【臨床心理士解説】心理的ウェルビーイングとは?①自己受容・積極的な他者関係・自律性
人間の豊かな生活を表す概念を示す「ウェルビーイング」。
1946年の世界保健機関憲章草案において、「良好な状態」「いきいきとした状態」を表す言葉として用いられています。
Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
(健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。)
では、心理的に良好な状態とはどのようなことなのでしょうか?
単にポジティブであることやお金をたくさん持っていることが心理的ウェルビーイングにつながるわけでもないようです。
そこで今回は、心理的ウェルビーイングの6つの構成要素のうち、
・自己受容
・積極的な他者関係
・自律性
について、臨床心理士に解説していただきました。
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1.自己受容(self-acceptance)
自己受容とは「自分自身を、好ましい面も好ましくない面も含めて受け入れること」を指します。
このことを踏まえた上で、自己受容が出来ているかどうかを判断するヒントを考えてみましょう。
自分の良いところや良くないところを必要以上に気にしていないか
人は誰しも完璧ではありませんから、それぞれに得意不得意や良いところとそうとは思えないところがあります。
それはとても自然なことです。
一方で、自分の良いところや悪いところばかりに目が行き、それらが必要以上に気になることがあります。
自分の素晴らしい点を人に誇示したり、「これが出来ないからダメだ」と自分へ過度に批判的になったりする場合、その裏には自己受容への難しさがあるのかもしれません。
意外かと思われるのは、自分に対して「素晴らしい」と感じているにも関わらず、それが自己受容に繋がっていないケースがあることです。
自己受容とは、ありのままの自分を「受け入れること」です。
例えば、私たちは目の前にコップがあることを認識するとき、良いも悪いも判断せずに、ただ「ある」と受け止めることが出来ます。
そこには、可不可を評価しない客観性が存在するからです。
自分について必要以上にアピールしようとする気持ちには、
「自分をよく見せたい」
「価値のあるように思われたい」
という意図や、ありのままの自分を受け入れる事への困難さが現れているのだと考えられます。
他人に厳しくなりすぎてはいないか
近年の多くの研究において、自己受容が出来ている人は他者にも受容的な態度を表すことができることが示されています。
その反面、自己受容が出来ていない人は他人にも否定的・批判的になってしまいやすいようです。
それは、自分に対して何らかのネガティブな構えがあることで、同じ構えをもって相手を眺めてしまうからです。
自己受容について考える時は、周囲の人への接し方を振り返ってみるとヒントが掴めるかもしれません。
自分を好きになろうと努力しすぎていないか
「自己受容ができている」とは、単に自分のことを好きな状態ではありません。
自身の良くない面の存在に気が付いていても、そのことと何とか折り合いをつけながら「自分とはこういうものだ」とあたたかく受け止めていることや、受け止めようとする姿勢や過程を指します。
自分を好きになろう、悪い面もポジティブに受け止めよう…と無理をしている部分はありませんか?
もしあるようなら、自身について「こういう欠点があるなぁ」とただありのままを眺めたり、
「欠点もあるけれど、こういう良いところもあるなぁ」
と全体的なイメージについて考えを膨らませることで、自分を受け止めるための土壌が作られていくと思われます。
2.積極的な他者関係(positive relation with others)
次に、他人との信頼関係を築く上での大切になる3つのポイントと実践する際のコツについて考えてみましょう。
打ち解けやすい雰囲気を心がける
誰かと信頼関係を築くには、まずは誰かと接点を持ってお互いのことを知っていく必要があります。
そのきっかけづくりの意味でも、打ち解けやすい雰囲気を心がけると人間関係の輪が広がりやすいものです。
例えば、
・自分から挨拶をして声をかけてみる
・笑顔で応対する
・身だしなみを清潔に整える
…といった具合です。
信頼できるかできないかを安易にラベリングしない
人や人間関係はとても複雑なものですから、誰かについて「信じる/信じない」の一軸だけで捉えるのは難しい場合もあります。
また誰かを安易に信頼することで、無用な傷つきを受ける場合もないとは言いきれません。
その人の人となりが分からないうちや相手の言動に疑問や違和感を感じる時は、自分の素直な気持ちをそのまま受け入れ、成り行きを見守るような心の余裕を持ちたいものですね。
焦って距離を縮めなくても良い
人との信頼関係は一朝一夕で培われるものではありません。
毎日の小さな積み重ねが、その人への「信頼感」として蓄積されていくものだからです。
また時間を共有していく中で、お互いに無理をしなくても過ごせる相手なのかを感じ取ったり、心地よい適度な距離感を見出していくことも大切だと思います。
こうしたことを見つめるためにも、人間関係を構築していく上ではゆっくりと時間をかけていくことが必要です。
3.自律性(autonomy)
周囲に流されたり、周囲の目を気にすること無く、自己決定ができるようになるための3つのポイントについても考えてみましょう。
自分で考えてみるクセをつける
自己決定するためには、目の前にあることについて考え、自分なりの意思や意見を持たなければなりません。
そのための練習として、日常の生活においても自分で考えるクセをつけると良いと思います。
例えば、
・1日の食事のメニューを考える
・恋人とのデートの行き先を決める
・一人旅のプランを練る
…といった具合です。
夕飯のメインはお魚かお肉か、デートでは水族館に行くのか買い物をするのか、そういった身近なことを自分に引き寄せて考えるうちに、自分で思考し決定していく力が培われていくと思います。
自分に対する評価を見直す
人の意見や周囲の目が気になる人の中には、自分の力を過小評価し、「自分には決断できない(しない方が良い)」と思いこんでいる人もいます。
その結果、周囲の意見に迎合することで決定を避けたり、思わしくない結果が出たときの傷つきや責任を回避しようとしてしまいがちです。
そういった人は「自分に対する自分の評価」だけではなく、仕事の成果やテストの成績など具体的・客観的な評価に目を向けてみるのも良いでしょう。
それまで気が付かなかった自分のポジティブな面が見つかれば、自己評価を見直すきっかけになるかもしれません。
自分の素直な気持ちも大切にする練習をする
自分の気持ちも大事にしたいのに、そうするのが難しくてつい周りに合わせてしまう…という方もいるかもしれません。
そういった時は、例えば「迷ったうちの3回に1回は自分の意志を通す」というように簡単なルールを作ったりして、自分のことも優先させる練習をするのも良いでしょう。
自分自身の意思や気持ちに基づき素直に生きている感覚のことを、心理学では「本来感」と呼ぶことがあります。
そして、この本来感が強くあるほど自律性(自己決定できる力や行動を自分で調整する力)も高くなるという研究結果も示されているんですよ。
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【参考】
・「自己受容と他者受容に関する研究―受容測定の検討を中心として―」
- 本コンテンツは、特定の治療法や投稿者の見解を推奨したり、完全性、正確性、有効性、合目的性等について保証するものではなく、その内容から発生するあらゆる問題についても責任を負うものではありません。
- 本記事は2021年6月8日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。