中年の危機・ミッドライフクライシスの男性対処法5選を臨床心理士が解説

2019.06.05公開 2019.08.26更新

中年の危機は第二の思春期?

心理学には“ライフサイクル理論”というものがあります。

 

人生には年齢に応じた“課題”が用意されており、その課題を乗り越えることで精神的な成長を迎えられると考えられています。

 

また、その課題を超えられない場合は“拡散状態”になり、コンプレックスや劣等感を感じやすくなります。

 

その結果、意欲が湧いてこないといった精神的な不調にも繋がります。

 

思春期もこれに該当します。思春期は「自分とは何者か?」を探す、アイデンティティ確立の時期にあたります。

 

これまで仲良くしてきた友達、先生、家族に対する欠点を感じるようになり、「自分は何をしたいのか?」というように自己を見つめる時期になります。

 

この作業を通し、

“自分が大切にしている信念”

“価値観”

を形成し「自分らしさ」を獲得していくことができます。

 

その結果、実現したい夢、目標を描くことができるようになるため、次の精神的ステージへ移行することが可能になります。

 

こういったプロセスを一般的に人は“成長”と呼ぶのでしょう。

 

 

人生の課題に向き合えないと…

一方で、この作業は自分自身と正面から対峙する必要があるため、イライラしたり不安になったり、孤独になるといった心理的エネルギーを多く必要とします。

 

このような気持ちと上手く渡り合っていくことができない場合、家出をする、親に対して強く反抗するといった形として表出されることもあります。

 

このような苦痛を伴う作業と正面から向き合うことができず、

「人に任せて自分で決めることを拒否する」

「先延ばしにしてしまう」

といった人もいます。

 

そうすると“自分らしさ”の確立ができず、引きこもりやモラトリアムの延長、ニートになるというような問題行動につながっていきます。

 

このように、各ライフサイクルに用意されている課題を見つめることができるか、そして乗り越えることができるかどうかは、その後の人生に大きな影響を与えることとなるのです。

 

 

中年の危機を迎える男性の3つの特徴

ライフサイクル理論に照らして考えると、中年期の危機は誰にでも訪れるものであると考えられます。

 

しかし、特にその程度が強く現れる方もいらっしゃいます。その要因を紹介します。

 

1.自分自身の父親からの影響

例えば、自身の父親を「無能で弱い存在であった」と認識している場合、

「自分自身もそのようになってしまうのではないか」

と考えやすくなり、中年期のストスが強まりやすくなるということが明らかになっています。(Wiley(1999)Handbook of Counseling and Psychotherapy with Older Adults”)

 

2.転職経験がない

社会の流れの中で、なんとなく就職し、なんとなく働いて過ごして来た…

という場合、ご自身のアイデンティティに向き合い、自分らしさを再構築する機会がないため、アイデンティティが発達しづらいと考えられています。

 

つまり、転職経験がない場合、

・自分自身が人生において達成したいこと

・実現したい夢

・社会における自分の価値

などを考える機会を得づらいのです。

 

一方、転職経験はこのようなアイデンティティの再構築のチャンスを与えてくれます。

そのため、転職経験がない場合、中年期の危機が強くなりやすいと考えられています。

 

(参考:https://www.apa.org/monitor/apr03/researchers

 

3.認知機能の低下

50代半ば〜60代前半にかけ、認知機能の一部が徐々に低下することがわかっています。

 

そういった認知機能の低下を意識することで、自分自身への自信の低下、不安が生じ、中年期の危機にネガティブな影響を与えます。

 

(参考:https://www.apa.org/monitor/apr03/researchers

 

 

中年の危機を男性が対処する5つの方法

1.行動化に注意する

中年期の危機の精神的特徴として、

「将来への不安」

「人生への不満」

「健康状態への不安」

といった不安・不満・いらだちがテーマになるということを説明いたしました。

 

