身体と心の性の不一致。トランスジェンダーの苦しみとそこから生まれた希望とは。

2019.09.02公開 2019.10.01更新

身体の性と心の性は、全員がぴったりと一致するわけではありません。性の不一致に悩む“トランスジェンダー”の方は、世の中にある性への固定観念から、生きづらさを感じていることも多いそうです。

 

「性に違和感を持ったのは、小学生のとき」

 

そう語ってくれたのは、アーティストのPrius Shota(プリウス ショウタ)さん。あだ名はプリちゃん。プリちゃんは、身体は男性で、心は女性。その不一致に、思い悩む時期もあったそうです。

 

トランスジェンダーのことをオープンにし始めたプリちゃんに、性の不一致で苦しんだ過去、そして、苦しんだからこそ生まれたアーティストへの道について、詳しくお話を伺いました。
 
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【Prius Shota(プリウス ショウタ)】身体は男性で、心は女性のトランスジェンダー。性の不一致に葛藤しながらも、自分らしく生きるためにアーティストの道へ進む。光と色彩が美しい「心に灯す光と色彩のパレット」を生み出し、2019年11月には京都個展も開催予定。

 

〈インタビュアー くまのなな〉

 

簡単に分けられない性の世界

くまの
今日はよろしくお願いします!プリウス・ショウタさん…、プリちゃんって呼んでいいと言ってくれましたが、本当にいいですか?
プリちゃん
全然大丈夫ですよ!むしろプリちゃんで、お願いします。

 

あと、もうひとつお願いがあって…。LGBTについて、最初に簡単に説明してもいいですか?

くまの
もちろんです!私も理解が足りていない部分があるかもしれないので、ぜひお願いします。
プリちゃん
LGBTっていうのは、「L」は“レズビアン”、「G」は“ゲイ”、「B」は“バイセクシュアル”、「T」は“トランスジェンダー”。ここまでは、知っている方も多いと思います。

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プリちゃん
さらに厳密に言うと、「LGB」と「T」では違いがあるんです。

 

・「LGB」は、“どの性別の人を好きになるか”という、性的指向(せいてきしこう)について

 

・「T」は、“自分がどの性と認識しているか”という、性自認(せいじにん)についての話

 

LGBTって繋げて言っているから、みんな同じ仲間のように伝わるんだけど、そうではなくて。まぁ、仲間のようで、仲間ではない。実際に一括りにしても良いのかどうか、よく議論もされているんです。

くまの
みんながみんな、同じタイプのわけではないんですね。
プリちゃん
そうです。トランスジェンダーで、レズビアンの人もいる。トランスジェンダーで、ゲイの人もいる。トランスジェンダーで、バイセクシュアルの人もいる。

 

どんな性的指向を持っているかは、人によってまったく違うんです。

くまの
なるほど…。
プリちゃん
自分だったら、身体は男性だけど、心は女性。カミングアウトした友人からは、「じゃあ男性が好きなんだね!」と言われがちなんだけど、そうじゃないんです。

 

私が誰かを好きになるときは、性別やセクシュアリティは問わず、ひとりの人として好きになるから。性的指向としては、パンセクシュアル。全性愛とも呼ばれています。

くまの
パンセクシュアル…、ごめんなさい、初めて聞いた言葉です。教えてもらっていいですか?
プリちゃん
パンセクシュアルは、そもそも相手を性別で判断しない方のことです。私も、相手を女性や男性といった性別で判断していません。

 

心が女性だからって、絶対に“男性”だけを好きになるわけではないんですよね。

くまの
プリちゃんは、トランスジェンダーであり、パンセクシュアルでもあるんですね。
プリちゃん
そうです。性の世界って、本当に7色の虹のように種類が沢山あって。決して簡単に分けられるものではないんです。

 

LGBTの方に会っても、「きっとこうだろう」と勝手な判断で決めつけては、あまりよくないですよね。

 

あと、トランスジェンダーの中でも、さらに3種類に分かれているんですよ。

くまの
3種類…?

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プリちゃん
「トランスセクシュアル」と、「トランスヴェスタイト」と、「トランスジェンダー」の3種類です。

 

・「トランスセクシュアル(TS)」は、身体の性と心の性が一致していないことで、違和感や嫌悪感を常に感じていて、ゆくゆくは外科的な手術を望んでいる方や、もうすでに手術をされている方のことです。

 

・「トランスヴェスタイト(TV)」は、性自認と身体の性は同じだけど、異性の服装をする方。女装家さんが当てはまります。

 

・「トランスジェンダー(TG)」は、性自認と、周りから見られる性が異なる状態で、かつ外科的な手術は今すぐには求めていない方のことです。私も、ここに当てはまります。

 

