
MRを経て臨床心理士に。カウンセリングが気軽な存在になるために
実際のカウンセリングの様子
カウンセリングではどのようなことを聞くのですか?
―不調になった背景や、そのときに自分がどう考えていたのかということを中心にお話を聞くことが多いですね。
自分にはどんな特徴があると思うか、ということを一緒に考えていきます。
そうすることで、また同じような状況になったときに再発しないよう、改善点を見つけることができるのです。
例えば、仕事を抱え込みすぎないようにする、この段階でヘルプを出そう、とか。
再発防止に関するアドバイスもするのですね。
―ヘルプの出し方にしても、誰に・どのように伝えるかという点も確認します。
あとは、カウンセリングを通して、どういうサインが出たら自分は不調なのかといった自分の特徴に気づいていくようにします。
基本的には仕事の悩みがメインですか?
―仕事関係の悩みが多いですが、家族の話とかプライベートな悩みも割と多いです。
その方が抱えている問題を可能な限り解決できるようカウンセリングを心がけています。
三瓶さんは、心に病を抱えられた方の復職支援をされていますが、病を抱える前に心がけた方が良いことは何ですか?
―一番は、生活の基本的な部分を大切にすることだと思います。
・しっかりと睡眠をとる
・3度の食事を規則的にとる
・適度に身体を動かす
といった基本的な活動こそが予防につながると考えます。
基本的な部分を大切にすることで回復される方はたくさんいますから、やっぱり外せない部分だと感じています。
病気になってしまった場合に、生活の部分以外で何か気を付けることはありますか?
―まずは、自分で何とかしようとせずに、きちんとお医者さんに相談して治療を受けることです。
その上で、焦らないで、精神面やサポートを整理していくことですね。
もちろん、カウンセリングも是非使っていただきたいと思います。
また、再発防止や予防の観点で私が最近思うのは、「自分の感覚に目を向ける」ことが重要なのではないかということです。
「自分の感覚」とは?
―心がつらくなってしまう背景って、その人それぞれですよね。
でも、一概には言えませんが、大体共通するのが、みんなどこかで何かを我慢してしまっているということ。
我慢しているときって、何か胸がざわざわしていたり、意識の中で本当はこんなのイヤだと思っていたりしますよね。
そういう自分の感覚、変化を敏感にキャッチして、処理していくことが、病気にならないため、または病気を改善するために大事だなと思っています。
具体的にはどのようなことですか?
―最近、推奨されているマインドフルネスにもつながりますが、時間が自動的に流れていく中で、自分に意識を向ける時間を持つことです。
何でも良いんですよ。ものを見る、臭いをかぐ、食べ物を食べる…。
そして、自分の感覚を感じることで、「これは好き」「私はこれが嫌いなんだ」ということにちゃんと気づくことができますよね。
三瓶さんが「五感を大切にする」とお考えになるきっかけは何でしたか?
―私自身、マインドフルネスや自律訓練法を使って、身体の感覚に意識を向けることでストレスコントロールがしやすくなったからです。
自分にとって何が心地よくて何が居心地悪いのか、何が大切で、何が必要ないのか。
そういうところに重きをおくようになってからとても楽に過ごせるようになりました。
ご自身の体験から、なんですね!
―教科書に載っているような理論は世の中にたくさんありますが、自分で実際に体験してみたこともとても重要だと考えています。
教科書的なところと自分の体感、この2つが合わさって、やっと私も何かを伝えられるようになったかな、と思っています。
「防波堤」としての周囲の役割
病気になってしまったとき、周りの家族や友人にできることはありますか?
