元Gapマーケターが渋谷男女平等・ダイバーシティセンターから目指す社会
目次
マーケターとしてLGBTに取り組む感覚
OUT IN JAPANを通じて、「自分が自分のままで暮らせる安心」の大事さを学びました。
そんな時、知人から
「渋谷区でLGBTやダイバーシティに取り組む人材を探していて話だけでも聞いてみない?」
とお声がけしてもらったんですね。
でも、自分がGapでLGBTの取り組みに関わっていたのはあくまで社内プロボノという意識で、自分から「LGBTのこと、やりたいです!」と手を上げたわけでは決してなかったんです。
もちろん、仕事としてきっちり取組みますが、自分としてはすごく受け身だったので、LGBTに関連する仕事なんて考えたこともありませんでした。
そもそも人権のプロでもなければ、LGBTの団体に所属していたこともないですし、「LGBTのことやります!」「LGBTの人権が!」といった気負いも全然なくて。
なので最初に渋谷区の話をもらった時は、「人権活動家のようなエキスパートの方が良いんじゃないですか」といったことをお伝えしていました。
ただ、自分はLGBT当事者でもあるので、コミュニティの仲間や自身の経験から、一般的にあまり可視化されていないニーズを知れる立場にいて、OUT IN JAPANでもたくさんの気付きを得ました。
と同時に、
「自分の持っている視野は狭いので、自分感覚で語ってはいけない」
「直接的に訴える以外に、社会課題を知ってもらうソフトなアプローチが求められている」
ということも十分に自覚しました。
さらに、LGBTに関しては日本でまだ誰も構造化していない事業の有りかたを組み立てて、当事者でない人でも事業を進められるようにしなければならない、まさに過渡期。
だからこそ、これまでの対象に寄り添いつつも、第三者的に支援する視点が求められるマーケティングの知見を活かしてできることがあるかもしれない…と渋谷区のお仕事をお受けすることにしました。
マーケターとして、LGBTというお題をもらっているという感覚が近いかもしれません。
自分のためだとか、自分のアイデンティティを掛けてLGBTを仕事として一生取り組んでいこうとは全然思っていません。
むしろ「いつまで僕は、LGBTに関わっていなきゃいけないんだろう」と、ふと考えたりします。笑
OUT IN JAPANという経験が無かったら、渋谷区での仕事は受けていなかったと思います。
パートナーシップ証明が始まって
パートナーシップ証明については渋谷区に限らずですが、
「行政が二人の関係を認知してくれるということが、心の安心に繋がっている」
という声は多くのみなさんに共通しています。
以前、渋谷区でパートナーシップ証明を取得された人に実態調査のインタビューをしたのですが、
「パートナーシップ証明を取ってから選挙に行くようになりました」
「選挙公報をちゃんと気にするようになりました」
「税金がどう使われているかへの興味関心が生まれた」
「渋谷区に税金を払っていることが嬉しい」
といった言葉がたくさん出てきたことが印象的でした。
ご一緒した研究者の方々も、こういった声が出てきたことに「今まで聞いたことがない」と驚いていました。
それはまさに「社会の構成員として認知されている」ことが、社会に対する意識、興味関心に繋がっているのではと感じています。
パートナーシップ証明って言ってしまえば、ペラっとした紙切れです。
これはLGBT当事者でもある私もですが、今まで透明人間として生きてきた感覚がある人にとって、紙切れ一枚であっても、これだけの意識の変化が生まれている点は特筆すべきことでもあると思っています。
「自分自身が存在としてしっかり認知されている」
「社会の構成員として認知されている」
こういった気持ちを持てることが、心の安定にこんなにも繋がっているんだ…と痛感しました。
ただ、パートナーシップ証明の受益者は、LGBTの中でも同性愛者で一緒に生きていくパートナーがいる人たちです。
当然、皆にパートナーがいるわけでもないですし、パートナーがいたとしても皆が結婚までいく関係性であるわけでもない…
まだまだ受益者が少なくて、大多数の人たちにとっては、なんの変化も生きやすくなったという実感も少ないと思っています。
そう考えた時に、渋谷区がLGBTの人にとって生きやすい街になっているかって言うと、全然そうではない。
もちろん、パートナーシップ証明を認めることは大きな一歩ですし、メディアでも大々的に取り上げられました。
しかし、LGBTの人にとって生きやすい街になるために、地域の中での本当に地道な啓発を丁寧に一歩一歩進めていくことがとても大切だと思っています。
