【LGBT】職場のダイバーシティ、どう取り組んだらいい?当事者視点でクロストーク
目次
カミングアウトのきっかけ
このままでは自分が壊れてしまうと思いました。
「知ってもらえたらもっとよい関係になれるのではないか」
といった期待から、本当の自分のことを知って欲しい思いもありました。
見えない壁がなくなったため、今までよりスムーズにコミュニケーションが取れるようになり、私の場合、仕事のパフォーマンスが確実に上がったと感じています。
もちろん、まだまだうまくいかないこともありますが。
荻野さんはいかがでしょうか?
社会の「一般的」から外れてしまう怖さと、それでも止められない好きになる気持ち…。
そんな自分が許せなくて、とても苦しい経験をしました。
かといって、女性かと言われても何かちょっと違うなと。
それでも、他者から求められた在り方ではなく、何にも属さない私、枠にはまらない私を自分で知覚した時に、やっと自身と向き合うことができました。
と同時に、「本当の私自身を家族や友人にも知ってほしい」と。
雪解けのように少しずつわだかまりは溶けてきているのかなと。
これも一つの家族のかたちですからね。
「自分らしさ」を出して生きることがなんて楽しいことなのだろうか、と毎日が充実しています。
それは、自分が上手くカミングアウトを出来て、周囲の理解も得られ、生きやすくなったと感じていたから。
でも、カミングアウトできるけど、あえてしない人もいることを知り、「みんな、カミングアウトしちゃえばいいのに」とは思わなくなりましたね。
「しげ先生はLGBTをカミングアウトしてうまくいったかもしれない。けれど、子供が安心して嘘をつける環境を作ることも大事じゃない?」
って言われて、気付かされたところもあって。
実際、僕はビクビクしながら、性のことを嘘ついていた時期もあり、それがだんだんストレスになっていたんですね。
その言葉を言われて以来、みんながカミングアウトしたほうがいいという気持ちが全面に出ることはなくなりました。
あくまで「僕」はカミングアウトして良かっただけで、それがみんなに当てはまるわけではないので。
職場で性的マイノリティのことを伝えていない理由
一方で、性的マイノリティであることを理由に、働く上で困っていることへの質問で「困っていることはない」と回答した人は約6割ほどいます。
これらの数字に関して、どのようにお考えになりますか?
・困っていないから伝えていない人
・困っているから伝えていない人
・不利な状況になりそうで伝えていない人
など様々。カミングアウトせず、自分のスキルやキャリアでなんとか乗り越えてきた人もいます。
いずれにしても伝えていないことを個人の力量や責任に転嫁するのはまずいかなと。
実際に困っていないから伝えていないわけでもないと思います。
それで自覚なく、本当は生きづらいはずの状態にも鈍感になって、自衛のために「困ってない」と思ってしまっている人もいるかもしれません。
「そう思った方が楽だから困ってない」と思い込んでいたのかなと感じてしまいます。
常に困っている状態が続いて、毎回困っているとしんどくなるので、痛みや困りごとに対して「これ、困っていないことにしよう」と言ってたことがあります。
でも当時のことを思い出すとやっぱり困っていて、今でもつらくなります。
どうしたらいいんでしょうか?
あとは、PCにレインボーシールを貼ったり、社員証にレインボーのバッジをつけたりしていますが、「私もほしい」と言われることも増え、広がりを感じています。
わざわざ僕に見せてくれることも増えました。笑
100%全員がアライになるのも難しい現実があると思いますが、どう折り合いつけていらっしゃいますか?
「共感できない」から始めて、どこがもやっとするのかを対話しながら、まずは知ってもらうことが大切だと思っています。
100%共感してくれたら嬉しいことなのかもしれないですけど、その人がどう感じるかといった価値観まではコントロールできないし、しない。
共感できなくても共存はできると思っています。
なるほど…。
かつてアウティングされた経験に限らず、職場にもハラスメントまがいの発言はまだまだありますが、パワハラ防止法など制度面から人の意識もどんどん変わっていくのではないでしょうか。
100%の共感をゴールにしないで、色んな感じ方・考え方の違いと共存していくことが大事かと思います。
でも、カオスで混沌な状態でも物事を前に進めることもできるし、多様であることが大事だと多くの人が気づき始めていると感じています。
カミングアウトされた側の不安
実際、どう接してもらうことが良かったでしょうか?
・自分が感じたことを率直にアイメッセージで伝える
・わからないことは質問する
というのがポイントかもしれません。
「私の周りには今までいなかった」
「私はすごく驚いたよ」
といったアイ・メッセージは私を傷つけることはないですし、驚いてもらって私は大丈夫です。
上司にカミングアウトしたときは、「わからないことがあるから、教えて欲しい」と言われて、自分が尊重されているとも感じました。
「オランダのように同性婚が実現するといいね」とも言ってくれて嬉しかったのを覚えています。
本当のところで付き合える人か、一緒にいい仕事ができる人かどうかを見極めていたのかもしれないですね。
何か大切なことを同僚に話すときに、どんな反応をしてほしいですか?どんなふうに接して欲しいですか?
そこにヒントがあると思います。
戸惑っても大丈夫だし、驚いても大丈夫だし、黙らなくて大丈夫です。笑
荻野さんはいかがでしょうか?
興味を持って聞いてくれる人にはありがたい気持ちです。
何も特別扱いしてほしくてカミングアウトしているわけではないので。
一人の人間として「知ってほしい」「興味を持ってほしい」と思う気持ちが根本にあります。
私の場合は、カミングアウトというよりは「対話」に近いかもしれませんね。
初対面の人と話すときに緊張する気持ちと同じだと思います。
知らないからこそ「聞く」ことが一番大事かなと。
「どんな言葉をつかったらいい?」
「もし私が嫌なことを言ったら、指摘して欲しい」
と伝えてみてはどうでしょうか?
