【第28話:あなたに言われたくない】〜お父さんうつ日記〜
この4コマは、大学で授業を受けていた時のお話。父がうつ病になって割とすぐの時期でした。
私が取っていたその授業では精神障害者本人だけでなく、その家族についても扱っていました。
家族会についてのページに差し掛かった時、教授が精神障害者の家族の状況についてお話しし始めました。
初めは「ふむふむ」と聞いていたんですが、自分でもびっくりしました。
自分でも気づかないうちに涙が出てきてたんです。
目の端から液体が流れてくるのを感じて慌ててハンカチで押さえました。
この時はどうしていいか分からなくて、友だちに心配されたくなくて、耳を塞いで寝たふりをしました。
結局授業が終わった後、しばらくひとりで泣き続けることになりました。
「どうしてこんなことが起こったのか」
今はなんとなく分かるようになりました。
あの授業を受けていた時期、私は私の置かれた状況についてきちんと消化できていませんでした。
ただ「私にはうつ病のお父さんがいる」という認識だけがあって、だから「辛い」とか「苦しい」とか、その状況を形容する言葉を得ていなかった時期だったんです。
そんな時に、患者家族の客観的な説明を外部から与えられたらどうなるでしょうか。
それまで何も考えてなかったところに、「患者家族はすごく大変」とか「とても苦労する」とか言われたものだから、私はとても混乱しました。
状況が呑み込めず、教授の言葉を体の奥から跳ね返すように涙を流して抵抗したんだと思います。
何も考えていなかったというか、多分考えないようにしていたところに、他の人からあっさり「辛い」「苦しい」とかいう形容詞を与えられてしまったことで、「あれ、私って辛い状況にいるんだ」とハッとさせられてしまったり、「いやいやそんなことないもん」と認めたくない気持ちになったりしました。
兎に角、見たくない現実を不本意に教えられてしまった気になって、それで「あなたに言われたくない」という言葉が頭に浮かんだのでした。
実は、その授業を担当していた教授も家族に精神疾患の方がいて、その体験を基にお話しをしてくださっていたんです。
それでも家族によって事情は違うし、その状況についての消化の度合いも違うしで、授業をただ聞いていただけの学生が涙してしまうくらいですから、きっと「じゃぁ家族同士で話し合いましょう」「辛さを分かち合いましょう」とか言っても難しいことも多いんじゃないかなぁと思いました。
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【執筆】
シブ子
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- 本記事は2017年7月8日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。