皆さんが住む地域で、腫れ物に触れるような扱いを受けるのではなく、本当に生きやすいと実感できた時に、初めて日本の社会が変わったと言えるのではないかと思っています。
見えないづくしをどうするか
渋谷区では、「LGBT基礎講座&みんなでアライの輪をつくろう!」といった講座をさまざまな形で開催しています。
「LGBTって身近でなかなか知る機会がなかった…」
「テレビなどでLGBTって見聞きはするけど…」
といった人が多く参加してくれていて、「小さくとも、私にもできることがある」という気持ちを持ち帰っていただきたいという思いで、2017年に引き続き行っています。
LGBTって外見で判断できるものではないので、なかなか社会課題として認識されづらい面があります。
それと同様に、「LGBTも生きやすい社会になって欲しい」と思っている人もやっぱり外見では分からない。
この「見えないづくし」をどう見える化していくか。
LGBT当事者の人が顔を出すことはなかなか難しいですし、アライ(※)の人たちだからこそできることがあるので、「是非、その気持ちを見える化してください」と講座などでは案内をしています。
一方で、人を介したアプローチですと深い理解を創る上で有用ですが、人と人の「点」の繫がりとなるため、広がりは限定的なものになります。
特にアプローチの難しい無関心層に対しては、「しぶやレインボー宣言 POP」を渋谷区内の店舗のレジ横や会社の受付に置いてもらうことで、「面」で接点を作ろうという取り組みを始めたところです。
とても地味な取り組みではありますが、一歩一歩広げていくことが大切だと信じて取り組んでいます。
「見える化」への取り組みとして、渋谷区の花菖蒲のマークをLGBTを象徴する6色のレインボーカラーに染めるといったことも行っています。
区を代表するモチーフの一つを活用することで、渋谷区の職員にも「組織は本気だ」ということを一発で分かっていただけるようになりますよね。
行政サービスや地域のセーフティネットって、どうしてもアクセスしづらい側面があります。
そのため、渋谷区に勤める1人1人が自分の仕事に「LGBT対応」が必要なものがあるのかどうかを考えて取り組んでもらうことが大事になってきます。
そういった面からも、渋谷区としての姿勢を「見える化」することで、対外的にだけでなく、内部の意識を高めていくことにも繋げられたら、と考えています。
「大丈夫だよ」を言ってくれる場
「同性が恋愛対象として気になるんですけど変なんでしょうか?」
「いや、そんなことはないよ」
こんな一言二言のライトな会話や同じセクシュアリティの人と一緒に過ごす時間を通じて、自己肯定感が得られる場として、渋谷区の支援事業には、電話相談やコミュニティスペースなどがあります。
昨年1年での運営を通して学んだことは、
「人を尊重する」「他人を認める」といったことから、自尊心や自己肯定感が育まれることがあるということです。
自己肯定感を育んでいく上でも、「大丈夫だよ」と言ってくれる安心できる場はこれからも大切にしていきたいと思っています。
これは当事者としての私自身の話ですが、「大学卒業したら老後」ということをよく周囲と話していました。
でも、実際そうなんです。
結婚をして、子どもを育てて…みたいなライフステージの選択肢が、多くのLGBTには用意をされていない。
なので大学を出てしまうと、極端な話、自分が死ぬまで自分のためだけに生きていくという、砂漠のような時間が広がっていて…。
それはもう老後なんですよね。老後が20歳そこそこから広がっている。
自分が自分のためにどう生きたいかという問いを、なんのロールモデルもなんの道も示されないまま突き付けられた状態。
「なんの道もないけど、あなたの好きなように生きてください。じゃあね」
って、ポンっと放り出される感覚に近いでしょうか。
人生に迷ってしまったり、「若さ」だけでは生きていけなくなった40代でクライシスに陥ってしまう人の話を聞いたりもします。
LGBTに関して、子どもの頃から孤独感が強く、自尊心を育みづらい面が大きな問題のひとつとして挙げられます。
自尊心が低くて孤独感が強い状態では、自死やアディクション、もしくは仕事を続けていく気力が持てないなど、リスクがとても高いことは容易に想像できますよね。
だからこそ、「自分は自分のまま成長して、大人になっても良いんだ」という背中をどれだけ見てもらうかもとても大事で。
あまり、「普通」という言葉は使いたくないですが、
「LGBTであっても排除されることなく社会の中で生きている普通の大人だっているんだ」
