LGBTフレンドリー企業の具体的な取り組みとは?LGBT当事者の臨床心理士が解説

2016.11.15公開 2019.05.15更新

LGBT当事者かつ臨床心理士の大賀一樹です。企業とLGBTの関連性について前回の記事でご紹介しました。

 

そこで今回は、企業でLGBTへの取り組みとして具体的に何が行われるべきなのか、そして実際に行っている内容や企業についてご紹介したいと思います。

 

【関連まとめ】

>>LGBTとは?割合・カミングアウト対応例・インタビュー【臨床心理士&当事者まとめ】

 

ダイバーシティ・LGBT施策

LGBTへの配慮が進む企業では、ダイバーシティ施策やジェンダーについてのチームや委員会を発足させることが多いと言われています。

 

企業内にいる当事者や、あるいは問題意識のある当人が、上長や責任者にこのような枠組みを要望するボトムアップ方式で発足するときもあれば、トップダウンで責任と権威を持つ者から発足を促すようなアプローチがある場合もあります。

 

ボトムアップの場合、企業内で既に問題意識があり、モチベーションも維持されやすいですが、トップダウンの場合は、その企業で当事者が働くことについて、冷静に考える必要がでてくる可能性があります。

 

それは、LGBT施策やダイバーシティ施策を行うこと自体がイメージアップとなると考え、建前上、流行の取り組みとして表面的に行われている場合もあるからです。

 

重要なのは、内情としてパワーバランスやハラスメント、支援などについて、専門的に取り組める人材を確保しているかということや、その成果が人材育成や社内環境の改善として活かされていることです。

 

その為には、このような担当者が統計的調査や当事者へのヒアリング等を通して企画を立案、実行するような枠組みを作る必要があるかもしれません。

 

 

研修を通じて、LGBTに現実感を持たせる

LGBTやダイバーシティ施策を行っている多くの企業では、その根本に研修制度を充実させています。

 

研修ではLGBTの基礎知識から、具体的にどういった場面で困っているのかという実際的なロールプレイまで、様々な試みがなされています。

 

また、研修では社外の当事者団体(NPO・NGO)や専門的・学術的な人物を呼ぶことで、LGBTコミュニティと民間企業の繋がりも充実させるほか、当事者を実際に招くことで、現実感をもたせることにも効果があると言われています。

 

また、外部講師やロールプレイ、社内で実際に起こった事例をタイムリーに検討することなどを通して、研修が何年にも渡って行われるようになった場合でも、会自体の形骸化を最小限に留めることも可能かもしれません。

 

 

福利厚生の公平さ

日本国内では、2016年11月現在、同性間による結婚は認められていません。

 

しかし、自治体レベルではいくつかの区市町村で「同性パートナーシップ」を公的に認める条例が制定されています。

 

これらの条例制定後、企業でも「同性パートナーシップ」を長く続ける者については、「結婚に相当する」として結婚祝い金、配偶者手当などの福利厚生を認める企業が出てきました。

 

福利厚生自体は、企業ごとにその充実度が異なるため、本質的に重要なのは、同性パートナーであっても、ストレートのカップルであっても、「公平に扱っているか」ということです。

 

極端に言えば、福利厚生自体がない企業の場合は、もちろん同性パートナーシップを組むカップルにも、福利厚生がないのは必然ともいえます。

 

福利厚生はあくまで「その会社に入社したこと」自体へのアドバインデージのため、LGBTに限らず、どのような人であっても就職をする段階で、入社希望先の企業の福利厚生については事前に調べておく必要があると言えそうです。

 

 

冗談と、ハラスメント・差別の線引き

LGBTに限らず、差別やハラスメントへの対応は重要な人権課題です。人によって、何を聞かれたくないか、というのは様々です。

 

会話の中で特定の集団を揶揄するような発言や、冗談を言いたくなる時もあるかもしれませんが、それは信頼のおける間柄の中だけで行うなどのTPOや分別をつけることも必要です。

 

