性同一性障害が精神疾患じゃなくなるって本当?LGBTs当事者の臨床心理士が解説【大賀一樹さん】

2018.06.29公開 2018.11.22更新
 

こんにちは、Xジェンダー当事者かつ、臨床心理士の大賀一樹です。

 

今回取り上げるのは、「性同一性障害」を取り巻く現状です。

 

医学的な疾患名であるため、解釈をあまり交えずに(後半では一部、筆者の考察を書いています)お伝えしたく、やや専門的な文章となりますが、ご理解頂ければ幸いです。

 

【関連まとめ】

>>LGBTとは?割合・カミングアウト対応例・インタビュー【臨床心理士&当事者まとめ】

 

はじめに

本記事の「性同一性障害」というトピックは、セクシュアル・マイノリティの一部である「LGBT(Q)」のうち、「T=トランスジェンダー」に係る部分(※1)です。

 

また、「SOGI(ESC)」概念における、「GI=ジェンダー・アイデンティティ」に係る部分となります。

 

トランスジェンダーやジェンダー・アイデンティティについての説明は、前回の記事をご覧ください。

 

※1 厳密には「Q=クィア」にも関わりますが、日本の法制度が男女二元制のため、本記事では割愛します。

 

 

性同一性障害は“精神疾患”ではなくなった

2018年6月18日付の、WHO(世界保健機関)の公表したICD-11(国際疾病分類第11版)では、性同一性障害が「精神疾患」から外れ、「Conditions related to sexual health(厚生労働省による仮訳では「性保健健康関連の病態」)」という分類項目に入る予定であることが明らかになりました。

 

また、診断名自体も変更される予定で、「Gender Incongruence」となる見込みであり、「性別不合」との仮訳を厚生労働省は示しています。

 

 

そもそも性同一性障害の定義とは?

性同一性障害という疾患名は、ICD-10(国際疾病分類第10版)とDSM-Ⅳ-TR(精神障害の診断と統計マニュアル第4版改訂版)に入っていた名称であり、医学的な診断をする際の名称とされています。

 

日本では、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」の施行により、「性同一性障害」の定義が以下のように示されています。

「生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別(以下「他の性別」という。)であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であって、そのことについてその診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づき行う診断が一致しているものをいう。」

 

— 性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律、第二条より引用

この法律の施行により、日本では一定の要件を満たすことができれば、出生時に割り当てられた戸籍上の性別とは反対の性別に変更することが出来ます(※2)。

 

※2 日本では「男女二元制」を採用しているため、「男」「女」以外の性別に変更することは、現時点で出来ません。

 

 

現行の法律要件の問題点について

「性同一性障害」の診断を受けたトランスジェンダーの人々は、比較的多くの人が「社会的性別(※3)」を自分の心地よいものとするために性別移行(Gender transition)を望むとされています。

 

そのため、先述した法律は、それを後押しするべく、当事者の本来のジェンダー・アイデンティティに基づく「法的性別(※4)」を獲得するための仕組みとして考案されたのです。

 

しかし、同法律の中で、「法的性別」の変更要件として、「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」を義務づけているのですが、これが「強制不妊」に該当するとされ、「人権」の観点から様々に議論されています。

 

つまり、「社会で生きる上で望む、あるいは周囲から認識されたいジェンダー・アイデンティティ/性表現がある」ということと、「生物学的・解剖学的・身体的な外科手術を望むか」ということは、区別されなければならない、ということです。

 

「旧優生保護法」(1948~96年)のもと、知的障がいなどの診断を受けた人たちに「不妊手術」が強制されていたことが最近問題となり、明らかとされています。

 

同法律においても、トランスジェンダー当事者が社会的性別を変更する際に、事実上の「強制不妊」があるため、「不妊手術を望まない」という選択をすることができません。

 

しかし、時代の変化に伴い、ヨーロッパのいくつかの地域では、「不妊手術」をせずとも社会的性別を変更することが可能となっています。

 

ヨーロッパの手術要件の参考(Trans Rights Europe Map & Index 2017:英語)

https://tgeu.org/trans-rights-map-2017/

 

日本においても、トランスジェンダー当事者の多様な状態に対し、「外科手術」や「不妊手術」を伴わない在り方を模索する時期に入っていくべきではないかと考えます。

 

※3 社会的に周囲から認識される性別および、自身がQOL(生活の質)を高めるために必要な性別のこと

※4 法律や身分証明書等によって割り当てられた性別のこと

 

 

