実しているので、骨格に合わせて、レディースのセーターなども使ってスタイリングしました。
その方に「どう?」って鏡で見てもらうと、すごく喜んでくれて、その場で写真を撮っていたんですね。
それで帰り際にさらっと僕に、
「龍ちゃん。僕、50年生きてきて、ファッションが楽しいと思ったの生まれて初めてだよ。ありがとう」
って、さらっと言って帰られたんですね。
この言葉は洋服屋として、すごくショックでしたね。
「ちょっと明るい服を着ようかな」
「今日は暖かくなるから、これ着よう」
「春物は何着ようかな」
という日々の楽しみがファッションだと当たり前のように思っていたんです。
それなのに、毎日楽しくもないファッションが、明日も待っている生活、人生ってどんなものだったのだろうって…。
これは本当にショックでしたね。
自分が着たい服を着れていることが、自分らしさにどれだけ繋がっているのかということを痛感しました。
OUT IN JAPANプロジェクトを通じて、アートとかエンターテイメントの力ってものすごく大きいことも実感しました。
各々の写真を自分のSNSに投稿して、カミングアウトされる方もいらっしゃいました。
ところが、カミングアウトとしての投稿のはずが、
「あの写真、すごく格好良い!」
「素敵!」
という反応がすごく多かったそうなんです。
そのことを知ったとき、「人権課題です!」という声の上げ方ではなく、「格好良い」「素敵」といった入口からLGBTのことを伝えていくアプローチが、マジョリティの中にある心の壁を壊していくきっかけになるということを学ばせてもらいました。
- 本コンテンツは、特定の治療法や投稿者の見解を推奨したり、完全性、正確性、有効性、合目的性等について保証するものではなく、その内容から発生するあらゆる問題についても責任を負うものではありません。
- 本記事は2018年6月4日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。