また、業務上知り得る必要があるプライベートな情報であっても、質問する場合は「答えたくない質問かもしれませんが、、」というような枕詞を使うなどの配慮を行う必要があるかもしれません。

 

また、ハラスメントや差別的発言をしてしまう人の多くが、「その場を和ませたい」「仲良くなりたい」という思いを本質的に持つ人が多いとも言われています。

 

そのような目的であれば、他者の特性を取り上げるのではなく、極力自己開示や自分自身の成功談・失敗談を通して会話を進める意識を持つと、誰かをむやみに傷つけるリスクも減るかもしれません。

 

 

「PRIDE指標」

日本で初めてとなる、企業のLGBTなどの性的マイノリティ、LGBTに関する取り組みの評価指標「PRIDE指標」が「Work with Pride」という団体により策定されており、53社の日本企業・団体がゴールド賞を受賞していますので、下記にご紹介します(※1)。

 

■ゴールド賞

【運輸】エヌ・ティ・ティ・ロジスコ/全日本空輸/日本航空/日本トランスオーシャン航空

 

【エネルギー】関西電力

 

【金融】ゴールドマン・サックス/J.P.モルガン/ドイツ銀行グループ/日本におけるAIGグループ/野村証券/バンクオブアメリカ・メリルリンチ/みずほフィナンシャルグループ/モルガン・スタンレー/UBSグループ

 

【サービス】アウト・ジャパン/アクセンチュア/EY税理士法人/エクシオジャパン/NTTクラルティ/NTTラーニングシステムズ/エフネス/Diverse/電通/トロワ・クルール/Nijiリクルーティング/パームロイヤル/プラップジャパン/ペンシル/リクルートスタッフィング

 

【情報通信】NTTコミュニケーションズ/NTTドコモ/NTTファシリティーズ/ガイアックス/KDDI/日本IBM/NTT/日本マイクロソフト/楽天

 

【製造】クボタ/ストライプインターナショナル/ソニーグループ/日本たばこ産業/パナソニック/富士通/ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス

 

【法務】アンダーソン・毛利・友常法律事務所/長島・大野・常松法律事務所/外国法共同事業法律事務所リンクレーターズ

 

【保険】アクサ生命保険/住友生命保険/第一生命保険/ライフネット生命保険

 

 

まとめ

LGBT施策、ダイバーシティ施策を通して私たちが学ばなければならないことは、「誰もが働きやすい」環境をつくることだと言えます。

 

それぞれの個性が、能力を最大限発揮できるような社内整備を行うことで、衝突や摩擦は増えるかもしれません。

 

しかし、そのような状況への対処法や対処能力を身に着けることは、「ストレス対処」のスキルとして自分自身の人生の糧となると考えることもできます。

 

臨床心理学の世界では、完璧な人間や、問題のない人間はいないと言われています。

 

そのような人間社会だからこそ、それぞれの不完全な部分や問題な部分を相互に認め合い、時に対処していくことが求められている時代なのかもしれません。

 

【関連まとめ】

>>LGBTとは?割合・カミングアウト対応例・インタビュー【臨床心理士&当事者まとめ】

 

※1 The Huffington Post「LGBTが働きやすい企業は? 国内初の指標、53社が『ゴールド』受賞」を参考

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大賀一樹

臨床心理士

1988年、島根県生まれ。幼い頃から自身の性別に違和感を覚え、大学2年時に「Xジェンダー」という言葉を知り、自らのセクシュアリティを認識する。ジェンダー/セクシュアリティの多様性やクィア・スタディーズをベースに臨床やカウンセリングを実践。臨床心理士として、東京都教育委員会公立学校スクールカウンセラーとして従事するかたわら、早稲田大学スチューデントダイバーシティセンター専門職員や、NPO法人の理事も務める。

大賀さんのインタビュー記事はこちら

  • 本コンテンツは、特定の治療法や投稿者の見解を推奨したり、完全性、正確性、有効性、合目的性等について保証するものではなく、その内容から発生するあらゆる問題についても責任を負うものではありません。
  • 本記事は2016年11月15日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。