性同一性障害のこれから~性別不合と性別違和~

冒頭で触れたICDとDSMの最新版では、「性同一性障害」は、「性別不合」や「性別違和」という名称に切り替わっています。

 

DSMは、ICDより一足早く、2013年に「性同一性障害」を「性別違和(Gender dysphoria)」という(分類上の)診断名に変更しました。

 

世界的な「脱病理化」の流れの中、「障害」という言葉の持つ重みや、『「性同一性」自体が障害であるかのような印象を持たせる』というような批判を受け、「性別違和」という症状に対しての診断名となったとされます。

 

さらに特筆すべきは、診断基準に際し、「望むジェンダーあるいは/本来のジェンダー」だと感じるものを「女」や「男」に限定していないことです。

 

自分が社会的に生きる上で望むジェンダー・アイデンティティが、「男」「女」ではないこともあるということが、十分に想定された結果がここに反映されているのではないか、と考えます。

 

また、DSMより5年遅れた今年、公表される予定のICD-11でも、「性別不合」という分類名への変更と同時に、分類項目が「精神および行動の障害」から「性保健健康関連の病態」へ再定義されたことは、「性同一性障害」と「精神的な病理」に因果関係を想起させる状況を断ち切る上で、非常に役立つ決断であっただろうと考えます。

 

 

名称変更による弊害はあるか

もちろん、全てがいいことだけだとは残念ながら言えそうにもありません。

 

マスメディア等では、現在までに、「性同一性障害」や「LGBT」という言葉や概念が比較的頻繁に使われてきました。

 

また「LGBT」に関しては広辞苑に登録され話題になっています。

 

このような言葉や概念が、セクシュアル・マイノリティを可視化する上で、重要な戦略の一つを担ってきたことは、安易に軽視することはできないでしょう(もちろん、言うまでもなく言葉や概念だけが先回りすることで、主体である当事者がイメージだけで消費されてしまうという弊害が起きているということも知っておく必要がありますが)。

 

ちなみに、主観ですが、DSM-5で「性別違和」が打ち出されて以降は、「性別違和」という言葉が普及し始めていますが、変わらず「性同一性障害」という言葉も根強く残っており、比較的並行して続いているような感覚を見受けます。

 

また、言葉や概念の連続性や一貫性は、自分自身がセクシュアル・マイノリティだという気づきを得たばかりの当事者の「アクセシビリティ」にも重要な役目を担っていると考えます。

 

例えばクローゼットな当事者たちが、安全に交流するためのグループやコミュニティを探す際、このような普及された言葉を使用し検索などをするかもしれません。

 

そのため、大きなコミュニティや支援グループなどの名称変更などについては、今後慎重に議論されるべきことであろうと考えています。

 

 

さいごに

思えば、「同性愛」も同じようにDSMやICDによって、90年代前半までは「精神疾患」として分類されてきた経緯があります。

 

しかし現在は、いかなる場合においても「同性愛」は疾患としてみなされるべきではないということがWHO等によって明らかとされています。

 

このように、あるマイノリティとされる特性や行動などが「異常」であると結論付ける時、そこには「自然科学的な客観性」だけではなく、その時点の社会におけるマジョリティとされる側の恣意性が内包されているのかもしれないという内省的な考えも、持ち合わせておくべきかもしれません。

 

仮に、脱病理化をしたとしても、残る「偏見」や「差別」といったイシューは続くからです。

 

臨床心理士として、当事者として、一人の人間として、これからも「自分事」として捉えていきたいなと感じています。

 

【関連まとめ】

>>LGBTとは?割合・カミングアウト対応例・インタビュー【臨床心理士&当事者まとめ】

 

【参考URL】

(厚生労働省プレスリリース)http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000211217.html

(ICD-11)https://icd.who.int/

(WPATH)https://wpath.org/

(GID学会)http://www.gid-soc.org/

(日本精神神経学会)https://www.jspn.or.jp/

大賀一樹

臨床心理士

1988年、島根県生まれ。幼い頃から自身の性別に違和感を覚え、大学2年時に「Xジェンダー」という言葉を知り、自らのセクシュアリティを認識する。ジェンダー/セクシュアリティの多様性やクィア・スタディーズをベースに臨床やカウンセリングを実践。臨床心理士として、東京都教育委員会公立学校スクールカウンセラーとして従事するかたわら、早稲田大学スチューデントダイバーシティセンター専門職員や、NPO法人の理事も務める。

大賀さんのインタビュー記事はこちら

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