この3種類はまとめて、広い意味として、「トランスジェンダー」と一括りに呼ばれているんです。

くまの
本当に人それぞれですね。人によって、抱えている思いも違うし、悩みの種類も違うし…。
プリちゃん
そうなんです。だからこそ簡単に相手を判断して、色々と決めつけてはあまりよくないんです…。
くまの
人それぞれだって、そんなこと当たり前なはずなのに、「性」に対しての固定概念で決めつけてしまうときがあるのかもしれないと感じました。ちょっと、自分が恥ずかしいです。
プリちゃん
心と身体の性が一致している方だって、いろいろなカラーがありますよね。女性らしさを持っている素敵な男性もいれば、男性らしさを持っているカッコイイ女性もいる。

 

トランスジェンダーの方々も、みんなそれぞれ、カラーがあるんです。

くまの
みんなそれぞれの、カラー…。
プリちゃん
ジャンルとして分けると「LGBT」の名前が広く使われているけど、実はLGBT以外にも、種類はあるんですよ。「LGBTQIA(+)」と呼ばれているものです。

 

・Q は、“クエスチョニング”
自分の性別がわからない、決めていない方々のことです。

 

・I は、“インターセックス”
生まれつき男女両方の身体的特徴を持っている方々のことです。

 

・A は、” アセクシュアル”
誰に対しても恋愛感情や性的欲求を抱かない方々のことです。

 

・+ は、“プラス”
それ以外の性や、名前のついていない性を持っている方々のことです。

 

本当に色んな種類に分かれているからこそ、LGBTQIA(+)がみんな同じではないということを知ってもらえたら嬉しいですね。

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プリちゃん
私はずっと身体と心の性が一致しないことに悩んできたけど、今はできるところから徐々に自分らしく過ごせるようになりつつあります。それでも、言葉に伝えることが難しいくらい、心の中では今でも常に葛藤の連続です。簡単に答えが出る問題じゃないから、ちょっとやそっとじゃ、解決なんてできないんですよね。

 

身近にLGBTの方がいたとしたら、どうか長い目で温かく見守ってほしいなと思います。ご本人もカミングアウトしたいけど、親を傷つけてしまうかもしれない恐れを抱きながら、心の中で常に格闘しています。

 

もし、親御さんがお子さんにカミングアウトされたら、LGBTは決して病気でも何でもなく自然なことでもあったりするので、「本当に望んでいる性別の身体として産めなくてごめんね」と悲しんで謝る必要もないと、私は思いますよ。

 

身体の性に違和感を覚えたのは、小学生の頃

くまの
プリちゃんが心の性身体の性が違うことに気がついたのは、いつ頃だったんですか?
プリちゃん
自覚したのは、小学生だったかなぁ…。でも、幼稚園の頃から、女の子が好むものが好きでしたね。セーラームーンのステッキとか、くまのぬいぐるみとか。

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「おままごとも大好きでした」

プリちゃん
自分の心の性に違和感を持ち始めたのは、小学校に入学してからです。

 

基本的に自分の好きなことで遊ばせてもらっていたから、自分らしくすくすく育って。仲よくなるのも、やっぱり女の子だったんです。

くまの
うんうん。
プリちゃん
でも、周りから見たら私は“男の子”だから。女の子と仲よくしていることに、男の子たちが傷つくようなことを言ってきて。それが、すごくショックだったんです。
くまの
自分はいつも通り、友達と仲よくしているだけですもんね…。
プリちゃん
そうなんですよ。でも、本当に傷ついてしまって。それ以上なにか言われないように、女の子と距離を取るようになりました。

 

その頃から、「自分って、他の人とはなにか違うのかも」と思い始めていましたね。

くまの
それからの学生時代は、どんな風に過ごしていたんですか?
プリちゃん
小学生のときは、まだ楽しく過ごせていたんです。多少の違和感はあったけど、まだ子どもだったから。

 

思い悩むことが増えたのは、中学生からですね。やっぱり、学ランがどうしても好きになれなくて…。無理に合わせてましたね。その時期に声変わりをし始めたんですけど、それも本当に嫌で。

くまの
思春期で、身体にも変化が現れるときですよね…。
プリちゃん
声変わりするまでは、とても高くて綺麗な声だったから、歌うことも大好きだったんです。でも、声変わりが始まってから異変を感じるようになって…。頑張って声を維持しようと、できるだけ高い声を使うようにしていました。

 

体も余計な筋肉をつけたくないから、あまり食べないようにしたり…。好きなものは別腹なんですけど(笑)

くまの
好きなものは別腹、分かります(笑)
プリちゃん
あと、中学時代、いじめにあってしまって。

 

勉強にも付いていけなくて、卓球部に入ってたんですけど、めちゃめちゃ下手だったし…。いろいろな点で目を付けられてしまったんです。

くまの
そうだったんですね…。
プリちゃん
自分の中では、本当に暗黒の時代。人とどうコミュニケーションを取ればいいのかも分からなかったんです。

 

常に受け身だったから、周りから「こいつならなにをしてもいい」と思われたのか、ちょっかいを出されたり…。苦しかったですね。

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くまのなな

ライター

  • 本コンテンツは、特定の治療法や投稿者の見解を推奨したり、完全性、正確性、有効性、合目的性等について保証するものではなく、その内容から発生するあらゆる問題についても責任を負うものではありません。
  • 本記事は2019年9月2日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。