【臨床心理士解説】愛着障害とは?5つの特徴って?分かりやすく解説
(質問)愛着障害とはどのような状態のことを指すものですか?色々なサイトで情報収集しているのですが、いまいちピンとこず…。素人でも分かりやすく教えてほしいです。
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愛着障害とは?
愛着障害とは、英語ではAttachment Disorderと表現されます。
医学的な分類によると、Attachment Disorderは厳密にはReactive Attachment Disorder(RAD)とDisinhibited Social Engagement Disorder(DSED)があり、どちらも5歳以前に発症するとされています。
医学的な観点からは、愛着障害は5歳までに発症する障害ですが、心理学的な観点では、
幼少期に養育者(身の回りのお世話をしてくれる人)とアタッチメントがうまく形成されなかったことによって生じる様々な困った症状の総称
であり、心理学の場合には症状名や診断的な意味ではありません。
基本的には、
安全が脅かされる体験などのためにアタッチメント対象を得られていない(養育者とアタッチメントがうまく形成されなかった)状態
と言えます。
子どもの頃に愛着障害の症状があったけれども、それに気づかない、あるいは改善されないまま大人になった場合に、大人の愛着障害と呼ばれることもあるようです。
近年では「大人の愛着障害」で悩んでいらっしゃる方も少なくありません。
愛着はどう育まれる?
この「愛着:Attachment(アタッチメント)」とは、生後間もない乳幼児期の頃に作られる、主たる養育者(多くは母親、場合によっては父親や祖父母など)との情緒的な深いつながり・絆のことです。
私たち人間は、大変未成熟な状態で生まれるため、生命を維持するためには養育者の存在は欠かせません。
特に生まれて間もないころには言葉は話せませんから、お腹がすいた、眠い、おむつが汚れた、など自分の不快な気持ちを「泣く」ことで訴えます。
それに養育者が気づき、「どうしたの?」などと声をかけ、スキンシップをし、不快な感情を取り除いてあげることで、子どもは満たされる、というようなやり取りを繰り返していきます。
養育者へ甘えてすり寄る、怖いときや寂しいときにしがみつく、守ってもらう、抱きしめてもらう、褒めてもらう…
このような過程で、子どもは、
「この人(養育者)は愛情をもって自分を守ってくれる存在だ」
という信頼や安心感といった情緒的な深いつながり・絆(アタッチメント)を形成していくのです。
愛着の形成ができない場合…
しかし、アタッチメントを形成する時期に頻繁な養育者の交代、虐待などがあった場合には、アタッチメント(愛着)の形成が難しくなるリスクが生じると考えられています。
また、そのようなことがなかったとしても、養育者と子どもの特性との相性がうまくかみ合っていない場合にもリスクが生じる場合があります。
アタッチメントの形成が自分の中にうまく確立できなかった場合には、その後の生活に影響が生じてきて、自尊心や自己肯定感が低くなりやすかったり、人付き合いのなかでうまくい・あるいは親しくなることが難しくなってしまったりすることがあります。
なぜなら、信頼し安心できる存在が傍にいなかったために、そのような存在を獲得することが未達成となってしまっており、
①本来出来るはずだった思い切り甘えたりのびのびと過ごしたりすることが十分にできなかった
②不安や悲しみなどネガティブな感情から守られてこなかった
③あるいは、むしろ緊張感や恐怖感、不安などの中で生活し生き延びてきた
④兄弟間で極端に比較をされたり、褒められた経験が極端に少ない
などから、特定の誰かとの付き合い方や距離感がわからない、自分に自信が持てないといった状況に陥りやすくなっていくためです。
このように、愛着障害は幼い頃に養育者とアタッチメント(情緒的な結びつき)がうまく形成されなかったことで、その後の生活のなかで人間関係などにトラブルが生じやすくなっている状態なのです。
2つの愛着障害と5つの特徴
医学的な診断名(医学的定義では5歳までに診断されるもの)として、現在は【反応性アタッチメント障害】【脱抑制性対人交流障害】の2つがあります。
【反応性アタッチメント障害】の場合には、他者を警戒する傾向があり、周囲への無関心さがみられます。
そのため、一人で遊んで他の子どもと交流をしなかったり、避けたりといった行動、傷つきやすさ、自己評価の低さなどがみられることがあります。