こういった感情が生じた時、適切に対処できないと“行動化”といった現象に繋がりやすくなります。具体的には、

・離婚を考える

・性的に奔放になることで自信を取り戻そうとする

・お金をたくさん使うことで自信を取り戻そうとする

・アルコールに依存する

といった行動です。まずはこういった行動が出てきていないか意識しましょう。

 

このような行動になる前に、負の感情を適切に扱っていく必要があります。

 

2.自分の内面の変化を見つめる

最も重要なことは、

ご自身の内面を見つめること

です。

 

冒頭の思春期のお話でも紹介したように、葛藤や負の感情と見つめ合えない場合、長期的な視点に立った際にご自身のメンタルヘルスや人生に悪影響を与えることとなります。

 

家族や知人、第三者であるカウンセラーなどの力を借りながら、ご自身の内面について振り返る機会を持つことが大切です。

 

3.人にしてあげたこと、してもらったことを振り返る

これは、自信を失っている時に有効なワークです。

あなたはこれまで、人にどんなものを与えることができましたか?

そしてご自身は、人にどんなものをもらって生きてきましたか?

ずっと一人きりで孤独に生きてきた…という方は絶対にいらっしゃいません。

 

必ず誰かに支えられ、そしてご自身も社会に大なり小なり、インパクトを与えてきたはずです。

 

ご自身が社会において何を達成してきたのかをしっかり見つめてみましょう。

 

自信を取り戻し、不安を解消するきっかけがつかめるかもしれません。

 

4.やってみたかったことを整理する

人生の折返しに立ち、これからやってみたいことを考えていく必要があります。

 

でもその前に大切なのは、

自分が「何をしたいと思っている人間なのか」を知ること。

親の意見や、「これが普通」という社会からのプレッシャーを超え、

「本当に実現したい」と思ってきたことは何なのか

などを考えてみましょう。

 

5.人生で達成したいことと真摯に向き合う

さて、これまでの自分を振り返ることで、

残された人生で絶対に達成したいこと

に少しずつ気づくことができましたでしょうか?

 

ライフサイクル理論でもご紹介しましたが、思春期や中年期の課題と出会った時に大切なことは、その課題と向き合い解決することでした。

 

その上で大切なことは、

解決へ至るまでの時間軸は【直線】ではなく【螺旋状】である

ということです。

課題と向き合う

解決するというストレートな問題解決ではなく、向き合う

わからないなあと悩む

しばらくおやすみ(他のこと)をする

また向き合う

というように、螺旋階段を登るように解決していくと考えられています。

 

たまにニュースで見かけますが、定年退職された後や、80代になってから大学院へ進学される方もいらっしゃいますよね。

 

大切なのは、

・自分と真摯に向き合うことをやめないこと

・気づいたことをきちんと行動に移すこと

私達は自分の夢や可能性に気づいた時、いつでも叶えることができるのです。

 

 

さいごに

中年期の危機は、程度の違いこそあれ、どなたにも生じる心理発達プロセスです。

 

思春期や青年期をどう過ごしましたか?反抗期はありましたか?

 

そういった時期に解決せずに残してきた課題が、中年期において再燃することも多いです。

 

今向き合っている悩みだけでなく、俯瞰的な視点を持ち人生を振り返ってみましょう。

 

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【参考】

https://www.myilw.co.jp/publication/myilw/pdf/myilw_no40_feature_2.pdf

https://www.apa.org/monitor/apr03/researchers

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広瀬絵美

臨床心理士

心理学の大学を卒業後、広告会社にて勤務。退職後、心理系大学院修士課程を修了し臨床心理士資格を取得。精神科病院にて従業員のメンタルヘルスケア業務に従事する。また、国立研究所にて職場組織や妊婦さんのメンタルヘルスに関する研究にも携わっている。理想的な「ワークライフバランス」を目指し、研究と実践の両面から支援を行っている。一児の母。

  • 本コンテンツは、特定の治療法や投稿者の見解を推奨したり、完全性、正確性、有効性、合目的性等について保証するものではなく、その内容から発生するあらゆる問題についても責任を負うものではありません。
  • 本記事は2019年6月5日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。