【臨床心理士解説】毒親育ちの生きづらさ…5つの例と克服するためのはじめの一歩

2021.09.18公開 2021.10.24更新

1989年にアメリカのスーザン・フォワードの著書『Toxic Parents』(『毒になる親』)で初めて使われた「毒親」という概念。

 

いわゆる「毒親育ち」だった人の中には、完璧主義や他人が気になって仕方がなかったり、自信が持てなかったり、大人になってからも生きづらさを感じる人も少なくありません。

 

そこで今回は、いわゆる「毒親育ち」がゆえの生きづらさに焦点をあて、具体的な例や克服するための最初に意識・実践してみてほしいことを心理学の視点から臨床心理士がご紹介します。

 

「毒親」は医学的用語ではなく、あくまで一般的な呼称(概念)です。

 

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「毒親育ち」5つの生きづらさ

親との間に安定した愛着を築くことが難しかった人(いわゆる「毒親育ち」)は、大人になってからも以下のような生きづらさを感じることが多いです。

①完璧主義で身動きがとれなくなってしまう

②息抜きや楽しむことが苦手

③他人のことばかりが気になってしまう

④本当の自分が分からない、自信が持てない

⑤人との距離感が掴めない

しかし、「毒親に育てられたから幸せになれるはずがない」「親が変わらなければ自分も変われない」などということは決してありません。

 

まずは、それらの言葉で自分を傷つけることをやめることから始めてみませんか。

 

どのような親の子であろうと、あなたの人生はあなたのものであり、未来は自分で決めることができます。

 

毒親という言葉を「毒親に育てられてダメな私になった」という人生の着地点としてではなく、そのような親に育てられた自分を理解し、あなたらしい人生を歩んでいくための”出発点”として使ってほしいと思います(斎藤, 2015)。

 

それが生きづらさを緩めていくはじめの一歩になると思います。

 

①完璧主義で身動きがとれなくなってしまう方へ

思うようにできない自分が許せなかったり、完璧にできないことや失敗、批判を恐れるあまり身動きがとれず苦しくなってしまうのは、

物事を極端に捉えてしまう傾向がある

からかもしれません。

 

そういう考え方の癖を、白黒思考と呼んだりします。

 

白黒思考の癖があると、曖昧な状況を受け入れるのが難しく、例えば、

「ミスが一つでもあれば失敗」

「食事の準備ができないなんて母親失格」

などと、100点以外の状況を全て0点だと考えてしまいやすいです。

 

その生きづらさを軽くしていくには、0点と100点以外の点数や、白と黒以外のグレーの部分を見つけて認めてあげるようにしてみましょう。

 

例えば、失敗だ失格だと思ってしまった時に少し立ち止まって、本当にそうかな?何かできたことはない?と考えてみてください。

「一つミスがあったけどそれ以外はできていた」

「食事の準備はできなかったけど掃除はできた」

「今日はできなかったけどできる日もある」

こんな風に気付けたら素晴らしいです。

 

②息抜きや楽しむことが苦手な方へ

上手く休んだり心から楽しむのが難しいのは、常に警戒心が高かったり、

”休んでいていいのか、楽しんでいていいのか”

罪悪感がわいてくるからかもしれません。

幼い頃から親の顔色を窺わなければならなかったり

 

「あれをしなさいこれをしなさい」と言われて自分のやりたいことをする自由のなかったり

そういった経験から、いつの間にか休むことや楽しむこと自体が苦手になってしまったのかもしれませんね。

 

その生きづらさを軽くしていくには、まずは自分が安心できる場所を見つけることから始めてみましょう。

 

安心できる場所は、あなたがホッとできる場所、ゆったりと寛げる場所ならどこでも構いません。

 

自分の家、お気に入りのカフェや公園、車の中、図書館など、どこでも良いので安心できる場所を見つけたり、無ければ作ってみましょう。

 