ということを知る機会を増えていくことが大事なんだろうなと思っています。
「他人を認める」という話でいうと、私自身も苦労しました。
まだカミングアウトをしていなかった時、自分では「透明な鎧を着ていた頃」と言ったりしていますが、心の中に絶対的な防衛線を引いていたんです。
カミングアウトした後に初めて気づいたんですが、心の中に透明の鎧を着ていると、人とのコミュニケーションの距離を自分から詰めていこうとはしないんですよね。
そんな自分が変わるきっかけとなったのは、やはりOUT IN JAPANでした。
私自身のOUT IN JAPANのコメントの中で、
「自分を受け入れてもらえるか気にしてばかり生きてきたけれど、果たして自分は他者を受け入れようと努力したことはあっただろうか?」
と書きました。
自分から相手に歩み寄って寄り添い、自分も人も認めていくという経験は、OUT IN JAPANをお手伝いする中で、初めて得た感覚だったような気がしています。
それまでの私は、自分を受け入れてもらうことにリスクや不安を感じる一方で、誰かを認めたり、受け入れるためにあまり心を割いてこなかったなと。
自分を認めてもらうには、相手を認めることから。
何かを伝えるということは、相手に歩み寄っていくことでもあるんですよね。
ちょうど先日、イベントに登壇してお話をした時に、
「当事者性をどんどん拡張しようとしているんですね」
という感想を伺いました。
アライを可視化してどんどん広げて、無関心な非当事者性を減らしていくという方向性に興味を持たれたようでした。
大切なことは、当事者・非当事者という単純な二項対立で考えるのは危険だということです。
当事者の中にも、自分自身を受け入れられないLGBTフォビア(LGBTへの嫌悪、不快感)は大なり小なりあります。
当事者の中にもある非当事者性が、自尊心や自己肯定感にマイナスの影響を与えている場合もあるでしょう。
だからこそ、LGBTの社会課題に取り組む上で、当事者・非当事者の二元論ではなく、LGBT当事者も他のLGBT当事者のアライになってもらい、結果的に社会全体がLGBTや性差別について「自分ゴト」として捉えられるようになったらいいな、と思っています。
昔の自分に今、伝えたいこと
実は、子どもの頃から身体が弱かったこともあり、
「必ず逃げ道を作れるようにしなさい」
と、親に言われながら育ってきたので、何かにしがみつかないために、選択肢を持てるように頑張って、ここまで来たという感覚を持っています。
人生において、常にチョイス(選択肢)が持てるということはとても大事です。
それでも、自分がLGBT当事者であることで、
「こういう人生はあり得ない」
「こういう権利はない」
「俺はできない」
という「あきらめ」を無意識の中でたくさんやってきたんだなということを40代を迎えた今、振り返ると感じます。
しかし、いろいろな人達の頑張りによって、国や自治体の制度や社会が変わっていく中で、「僕には認められてない」と思っていたものが、実は別にそうでもなかったり、もしくは「自分にはこれが閉ざされていたんだ」と気づくこともあります。
なので、
「無意識のうちに閉ざしてしまった人生の選択肢に、たくさん気づいておこう。」
ということでしょうか、伝えたいのは。
「その人がその人のパフォーマンスを100%出せる社会を創りたい」
そのためには、皆の意識がもっとオープンになっていく必要があります。
これはLGBTの話だけでないんですよね。
病気や家族の有り様なども含めて、
「それがあなたが社会や職場から排除される理由にならないよね」
というオープンな意識を社会全体で共有する必要があると思います。
誰しも、何かしらのマイノリティ性は持って生きていますよね。
だからこそ、お互い様で皆で社会を作っていく意識が一番大事。
渋谷区としてもLGBTだけではなく、「多様性を認め合う社会」を掲げているので、LGBTをきっかけにそういった意識がもっと広まってほしいなと願ってます。
「多様性を認め合う」っていきなりは難しいので、まずは自分の中の多様性に気付くことから始めてみるのもいいかもしれません。
自分が思っている以上に、自分の中にも多様性があります。
まずは自分の中の多様性に気付くこと。
それぞれの一歩から、お互い様に色んな意味や形で助け合える社会をみんなで一緒に創っていきたいですね。
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- 本記事は2018年6月4日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。