【脱抑制性対人交流障害】の場合には、反応性アタッチメント障害とは対称的にあまり親しくない人や見知らぬ人にでもべったりとくっつくなど、必要以上に接近する様子がみられます。
そのため、周囲の気を引くような行動、落ち着きのなさなどがみられることがあります。
小児期には、初対面の人など、誰にでも見境なく積極的に近づいて、べったりとくっつく様子が見られることがあります。
愛着障害にみられる状態の特徴として、
①自己肯定感・自己評価が低い
②他者と親密な関係を築きにくい
③人間関係で相手を拒絶あるいはべったりと依存してしまう
④ひどく人の顔色を窺ってしまう
⑤感情のコントロールが苦手
など、他者とのコミュニケーションや感情表現することが難しくなることがでてくることがあります。
※愛着障害では必ずしもこのうちすべてが生じる、あるいは一部当てはまるから愛着障害である、というわけではありません。項目だけではなく、幼少期の生活がどのようであったかも深く関わってきます。
愛着障害5つの特徴の例
それぞれ具体例と一緒にみてみましょう。
①自己肯定感・自己評価が低い
自分で決定したり決断をしなければならないときに、自信がないためになかなか決断が出来なかったり、自分の決断を信じられずに苦労することがあります。
たとえ何か成功したりうまくいったりしたとしても、自分の能力や努力によって達成したというよりも「今回は運が良かった」「たまたまうまくいっただけ」と考えてしまいがちになってしまうのです。
落ち込みやすさや傷つきやすさがあるのもこの影響を受けていると考えられます。
②他者と親密な関係を築きにくい
幼少期にアタッチメントの形成がうまくいっていない場合には、アタッチメントを示す行動(養育者へ甘える、要求に応えてもらう、など)が成功した経験が少ない、あるいはその経験がほとんどないことがあります。
そうすると、対人関係を開始したり応えたりすること自体に困難さを感じられたり、分別なく誰にでも対人関係をつくる一方で、特定の他者に選択的にアタッチメントを形成をすることが困難になったりすることがあります。
③人間関係で相手を拒絶あるいはべったりと依存してしまう
②でお伝えしたことと関わってきます。
他者と親密な関係を築きにくい特徴から、対人関係を始めるときの難しさや、関係がより親密に傾いたときの拒絶してしまう、
相手に見捨てられてしまうのではないかという不安が強く、自分は相手に愛されていることを確かめるために相手を試すような行動をしてしまう
といった場合があります。
④ひどく人の顔色を窺ってしまう
安心できない環境下でアタッチメントの形成がうまくいかなかった方の中には、極度に人の顔色を窺ってしまう場合があります。
「相手は怒っていないだろうか」
「今話しかけても大丈夫だろうか」
「怒らせたら・嫌われたらどうしよう」
など不安がつきまとい、相手の顔色を窺ってしまうのです。
そうして、自分の考えをうまく伝えられない、おどおどした態度となってしまうことも少なくありません。
⑤感情のコントロールが苦手
感情をコントロールすることに困難さがあり、自分の感情をぐっと抑え込む、あるいは反対に怒りが抑えられなくなってしまうことがあります。
考え方も極端に0か100か、アリかナシか、といった考え方に偏って柔軟性に欠けてしまうところがあります。
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【参考】
米澤好史 愛着の視点からの発達支援 -愛着障害支援の立場から- 発達支援学研究第2巻第2号 2022
友田明美 アタッチメント(愛着)障害と脳科学 児童青年精神医学とその近接領域 2018
川本薫, 後藤和史 愛着スタイルと境界性パーソナリティが恋愛依存に与える影響 - 日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第 77回大会
伊福麻希・徳田智代 2006 恋愛依存傾向尺度作成の試み-男女観における恋愛依存傾向の比較- 久留 米大学心理学研究
やさしくわかる!愛着障害 ―理解を深め、支援の基本を押さえる 米沢好史 2018 ほんの森出版
愛着と愛着障害: 理論と証拠にもとづいた理解・臨床・介入のためのガイドブック ビビアン・プライア , ダーニャ・グレイサー
- 本コンテンツは、特定の治療法や投稿者の見解を推奨したり、完全性、正確性、有効性、合目的性等について保証するものではなく、その内容から発生するあらゆる問題についても責任を負うものではありません。
- 本記事は2023年7月2日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。