〈ほっといい場所ひだまり〉引きこもり、心の悩みに寄り添う居場所作りを通じて
目次
ひきこもりなど、心の悩みを抱えている人に
そして2017年より、ひきこもりなど、こころの悩みや問題を抱えている人のための居場所として、「ほっといい場所 ひだまり」の運営を始めました。
「ひだまり」では、利用者の皆さんが、気軽に相談に来れるスペースとして運営しています。
「うちの子がひきこもっていて、医療機関になかなか繋がれない」
「病院でデイケアを勧められたけれども、本人としては『デイケアは自分の行く場所じゃない』などと言って、結局どこにも行けずにいる」
「バイトはするものの、長続きしない」
といった、親御さんからのご相談から利用に繫がるケースもあります。
私が病院勤務だった頃、多くの患者さんと接する中で、心や考え方が楽にならないことには、いくら投薬をしたところで限界があると感じることが増えていきました。
精神科の治療は、投薬と心理療法でセットになって進めていくのですが、病院だと投薬中心になりがちです。
そういった背景から、「ほっといい場所 ひだまり」を立ち上げることになったのが、2017年4月でした。
当時、東京都の若者社会参加応援事業の研究団体として採択されて、現在は東京都の若者社会参加応援事業の登録団体という一面もあります。
東京都の事業としては「引きこもりの居場所」という位置づけになっています。
引きこもりの定義としては「6ヶ月以上社会生活ができない方」といったようなものがある一方で、「ひだまり」に通われてる方々は様々です。
例えば、
・普段はアルバイトしながら、ストレスを軽くする場所として利用されている方
・どこかでアルバイトをする前のトレーニングとして利用されている方
・就労移行支援施設を利用しようかどうか考えている方
・すでに就労移行支援施設に通いながら利用している方
といった、20代、30代、40代を中心に利用していただいています。
内閣府の調査などで、引きこもりは男性の方が多いと言われていることもあり、「ひだまり」でも女性が少ない傾向にあります。ただ、これは課題でもあります。
実際、家事手伝いや主婦といった肩書がある一方で、引きこもりに近い状態の女性の方にとって、自分が「引きこもり」であることを認識しづらい面もあるようです。
そういったことからも、「女性のための居場所作り」といった視点にも力を入れてやっていきたいなと思っています。
ひだまりのプログラムでは、認知行動療法を主に取り入れていて人気も高いです。
認知行動療法のメンタルトレーニングの場合、週1回程度、利用者さんに来てもらいますが、
「誰かと話すのがとても緊張する」
「自分の意見が言えない」
という方もいらっしゃるので、クイズを取り入れるなどして、誰でも参加できるようなアイスブレイクを通じて、リラックスして話せる空気作りを大事にしています。
その他にも、「ワークプログラム」といって、就労や人と接するなど、社会生活を送るために必要なふるまいやコミュニケーションを学ぶプログラムも提供しています。
ひだまりが一番大切にしていること
ひだまりでは利用者さんに、
「今日の私の気分は、1~100のうち、80%ぐらいです」
「今日、調子が悪いのは、昨日嫌なことを言われて〜」
といった振り返りを行ってもらい、自分のことを他の人に伝える時間を設けています。
これは、自分の心を自己コントロールできるようになったり、自分で自分の心の状態を知ることを目指すことを、ひだまりとして一番大切にしているからです。
また、ひだまりには臨床心理士や看護師がいるので、
「前回はこうだったね」
「こういう状態になるとうつっぽくなっちゃうんだね」
といったことをホワイトボードなどを使いながら話し合うので、より自分の状態の理解が深まりやすくなります。
もちろん、他の利用者さんの話も聞けるので、「自分だけが辛い状態じゃない」と思ってもらえる場でもあります。
ひだまりのルールとして、「否定しない」「中傷しない」という前提のもと、自分の感情を吐き出してみたり、何でも言って良いというものがあります。
また、居心地の悪い状態にならないための工夫として、お茶を飲みながら気楽な雰囲気作りも大切にしています。
こちらからお題を出したりもしますが、おしゃべり会みたいな感じでやっています。もちろん無理して話さなくてもOKです。
利用者さん同士で、同じ趣味の話で盛り上がったりして、「ここでは否定されない」「何を話しても良いんだ」ということを感じ取って欲しいなと思っています。
ひだまりのプログラムは、すごく集中しないといけないわけでもないですし、何よりも安心できる場所であり続けたいなと思っています。