疲れた時や落ち込んだ時には、まずは安心できる場所で過ごすことから始めると良いですよ。

 

③他人のことばかりが気になってしまう方へ

相手に嫌われたのではないか、

 

仕事のできない人だとがっかりされたのではないか、

などと心配が絶えなかったり、

あの人と違って私なんて…

と、人と比べて苦しくなってしまうのは、自分のことを”これで良い”と認めるのが難しいからかもしれません。

 

その生きづらさを軽くしていくには、自分に優しくすることから始めてみましょう。

 

他人のことばかり考えてしまう時は、今の自分の状態を確認してみてください。

 

疲れていませんか?

眠くありませんか?

どこか痛いところはありませんか?

お腹は減っていませんか?

 

他人のことで頭が一杯な時は、あなたの心や身体が頑張りすぎてしまっている時かもしれませんね。

 

他人のことから自分のことに少しずつ意識を移して、まずは自分を労る気持ちで身体の調子を整えることから始めてみましょう。

 

④本当の自分が分からない、自信が持てない方へ

人の意見をくみ取ることは得意で人の気持ちはよく分かるのに、自分のことになると途端に分からなくなってしまうのは、そのままの自分に自信を持てていないからかもしれません。

 

その生きづらさを軽くしていくには、自分の気持ちを確かめることから始めてみましょう。

 

最初は、

好き/嫌い

したい/したくない

といった気持ちを確かめていくと良いですよ。

 

小さなことでも構わないので、私はこれが好きだなぁ(嫌いだな)、私はこれがしたいなぁ(したくないな)という気持ちに注目してみてくださいね。

 

自分の気持ちに注目するように心がけることで、だんだんと自分の気持ちがくっきりと感じられるようになってきます。

 

できそうなら、実際に好きなものに触れたり、嫌いなものを避けたり、したいことをしたり、したくないことをしないようにすると、自分にとって心地よい過ごし方をしやすくなりますよ。

 

⑤人との距離感が掴めない方へ

なかなか人に心を開けず孤独感を感じたり、

 

反対に”裏切られるのではないか”などの気持ちから距離を詰めすぎたり、

激しい束縛をしたり、

そうしてしまうのは、見捨てられ不安が強いからかもしれません。

 

その生きづらさを軽くしていくためには、

「事実」と「考え」「気持ち」を分けて考える

ことから始めてみましょう。

 

例えば、友達からラインがなかなか返ってこず不安になってしまった時、このように分けて考えることができます。

事実:友達から30分間ラインが返ってこない

 

考え:私は嫌われてしまったのではないか

 

気持ち:不安、寂しさ、苛立ち

こうして分けて考えることで、実際に起こっているのは友達から30分間ラインが返ってこないということのみであり、友達に嫌われたというのは事実ではなく自分の考えに過ぎないということが意識しやすくなります。

 

このように整理する癖がついてくると、不安な気持ちに振り回されにくくなっていきます。

 

初めは分けて考えることが難しいかもしれませんが、練習するとだんだんとできるようになっていきますよ。

※いずれの生きづらさについても(またここに書かれていない生きづらさでも)、信頼できる人や心理士などに相談したりカウンセリングを受けたりしながら、生きづらさやその背景を整理したり、どうしていけば良いか一緒に考えていくのも良い方法です。

 

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【参考・引用文献リスト】

水島広子(2018). 「毒親」の正体―精神科医の診察室から― 新潮社

斎藤学(2015). 「毒親」の子どもたちへ メタモル出版

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山崎日菜乃

臨床心理士/公認心理師

心理系大学院在学中よりカウンセリング、フリースクールや児童養護施設の訪問、心理検査業務などを経験。夢だった中学教諭としての就職が決まるもうつ病を発症し断念。大学院修了後、うつ病治療に取り組みつつ臨床心理士と公認心理師の資格を取得。うつ病経験者の心理士としてお役に立てることを模索中

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  • 本記事は2021年9月18日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。