性に悩み、いじめられた18年間。LGBTs当事者の臨床心理士が伝えたいこと

2016.10.19公開 2020.05.07更新

ある性同一性障害の人との出会い

臨床心理士になって、ボランティアやNPOで直接的な支援をする中で、あるLGBT当事者の人に出会いました。

 

その人は性同一性障害で、戸籍上は女性でも男性として社会生活を送ることを望んでいました。

 

けれど、ずっと踏みきれずに40代になってしまい、その40年間ほぼ隠れて生き抜いてきた…という人でした。

 

自分自身が矛盾した中で生きてこられて、ストレスもかなり溜まっていたようで、うつ病や解離性障害などの精神疾患の診断も受けていました。

 

性同一性障害のことも打ち明ける勇気がなく、生き辛そうにしていました。

 

カウンセリングを開始して最終的に男性として生きる決断をするまで、3~4年くらい関わっていました。

 

最初は、自分自身が性同一性障害であるということ自体受け入れられなくて、自分自身が「悪い」と思い込んでしまって、自殺願望が出てくることもありました。

 

「自分自身がこう生まれてきたせいで駄目なんだ」と自分のことを責めてばかりだったんです。

 

周囲の人に伝えたり、色々な公的機関にも足を運ぶ勇気を持つまでも1,2年ぐらいかかっていたそうです。

 

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発達障害の子供やDVを受けた被害女性の話でも共通する部分はあると思いますが、

 

「いじめられる自分が悪い」
「社会に適応できない自分が悪い」

 

などと思ってしまう人が多いように感じます。

 

先ほどの性同一性障害の人は、うつ病や解離性同一性障害などもありましたが、根本には自己肯定感の低さや自信のなさ、自分自身を卑下したり、否定するところだったように思います。

 

その人へのカウンセリングを通じて、「あなたは悪くないよ」とはっきり伝え続けたことが、良い方向に進んだ大きなポイントだったかもしれませんね。

 

弱さやマイノリティ性は誰にもある

LGBTの支援には色々な方法論がありますが、私はその人に対して、自分自身がLGBTの当事者であること、自分もマイノリティであり、弱みもたくさんあることも伝えました。

 

そして、横の目線で相互支援のような形でお互い成長していく視点を通して、その人と触れ合っていきました。

 

そういったやり取りが功を奏してか、少しずつ心を整理して障害を受け止めて、自己受容をされていきました。

 

最終的には、性同一性障害専門の精神科外来に行くこともでき、無事に戸籍も変更されて、元気に生きていらっしゃいます。

 

体調が回復されたことももちろん良かったですが、自分がLGBTであることを言える仲間や場所の存在を意識されるようになったことも良かったことではないかなと思います。

 

誰だって自分自身の弱さやマイノリティ性を受け入れることって確かに難しいことではあります。

 

しかし、例えばLGBTの人って13人に1人くらいの割合と言われていますが、左利きの人と同じくらいの割合なんですよね。

 

そういう基本的な情報を伝えるだけでも、

 

「え、そんなにいるんですか?」
「自分一人じゃ無いんですね」

 

って、少しずつ状況を整理できるようになる人は意外と多いと感じています。

 

「自分はこの世界に一人で、変わり者でおかしいんだ」

 

という考え方ではなく、

 

「一人一人が違って、みんな誰にも言えない秘密があったり、弱さがあったり、マイノリティ性がある」

 

ということが、ある意味当たり前なことだと認識できる人がもっと増えれば良いですよね。

 

それぞれ弱さやマイノリティ性があるからこそ、色んな発想や文化が生まれていきますし、生きる道はたくさんあるとこれからも発信し続けていきたいですね。

 

メンタル不調になるわけない?

そもそも、臨床心理学に魅力を感じたのは個人をすごく大切にしているように感じたからです。

 

「個」のかけがえの無さをいかに読み解くかという点で、個が尊重されていることが自分にとっても嬉しい感覚でした。

 

また、臨床心理士の現場で活動していて、色んな人の背景を知ることが出来たり、「一見普通そうに見えても、そんなことを抱えているんだ」という人たちとの本当にたくさんありました。

 

そういった経験をクライアントさんにも伝えることで、少しでも体調の回復を手助けできたり、その人なりの人生を見つけてくれている人もいるので、それが一番大きな嬉しさですね。

 

自分がメンタル不調になることを想定していない人も多いと思います。

 

「まさか、うつ病になるわけがない」
「まさか、ハラスメントを受けるわけがない」

 

など、「なるわけがない」って思いがちです。

 

ですので、精神疾患や生きづらさを抱えている人を、身近な存在として認めるが第一歩ではないでしょうか。

 

それが、自分自身も精神疾患にかかる可能性を認識しやすくする一面もあると思います。

 

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また、精神疾患の予防としてできることはもちろんあると思いますが、原因は遺伝や環境など複層的ですし、どの予防策も決して万能ではないと思います。

 

どんなに予防しても、すごく神経質に病的にやってしまえば逆効果となることもあります。

 

そういったことからも、「精神疾患にかかった時にどうしたら良いか」といった視点で、きちんとケアできる場所やコミュニティがどんな所にあるのかを知っておくことが大切ではないかなと感じています。

 

あとは、保健センターなどの行政機関がありますが、そこに抵抗があるなら、まず電話やウェブで相談するなどして、まずは孤立しないって言うことが大前提です。

 

専門家ではなく、友達目線の方が言いやすい人であれば、当事者同士が集まる自助グループでの相互支援的なコミュニティも活用できると思います。

 

また、ご家族や周囲の人へのケアって結構置き去りになっているんです。

 

例えば、お子さんが精神疾患や発達障害を持っていたり、不登校になった時に、つい隠したり、検査に行かない親御さんもいらっしゃいます。

 

それでは母子共に孤立してしまうので、そういった人が気軽に繋がれる場所もあるといいですね。

 

あなたと同じような人はきっといる

様々な支援機関があっても行きたくなかったり、孤立してしまう背景として、そのご本人自身の障害に対する偏見があるのではないかと思います。

 

メンタルヘルスの疾患って、当の本人でないと分からない部分も大きいと思いますし、「病気ではない」と思いたい気持ちもあると思うんです。

 

それ自体は、健康でありたいということの裏返しかもしれません。

 

しかし、本当に健康な人って単に病気がない状態ではなく、病気になった時に色んな場所や人と繋がれたり、柔軟に考えられる人だと思うんです。

 

子供も大人もそうですが、まず社会があって、その社会に合わせて生きなければいけないという規範意識が、特に日本人には強いように思います。

 

自分がその社会に当てはまらないとダメなんだ、と思ってしまいがちです。

 

そこから一歩離れて、

 

「自分がダメなのではなくて、自分はたまたま人と違う発想だったり、生き方だったり、価値観を持っているだけなんだ」

 

って思えるような人が増えていくといいなと思っています。

 

そして、あなたと同じような考えや似たような悩みを抱えている人はいるはず。私もそうでした。

 

自分一人だと思わずに、そういう仲間を見つける視野を広げてほしいですね。

 

私は「多様性のある社会」を理想としていますし、現実として、そもそも人は多様な生き物。

 

生きづらくなる人が孤立してダメになってしまう社会ではなく、

 

「そのルールって本当に意味があるものなのかな?」

「その枠組みがかえって生きづらくなる人が出てこないかな?」

 

と、社会を冷静に見ていくことで、柔軟に多様な形で自分らしさを発揮して社会に貢献をできる人が増えていけば良いなと思います。

 

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近藤雄太郎

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  • 本記事は2016年10月19日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。