職場適応訓練制度とは?対象・支援内容・費用・申請方法・事例を社会福祉士が解説
精神障害を持つ方にとって、障害者トライアル雇用や精神障害者ステップアップ雇用など、さまざまな就労のためのサポートがありますが、これらは主に各企業に試雇採用として働くための支援制度となります。
ですが、一部の障害者の方にとっては、試雇採用といっても、プレッシャーを感じることもあるかと思います。
そんな方たちにとっては、職業訓練をしっかりとしてくれる制度を利用することの方が大切だと感じるのではないでしょうか?
今回は、そのような方たちをサポートする、「職場適応訓練制度」についてご紹介します。
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職場適応訓練制度の対象
就労したい障害者の方で、自分の能力に応じた職業訓練を受け、いずれは希望する企業に雇用してもらいたいと思っている方。
職場適応訓練制度の支援内容
実際の職場で障害者に、その企業で行う仕事の訓練を行いながら、職場に適応することをサポートし、訓練終了後にも引き続き雇用を継続してもらうよう支える制度です。
職場適応訓練を行う余裕があるなどの基準を満たした企業に、県が委託をしています。
障害者の職場訓練は主に6ヶ月で、訓練を受けている間は「訓練生」として、1日3,900円程度の訓練手当が支給されます。
また、訓練生を受け入れている企業側にも、月に24,000円が支給されるしくみとなっているため、訓練生と企業側ともにお互いを理解しながら訓練をし、指導をしようという意識がより芽生えます。
職場適応訓練制度の費用
訓練生である障害者は、訓練手当が支給されます。
基本手当は、日額3,900円程度ですが、居住する地域によって、この額が若干変動します。
また、訓練生が20歳未満の場合は、数百円ほど低くなります。
職場適応訓練制度の申請方法、利用方法
職場適応訓練制度を管轄しているのは、ハローワークになります。
このサービスを受けたい障害者の方は、まずはハローワークの窓口に相談し、求職登録を行ってください。
その後、ハローワークから受講指示を受けた障害者の方がサービス利用の対象者となることができます。
職場適応訓練制度の該当する事例
【Aさん10代男性】社交不安障害
Aさんは、高校卒業後に大学に進学したものの、元来おとなしい性格でした。
新入生歓迎会で友人にAさんの態度や行動を「お前、女みたいにへなへなしている」「見ていて気持ち悪い」などと何回もからかわれ、人と関わることが怖くなり、大学を休みがちになってしまいました。
それでも両親に迷惑をかけてはいけないと、無理をして登校する日もありましたが、他人が自分を馬鹿にしているように見られている気がして、恐怖感を感じ、自宅に逃げ帰る日が何回も続きました。
家族以外とは接することをほとんどしなくなり、引きこもるようになったAさんは大学を中退。その後も人の視線が怖い、外に出ると吐き気がするなどの症状を訴えていました。
心配した両親は、ある精神科病院に相談。なるべく外出したくないAさんの事情を配慮して、訪問診療を提案されました。
その旨をAさんに話すと、「外に出なくて良いのなら」と同意。月に2回の訪問診療が始まりました。
主治医と時には医療スタッフが同行し、Aさんの支援目標を「人目を気にせず、外に少しでも出ることができるようになること。」と設定し、じっくりと彼の話を聞いたり、気分の良い日はスタッフと散歩に出かけたりをするようになりました。
そのうち、家族とも外出ができるようになり、1人でも買い物に行けるようになってきました。
半年が過ぎた頃、Aさんは「少しでも仕事をしてみたい。だけど、いきなり職場に入るのは不安。仕事の訓練をさせてくれたうえで働けるような場所があるといいんだけど」と口にするようになりました。
そこで、主治医と専門スタッフは職場適応訓練制度の利用を提案。共に、ハローワークに行き申し込み申請をしてくれました。
人の視線が苦手なAさんは、清掃や食品加工の仕事をしたいとの希望も出していました。その後、清掃の仕事が見つかり、実際の職場で職業訓練を受けることになりました。
真面目なAさんは、しっかりと指導の元で訓練を受け、日額3500円程度の訓練費ももらえるため、自分の身の回りのものを購入することもできるようになりました。
Aさんは、少しずつ自信を取り戻しながら、訓練終了に向けて努力する毎日です。
【Bさん50代女性】気分変調性障害
Bさんは、障害年金をもらいながら通院治療を受け生活しています。40代頃までは小さな工務店の事務として働いていました。
ですが、当時結婚を考えていた相手に突然別れを告げられ、精神的ショックが強く何も手につかず、無気力な状態となり、仕事を退職。
精神科病院を受診するようになり、薬物療法とカウンセリングを続けてきましたが、再就職するまでの意欲がなかなか沸かず、障害年金を申請し、預貯金と障害年金で生活を維持してきました。
長年、仕事から離れていたため復帰の自信がないBさんでしたが、ハローワークのホームページで求職情報などを時々眺めていました。
その折、障害者適応訓練制度のサービスを見つけ、これなら自分にもできそうだと主治医に相談。
主治医も、職業訓練によって仕事へのブランクの引け目を埋め、自信をつけることは良い事だとアドバイスされ、Bさんはハローワークへ行き、サービスの申し込みを行いました。
やがて、簡単な事務作業の募集をしている企業が見つかり、Bさんは訓練に入りました。
Bさんが事務をしていた時代とは仕様が異なる点がありましたが、少しずつ感覚も戻り、新しい技能も身に着けつつあります。
職場適応訓練制度の注意事項
職場適応訓練制度を利用できるのは、精神障害者に限らず、身体障害者や知的障害者、母子家庭の母親や45歳以上の中高齢者も含まれます。
また、基本的に訓練期間は6ヶ月ですが、重度心身障害者の方は、1年以内とされています。
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- 本記事は2017年2月8日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。