心とはどこにある?心は読める?他者を理解するには?臨床心理士が解説

2018.11.24公開 2020.07.19更新

心はどこにあるの?

次に、「心のありか」について考えてみることにしましょう。

 

私たちは、好きな人を見ると胸がドキドキしてきたり、感情が大きく揺さぶられた時に「胸が痛い」と言ったりします。

 

びっくりしたときに、手で胸をおさえたりもしますね。

 

しかしながら、当然のことですが、人間の胸には「心」を見て取ることはできません。

 

それでは、「胸が痛いと感じさせる器官」、つまり脳に何か秘密があるのでしょうか。

 

確かに、私たちが日々行っている様々な営み(認知や意思決定などを含む、あらゆる精神活動)は脳の細胞の働きに依るものですし、脳の病気にかかることで人格に影響が出てくることもありますね。

 

近年は、心の正体は「脳の働き」にあるとする立場をとる人が多いようです。

 

では、「脳の働き」のような物理的な作用を「心」であると仮定して、「心のありか」を考えてみます。

 

すると今度は、脳の働きを「どこで区切るか」、つまり「どこからどこまでを脳の働き=心とみなして“心はここにあります!”と言うべきか」という問題が出てきます。

 

なんだか、終わりが見えなくなってきてしまいましたね。

 

このように、心のありかについて考えることは、非常に困難で複雑なことです。

 

古来から、哲学者や心理学者、脳科学者に至るまで、幅広い分野の人々が頭を悩ませてきました。

 

そして、確たる証拠をもってそのことについて論じられた人はいません。今後も多くの人がこの問題に取り組んでいくのでしょう。

 

(※)こちらの章は、私個人の実感も踏まえながら、以下のページを参考にして書きました。もっと詳しくお知りになりたい方は、そちらもご覧ください。

【参考サイト】公益社団法人 日本心理学会

 

 

心を行動・意識・無意識から考える

今度は、心についてもう少し的を絞って考えてみましょう。

 

心について知ろうとするときに、避けて通れないのが「意識」「無意識」です。

 

まず「意識」とは、私たちが「意識できる(その存在に気が付くことが出来る)意識」のことです。

 

自分の中に起こる欲求や認知、感情、思考など、自覚することのできる精神活動や機能などのことを指します。

 

一方「無意識」とは、私たちが気が付くことの出来ない(意識することのできない)精神領域のことです。

 

例えば「褒められて思わず頭を掻く」といったように、意図せず(=意識していないのに)出た行動などに、その片鱗を見ることが出来ます。

 

そして、「行動」とは「あることを行うこと」「人間や動物が示す観察可能な反応や行為」のことです。

 

行動は意識にも無意識にも影響を受けて発現すると言われています。

 

例えば、とある会議に出席したくないと感じている議長が、その始まりのあいさつに「それでは会議を<終了>しましょう」と言い間違えたとします。

 

この「言い間違い」は、議長の本心である「早く会議を終わりたい」という気持ちが言葉として表れてしまった、と考える訳です。

 

このように、「意識」「無意識」「行動」という3点は、お互いに関係しあって成立しています。そしてどれもが、心の側面を説明する重要なキーなのです。

 

 

「心を読む」ことは可能なのか?

さて、「心理学を勉強している」と言うと「人の心を読めるんですか?」と聞かれることがよくあります。

 

実際のところ、もちろんそんなことはありません。

 

多くの臨床心理士やカウンセラーは、理論に基づきながら、相手の心にあることを推測したり考えたりして、クライエントさんがより良く生きていくためのお手伝いをしようとしています。

 

それでは、「相手の考えていることを理解する」というのは、具体的にどういうことなのでしょうか。

 

次に、「他者理解」に関するいくつかの概念について簡潔に触れてみることとします。

 

 

他者理解のための3つのポイント

心の理論

私たちは日常生活の中で、他者の行動を理解したり予測したりするために、他者のとる行動の背後にある意図や信念を推測しています。

 

この「誰かの心について推測し、理解する能力」のことを「心の理論」と言います。

 

心の知能指数(EQ)

心の知能指数(EQ:Emotional Quotient)とは大まかに言うと、

「感情の意味や複数の感情の間の関係を理解する力」

「その理解に基づいて考えて問題を解決する能力」

を指します。

 

自分だけでなく他者の感情の状態を理解したり、人間関係上で起きる出来事に対応したりするための個々人の能力やその個人差を表す概念です。

 

EQが高いほど、自分や他人の感情を認識するのが得意であり、その場面に上手く対応できると考えられています。

 

共感

「共感」とは「他人の体験する感情や心的状態、あるいは人の主張などを、自分も全く同じように感じたり理解したりすること」です。

 

共感には、今まで見てきたような「心の理論」や「心の知能指数」といったような、他者の考えや思いをくみ取る力を必要とします。

 

共感や他者理解は私たちの社会性を形作る上でとても大切ですが、一方で、その理解はあくまでも「推測」の域を出ません。

 

他者を正しく理解するためには、「こう思っているに違いない」と決めつけず、その人の気持ちを理解「しようとする」姿勢を持ち続けることが重要です。

 

 

さいごに

今回は「心」に関する素朴な疑問について考えてきました。

 

心理学や心に関する研究は、目には見えないものを科学の領域に引っ張り上げることであり、とても難しいもののように感じます。

 

しかしその一方で、人間の根本を追究する興味の尽きない分野でもあります。

 

今後もまずます展望が開けていくことを期待したいですね。

 

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鈴木さやか

臨床心理士・公認心理師

心理系大学院修士課程を修了後、臨床心理士資格を取得。福祉分野のケースワーカーとして従事したのち、公的機関でテスター兼カウンセラーとして勤務。子どもの問題(不登校、非行、発達障害等)や労働、夫婦問題をはじめ、勤労者、主婦、学生など幅広い立場への支援を行っている。

  • 本コンテンツは、特定の治療法や投稿者の見解を推奨したり、完全性、正確性、有効性、合目的性等について保証するものではなく、その内容から発生するあらゆる問題についても責任を負うものではありません。
  • 本記事は2018年11月24日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。