以前、ひだまりに通われていた、休職中だった利用者さんの例をご紹介します。
その方は、ひだまりに通い始めた当初、「仕事ができない」と口にすることが多かったのですが、通い始めて3ヶ月ほどで復職をして、今、正社員で頑張っています。
休職中だった会社に正社員として戻るまでの3ヶ月の間、1週間に2回ほどひだまりに来てました。
会社に戻るまでの期間、その方には「自分の取扱説明書」を作ってもらいました。
「こういった時に自分が具合が悪くなる」
「こうなったらこれぐらいの休憩が必要」
「1年間のうち、この辺で不調の波が来る」
「自分の取扱説明書」を通じて、自分の状態を見える化、自己分析することで自分としっかり向き合う時間を過ごしてもらったんです。
こういった取り組みを通じて、「無理をしすぎない」ということを学んでもらい、自信を持ってもらって無事復職されていきました。
不登校生の居場所としても
また、ひだまりでは、渋谷区の「こどもテーブル」活動として、不登校、いじめ、なんとなく学校に行きたくないといったお子さんの居場所としても利用してもらっています。
朝起きて、「学校に行きたくないな」と思っているお子さんに対して、受け入れられることを体感してもらえればという思いから、この取り組みを始めました。
ここでは、ひだまりに来てくれたお子さんに対して、「どうして学校に行かないの?」などと責めるように理由を聞くのではなく、言いたいことを言ってもらうということをまずは大事にしています。
ゲームを取り入れたり、絵を描いたりしながら、一緒に時間を過ごしていく中で、
「親が『学校に行きなさい、学校に行きなさい』って言ってて、それが辛い」
「実はいじめられてるけど、親には言えない」
「ここに来れば親が安心すると思って」
といった、誰にも言えなかった本当の気持ちをポロッと言ってくれるようになります。
学校ではなくても、朝起きてどこかに行くという生活リズムを崩さないことは、心の健康を保つ上でも大事と感じています。
ひだまりに通っていた女の子で、お母さんの顔色を常に伺うような方がいました。
その女の子が何かをやろうと思っても、お母さんから「それはあなたに向いてないんじゃないの?」とか言われて、一歩を踏み出せなかったり…。
常にお母さんの顔色を伺うような子でしたが、ひだまりに通いながら、「自分の気持ちを出して良いんだ」と少しずつ意識が変わっていくようになったんですね。
そんな女の子がある日、お母さんに対して「『私は私だから』って言えた」って教えてくれたんです。
「私は私だから」の一言って、口にするまでが大変だったと思うんですが、このことを境に、その子は変わり始めました。
「お母さんはお母さん、私は私」という、親に対するある種の諦めだったり、自分とは別の生き方ということを感じ取った上で、自分の人生を前に進めていこうとする姿はとても印象的でしたね。
そういった利用者さんにとって、ひだまりがいつでも戻って来て良い場所として思ってもらえると嬉しいですね。
この団体の名前を「ほっといい場所 ひだまり」としているので、利用者さんには、ほっとしてもらいたいし、安心感を持って、いつでも来てもらいたい。
そして、自分で自分を知り、心をうまくコントロールできるようになって、次のステップに進む、そんな場所になれたらなと思っています。
月に1度の家族会
家族会ではテーマを決めて毎月行っています。
以前の例ですと、「共依存について考えよう」というテーマで家族会を開催したこともありました。
共依存は、お互いに依存し合う形で、特に引きこもりの場合、多くみられることがあります。
例えば、自分の子供が家に引きこもっていたら、親としては「どうにかしなきゃ」とは思う一方で、その子を見ている自分にほっとすることがあります。
それで、満足して落ち着いてしまうと悪いループに陥ってしまうので、家族会を通じて、そういったループを切ることにも役立ててもらっています。
ポイントは、いかに家族が引きこもりのお子さん以外に目を向けられるかというところにあります。
親のほうが新しい趣味を持ったり、新しいコミュニティで誰かと話してみることで、家庭内の雰囲気が変わることも結構あるんですよね。
お子さんとしても、親が常に自分にかまってばかりで息苦しさを感じていることもあります。
親御さんが新しい趣味に目が向くことで、お子さんも気分が楽になることがきっかけで、引きこもりから卒業される方もいます。
あるお母さんの例ですと、美術鑑賞の趣味を見つけて、お子さんとも一緒に美術館にも行きだすようになってから、子どもの引きこもりが終わったという方もいらっしゃいました。