―基本的には普段と変わらず接して、加えて自分はあなたの支えになるということを伝えるのは大切です。
ただ、家族や友人など身近な人が病気になってしまうと、すごく心配ですし、何とか良くしてあげようといろいろと声をかけてしまいがち。
それももちろん大事なことですが、あまり自分が何とかしてあげよう、というような姿勢にならないようにするのがいいと思います。
周りの人は防波堤のように、何かあったときには受け止めるよ、支えるよ、というスタンスでいてあげるのが大事だと思います。
あまり、あれこれしすぎない方が良いのですね。
―病気が治る、治らないというのは、確かに環境も大事ですが、根本的にはその方とお医者さんで治していくもの。
周りの方がいろいろと手を出しても、そう簡単に病気は治りません。
そうなると、「こんなにしてあげたのに、どうしてまだ治らないの?」と周りの方がつらくなってしまうこともありますからね。
お医者さんにお任せする意識が大切ということですね。
―お医者さんは、その道のプロですから。
お医者さんには治療を任せる、周りの人は何かあったときにきちんと支える、それぞれの役割を大切にするのが良いと思います。
お医者さんとの関係が上手くいかなくなったときはどうすれば良いのでしょう?
―そういうときこそ、周りの人に頼りましょう。
「お医者さんとあんまり上手くいってないんだよね…」と相談することができたら、周りの人が動いてくれるかもしれません。
よく話し合って、どうしても上手くいかないときは、お医者さんを変えるというのも選択肢の一つかもしれません。
相談に来てくれた人の笑顔
三瓶さんがこれまで臨床心理士をされてきて、嬉しかった瞬間ってどんなときですか?
―相談者さんが、帰るときに笑顔になっているのを見ただけでとても嬉しい気持ちになります。
また、同僚や一緒に仕事をする仲間とコミュニケーションをとって行く中で、
「今、この人はきっとこういう風に感じていて、こんなことに困っているんだろうな」
と何となく分かるようになり、サポートすることで喜んでもらえたときは本当に嬉しいです。それは家族の関係にも役立っているんですよ。
子どもや夫と関わるときも、まずは気持ちを見て、相手が喜ぶようなサポートをしています。
素敵ですね!
―10年くらい臨床心理士をやっていることもあり、どうしても人の心に焦点を当てて物事を捉えてしまうんです。
そのおかげで相手に喜んでもらえたときは、たくさん勉強してきて良かった、と思います。
三瓶さんがお仕事を通じて実現したいことについてお聞かせください。
―短期的に言うと、カウンセリングやメンタルのサポートを受けることが、トレーニングジムに通うような感覚になれば良いなと思っています。
メンタルサポートを受けることがもっとオープンになって、
「今日はどこ行ってるの?」
「私はあそこでカウンセリング受けてるよ、あなたは?」
というように、カウンセリングが気軽な存在になれば良いな、と。
それって、すごく良い社会ですね!
―カウンセリングを受けることが普通になって、メンタルで相談できる人が身近にいて。
日常的にそういうサポートが近くにあることは予防効果にもなりますし、すでに疾患にかかっている方もそうでない方もメンタルサポートを受けるのは普通なんだよ、という世の中になって欲しいなと思っているんです。
実際、今の社会はそうなってはいませんか?
―どこに相談しに行ったらわからない、というのが現状ですね。
私も、みんなが入りやすいように、予防的な観点でも使えるよ、ということをアピールしたり、受け入れやすいメンタルの側面を取り入れつつ深い部分にも関わっていく…というような活動をしていきたいと考えています。
最後になりますが、臨床心理士として今後も活躍される中で、大切にしたい三瓶さんらしさを教えてください!
―最近すごく胸に刺さった言葉があって。とある研修会に参加したときのことなんですが、
「臨床心理士は誰よりも臨床心理学を自ら実践している人であれ」
と仰ったんです。その言葉にすごく胸が熱くなりました。
私も、誰よりも自分自身の気持ちや心理面の健康に焦点を当てて、自分で実践したことをみなさんにお伝えしたり、一緒に成長していきたい、そう思っているんです。
それが私「らしさ」と言えるのかは分かりませんが、少なくともそういう部分を大切にする臨床心理士であり続けたいと思っています。
- 本コンテンツは、特定の治療法や投稿者の見解を推奨したり、完全性、正確性、有効性、合目的性等について保証するものではなく、その内容から発生するあらゆる問題についても責任を負うものではありません。
- 本記事は2016年12月11日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。