LGBTに対する企業の取り組みとは?LGBT当事者の臨床心理士がご紹介!

2016.11.05公開 2019.05.15更新

皆さんの職場や地域には、LGBTの当事者の方はいますか?まだまだ「いる」と仰られる方は少ないかもしれません。

 

日本では、東京都の渋谷区が「同性パートナーシップ証明書」発行の取り組みを始めたことを受け、国内の企業でもLGBTが働きやすい職場づくりの機運が高まってきました。

 

ですが、なぜ今、「LGBT」なのか?そういう疑問を持つ方もいらっしゃると思います。

 

そこで今回は、LGBTと企業の関係性について3つのポイントから、臨床心理士に解説をしてもらいました。

 

【関連まとめ】

>>LGBTとは?割合・カミングアウト対応例・インタビュー【臨床心理士&当事者まとめ】

 

なぜ今、LGBTなのか?

世界的に、LGBTへの向き合い方が過渡期を迎えています。

 

90年代初頭まではどこか、「性的」「私的」「嗜好的」「異常」というキーワードが蔓延していたLGBTですが、現在は

 

 

「人権」「多様性」「尊重」「先進的」

 

などのキーワードと共に語られることが多くなりました。

 

アメリカでは、連邦最高裁判所が同性婚を全州で合法であると認め、同性婚を設置していない州を「違憲」であると判決を下し、各界の著名人が続々とカミングアウトを始めました。

 

その中には、日本でも人気のあるオリンピック水泳選手のイアンソープさん、皆さんも使っているiPhoneを制作する米アップル社CEOのティムクックさんなどもいました。

 

米アップル社のティムクックさんの公式なカミングアウト後も、株価は下がることはなかったため、時代の流れが明らかに変わってきていることを示す結果となりました。

 

そのような時代の流れを受け、企業はCSR(社会的責任)のもと、「はたらく人」としてのLGBT、「購入・消費する人」としてのLGBTを確実にキャッチできるような取り組みを始め出したと考えられます。

 

 

「はたらく人」としてのLGBT

LGBTが働きやすい環境、つまりダイバーシティ(多様性)のある環境づくりは、どのような人々にとっても、有効かつ魅力的です。

 

また、優秀な人材を確保するという観点からも、近年の企業における重要な課題となっています。

 

実際に企業が、LGBTに「フレンドリー」であるという戦略を立てることで、あらゆる効果を生み出すことにも成功しています。

 

例えば、LGBTに配慮ができるということは、女性の活用を含めた「ジェンダー」の課題にきちんと向き合っている企業であることを示し、「性同一性障害」などの「障害」にも向き合っているということも示すことになります。

 

他の多様なマイノリティー属性を持っていても、働きやすそうだという先進的なイメージを獲得することになり、結果として企業価値を高めることにつながっていくのです(※1)。

 

日本では2016年現在、173社がLGBTへの基本対応をしているという調査結果もあります(※2)。

 

 

「購入・消費する人」としてのLGBT

2015年4月の調査では、LGBTの消費・サービス市場が、5.94兆円であることが発表されました(※1)。その規模は、百貨店の年間総売り上げに匹敵します。

 

「買う人」という視点では、現在は新たな消費トレンドが生まれています。

 

近年の研究調査では、LGBT当人の消費のみならず、LGBTを中心にその周辺のストレート層にも広がる新たな消費傾向に注目し、「レインボー消費」と位置付けているものがあったのでご紹介します。

 

 

3つのレインボー消費

レインボー消費とは、具体的には3つ挙げられます。(※1)

 

①   LGBT当事者の消費

②   LGBTを応援する消費(ストレート層含む)

③   LGBTが社会に受容されることによる新しい人間関係消費(同性パートナーシップ制度にも関連)

 

1つ目は、LGBT当事者の消費パワーである5.9兆円市場です。

 

2つ目の「LGBT応援消費」とは、LGBTフレンドリーな企業や取り組みを応援する消費傾向のことです。

 

調査では、当事者以外のストレート層においても、52.7%の人がLGBTフレンドリーな企業の商品・サービスを積極的に利用したいと答えています。

 

実際に、LGBT支援を宣言したキャンペーン期間中に、来店数と売り上げが両方伸長するという成果を上げた企業事例も見られています。

 

商品やサービスを考える時に「対象をLGBT当事者だけに限定しない」ことも重要です。

 

例えば、ゲイの人専用につくられた商品がある場合、それを購入すること自体がカミングアウトになってしまいます。

 

LGBTの人を特別視するのではなく、LGBTの人たちと一緒に生きやすい社会をつくるという「インクルージョン」(包括)の視点を持つことが重要です。

 

3つ目の「新しい人間関係消費」とは、例えば、同性婚などが受容されて、新しい家族のかたちが増えると生まれる消費のことです。

 

結婚式や2人で一つの家や車を買うようになったり、子供をもって養育費にお金を使うようになったり、家族旅行に出かけるようになったりなどが挙げられます。

 

 

「特異」を「得意」に

今、世界は多様な個性(属性・価値観)の活用や対応をスタンダードとするダイバーシティ社会へとシフトしています。

 

トレンドは多様性に向かっており、多様性に富んでいる都市や企業が人を集めています。

 

LGBTには、ダイバーシティに関する全ての要素が詰まっているといわれています。ジェンダー、性同一性「障害」、文化の違い、人権、差別、エンターテインメント…などです。

 

2020年に向けて、「ダイバーシティ」は「環境」と並び立つ課題になっていきますが、LGBTはその舵取りを担っていくかもしれません。

 

個人的な話ですが、私自身はLGBTだけではなく、他のマイノリティ性(宗教や障がい傾向)を抱えています。

 

様々なマイノリティ性を、多くの人が持っていますが、それを共有しそれぞれの価値を認め合うこと、それがダイバーシティだと考えます。

 

その中でも「セクシュアリティー」というテーマは、みんなが持っているものなので、自分ゴト化しやすいテーマの一つであり、多様性理解の大きな入口になっているのかもしれません。

 

みんながそれぞれの「特異」な部分を「得意」に変えられる

 

そんな社会に変わっていくキッカケになればいいと感じています。

 

【関連まとめ】

>>LGBTとは?割合・カミングアウト対応例・インタビュー【臨床心理士&当事者まとめ】

 

※1 電通ダイバーシティ・ラボ「LGBT調査2015」を参考。

※2 CSR東洋経済ブログ「2016年版 LGBTへの対応・基本方針「あり」173社を紹介します」を参考。

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大賀一樹

臨床心理士

1988年、島根県生まれ。幼い頃から自身の性別に違和感を覚え、大学2年時に「Xジェンダー」という言葉を知り、自らのセクシュアリティを認識する。ジェンダー/セクシュアリティの多様性やクィア・スタディーズをベースに臨床やカウンセリングを実践。臨床心理士として、東京都教育委員会公立学校スクールカウンセラーとして従事するかたわら、早稲田大学スチューデントダイバーシティセンター専門職員や、NPO法人の理事も務める。

大賀さんのインタビュー記事はこちら

  • 本コンテンツは、特定の治療法や投稿者の見解を推奨したり、完全性、正確性、有効性、合目的性等について保証するものではなく、その内容から発生するあらゆる問題についても責任を負うものではありません。
  • 本記事は2016年11月5日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。