引きこもりから卒業したお子さんに、「どうして引きこもりを止めて、外に出てみようと思ったの?」って聞いても、「なんとなく」「もういいかなぁと思って」としか言ってくれませんでした。
しかし、色々話を聞いていく中で、家庭内の空気を変えていったのは、お母さんが新しい趣味をみつけたり、友達を見つけて、外の世界に出ていくようになったことが大きかったようでした。
もちろん、家族会に参加したから1日で良くなるというわけではありません。
しかし、同じ悩みを持つ人たちと繋がってみることで、何か家庭内の空気を変えるきっかけになるという意味でも「家族会って大事だなぁ」と感じています。
心に目を向けて生きづらさを和らげる
精神科病院、産業保健師の仕事を経て、私の問題意識として、生きづらさを感じている人たちがずっと生きづらい状態にいるということがあります。
そこで、ひだまりでは、医療制度の中だとうまく対処しきれない人にも、ちゃんとしたケアを提供したいと思っています。
特に、疾患まではいかないけれども…という方に対して、薬物療法を行って、一時的な気持ちを抑えることはできても、どうしても限界を感じています。
たまに、「具合が悪くなったら、薬飲めばなんとかなる」という方がいらっしゃいますが、心の根本から見つめて、辛かった場所から前に進んでいく必要もあるのかなと思っています。
医療機関に通って薬を飲んでいても、どうしても根本の考え方が否定的になってしまったり、家族との関係でどうしても越えられないものがあって悩んでいる人はいます。
先ほどご紹介した女の子のように、お母さんに自分の意志を言えたところから自立が始まったことからも、その人の根本となる、心の問題にも目を向けていかなきゃいけないとは思っています。
だからこそ、ひだまりでは、利用者さんの生活に応じた問題点を見つけて、一歩ずつ解決していくことで、社会に出ていった時に、つまづきにくくなるためにも、活用してもらえればと思っています。
相手を主語にして寄り添っていく
「私がこうしてあげたい」ではなく「その人がどうしたいのか」という視点を一番大事にしています。
ひだまりなどで接する方に対して、その人を主語にして対話をしながら、こちらの意見を押し付けず、その人の想いに寄り添っていくということです。
また、自分が今、思っている考えが100%正解じゃないと思えるための「心の引き出し」をたくさん持てる状態になってもらえたらと思っています。
今ある気持ちが全てじゃないですし、例えば、1人でどうしようもなく落ち込んだ時も、寝て起きたら、また気持ちは変わっているかもしれません。
ひとつの考え方に縛られない考え方を作るためにも、ひだまりではグループワークなどを通じて「こういう人もいるんだな」という気づきを提供していければと思っています。
ご興味があれば、ご自身が引きこもりかどうかに限らず、自分自身の心の健康を保つ意味でも、是非「ひだまり」に来てみてほしいですね。
今後のビジョン、チャレンジという面では、支援に繋がれていない女性の力になれる取り組みを進めていきたいという想いがあります。
20代〜30代の女性の約30%が自殺を考えたことがあるといったデータもあるように、悩んでいたり、生きづらさを感じつつも、声をあげられていない女性は多いと思っています。
そういった方に「ちょっと行ってみたい」と思ってもらえるような通いやすい居場所にもしていきたいですね。
最近では、「女性活躍」といった言葉もよく聞かれますが、そのためにもまずは女性が心の健康を保つことがすごく大切。
自己効力感が下がった状態のままだと、結婚・出産・育児などの大きなライフイベントに対して前向きになれることことさえ難しくなる時もあります。
だからこそ、病院に行かざるを得なくなる前の段階から看護師として関わっていける、そんな仕組みが出来たらと思っています。
人って誰しもアップダウンがあって、落ち込む時も健康の時だってあります。
そんな時に、自分の心の健康を自分自身でも保っていけたら、苦しい時にちょっとでも楽になる可能性が増えるのではないでしょうか?
そういった可能性を増やすために、「ひだまり」でも何かお役に立てることがあれば嬉しいですね。
- 本コンテンツは、特定の治療法や投稿者の見解を推奨したり、完全性、正確性、有効性、合目的性等について保証するものではなく、その内容から発生するあらゆる問題についても責任を負うものではありません。
- 本記事は2018年4月3日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。