答えは相手の中にあることが多いです。
思うままに聞いてもらっていいと思っています。
正直、それが悪気のない差別的表現だったとしてもいいかなって。
一旦、ニュートラルに受け止めるので便利ですよ。笑
企業などの法人での取り組み事例
お勤め先、またはご存知の企業で取り組みのいい事例があれば教えてください。
他自治体から異動してきた教職員に対しても、毎年フォローアップの研修があります。
社内の取り組みを評価する「work with Pride」のような評価制度もあります。
一方、家族手当や慶弔休暇制度について、事実婚のカップルへ適用されていないケースは大企業でも多いようですが…。
取得条件が整っていれば、慶弔休暇、休業、転勤の際の手当てなどの福利厚生を受けられるので安心して働くことができています。
先日は、KDDIで同性パートナーを家族として認めるだけでなく、その子どもも家族として扱う「ファミリーシップ申請」を開始したと報道がありました。
拡大解釈したら事実婚なども対象になるかもしれません。
特に、同性パートナーを死亡受取金に指定できるサービスを開始したことは非常に素晴らしい取り組みだと思います。
ダイバーシティとインクルージョンの取り組みが進んでいくと、「それの何が問題なの?」となってくるようです。
制度もあるし理解啓発もある。
店員やお客さまの中にも同じような境遇の人がいるかもしれませんよね。
性的マイノリティに関する取組を進める上での課題
①当事者のニーズや意見を把握することが難しい
②どのような取組を実施すればよいのかわからない
これらを解決する上で、どのように取り組んでいくのがいいんでしょうか?
「申請したくても、上長をメールのccに入れなきゃいけない」ってカミングアウト強制じゃんとか。笑
声をあげる当事者の存在を待つことなく、できることから取り組みを進めることが大事だと思います。
「制度、作ってみたけど誰も使わないからやっぱり意味なかった」
といった悩みはよく聞きます。
でも制度があることで、励まされてる当事者もいます。
制度を使っている数だけで測らなくてもいいのではないかとも感じています。
LGBTに限らず、間口の広い制度のほうが不公平感もないし良いのかなと思います。
今あるものを見直して、その解釈とか適用範囲を広げてみることから取り組んでみてほしいですね。
2020年6月1日から、パワハラ防止法が施行されました(中小企業は2022年4月1日から)が、今後のポイントになると思います。
「男性だから、女性だから」
「異性愛者だから、同性愛者だから」
「結婚しているから、独身だから」
「子どもがいるから、いないから」
で居心地の悪さを感じないよう、社内の制度と空気感を整えて、定期的にブラッシュアップしていくことが「向き合う」ことなのかもしれませんね。
「かえって、特別な対応をしない方が良い」
前述した通り、カミングアウトすることは一人の人間として「知ってほしい」「興味を持ってほしい」「認めてほしい」と思う気持ちが根本にあると思っているので。
例えば、婚姻の平等。それを実現することは特別な対応ではなく、マイナスのスタート地点をゼロにするだけのこと。
「いっそ、全員を特別扱いする制度を作っちゃえばいいのに」と思うこともあります。
こういうと、「いつも理想ばっかり」って言われちゃうんですが。笑
人権は優しさや思いやりだけじゃない
多様性と向き合っていく企業・働く人に必要なこととはどんなことでしょうか?
つまり誰もが当事者であるんですよね。
そういった「対話」のきっかけとして、SOGIという新しい言葉をぜひ活用してもらえたら嬉しいですね。
「男の先生ってなんだか保護者に優しく接してもらえるなあ」
「若い女性の先生に対して、たまに厳しい保護者がいるなあ」
と感じることがあったのですが、女性の働きにくさやその構造を全く理解していませんでした。
そんな自分のSOGIを通じて、世の中の構造に触れていったら、「自分は男性で、もしかしたら女性の足を踏んできたのかも」と気付かされたんです。
でも、それって勉強するチャンスがないので、そう気づけてラッキーだったかもしれません。
そのためにも、個人の問題だけではなく、社会構造や制度を疑ってみることも大事だなと。
「私もあなたを傷つけないから、あなたも私を傷つけないで」と。
それを統治するのは優しさや思いやりではなく、社会構造や制度だったりもします。
「あれ、お前ら仲悪かったんじゃないの?」って。笑
そういった多様性とか人権って思いやりだけじゃなく、「構造」も重要なキーワード。
法律で認められているかどうかも大切な問題です。
自分が豊かになることも大切だけど、隣の人が豊かなら、それもまた自分の豊かさにつながっていくのではないでしょうか。
鈴木茂義さん(写真左):公立小学校非常勤講師。自治体の相談員。専門は特別支援教育、教育相談、教育カウンセリングなど。14年間の正規小学校教諭として勤務を経て現職|鈴木さんの詳しい情報、研修・講演のご依頼はこちら
荻野佳織さん(写真右):LGBT当事者であることをオープンにした上でパーソルチャレンジ株式会社で勤務する傍ら、社内のアライ活動にも参画している|パーソルグループのセクシャルマイノリティの取り組みはこちら
【引用】
- 本コンテンツは、特定の治療法や投稿者の見解を推奨したり、完全性、正確性、有効性、合目的性等について保証するものではなく、その内容から発生するあらゆる問題についても責任を負うものではありません。
- 本記事は2020年8月12日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。