死にたい気持ちは消えなくてもいい。うつ経験者が伝えたい12のこと
うつ病を経験したこと、それ自体は人生の中で消せない事実であり、変えられるものでもありません。
では、その経験を受け入れて向き合って生きていくということはどういうことなのでしょうか?
そんなことを考える上で、今回うつ病を発症して10年になる小松亜矢子さんに、これまでの体験や今感じていることをシェアしていただきました。
それではこれから、うつ病と向き合いながら「より良く生きる」ということを一緒に探っていきましょう。
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目次
うつ病と10年の付き合い
私はこれまで約10年の間、うつ病と付き合ってきました。
発症したのは、看護学校を卒業し、新卒で働き始めた22歳のときのこと。
ある日突然、ギリギリで保ち続けていた「何か」が、自分の中で一気に崩れていく感覚がしたのを、今でも覚えています。
・眠れない
・食べられない
・憂鬱で死にたい
そんな状態が、しばらく続きました。
その症状は、良くなったり悪くなったり。仕事もそれに合わせて、働けたり働けなかったり。休職や退職も、何度も繰り返しました。
私なりに、自分の症状やその原因について向き合った今、ようやく少し安定して、人並みの生活ができるようになりました。
「もう万全か」と言われるとまだ自信はないのですが、以前よりはだいぶマシになったと思います。
この約10年の間、たくさんの人の力を借りました。心配や迷惑をかけたことも、数知れません。
家族、同僚、上司、友人たち…私のことを心配してくれた人たちはたくさんいました。
でも、私はうつ病になるまで、そんな人たちがまわりにいたということに気がついていませんでした。
その存在に気づけたことが、唯一、うつ病になってよかったと思えることかもしれません。
彼らに何をお返しできるか。
「まずは私が元気で過ごしていることかな」と思いながら、今は1日1日を大事に過ごすことを心がけています。
今、うつ病と闘っている真っ最中という方はたくさんいると思います。
その人たちの数だけ、家族や友人などまわりにいる方々も悩んでいることでしょう。
うつ病は、社会的に知られるようになった病気であるとはいえ、まだまだ偏見を持っている人もいます。
症状だけでなく、収入面やまわりの人への影響など、さまざまな悩みや問題を乗り越えるのも、そんなに簡単なことではありません。
うつ病に関して、まだまだ社会的に課題が多いのが現実です。
でも、だからと言って、うつ病になってしまった自分の人生を諦める必要はないと思っています。
それまでと同じ生き方をすることは難しいかもしれませんが、やり方を変えたり、ペースを落としたりしながら、その人らしく生きていくことは十分に可能です。
私自身、うつ病になったときは「もう私の人生終わったな」と思いました。
やろうと思っていたこと、目標にしていたことができないのなら、「もう生きていても仕方ない」とさえ考えていました。
あの時から約10年。
そう思いながらも、なんとかここまで生きてきた結果、今はやっと「このままの私でいいのかな」と思えるようになりました。
うつ病と一言で言っても、その原因は人によってさまざま。乗り越えるための方法もそれぞれで違います。
うつ病であったことを公表していると、「私もそうなんです」と話をしてくださる方がいます。
どうやって乗り越えたのか聞いてみると、休めたことが良かったという人もいれば、環境を変えたことが良かったという人も…。
運動をしたら、すっきりしたという人もいますし、カウンセリングが1番良かったという人もいます。
全員に効果のあるような「これだ!」という解決方法がないのが、うつ病の難しさなのかもしれません。
これからの連載を通じて、うつ病と向き合うにあたって、何か参考になることやヒントになるようなことを、私の体験を通してお伝えできればと思っています。
うつ病患者の味方になる3つのゆとり
うつ病を乗り越える方法は人によって違うとはいえ、私の経験やほかの人の話を聞いていると、だいたい3つに集約されるような気がしています。
この3つの「ゆとり」があるかないかで、うつ病との付き合いは変わるのではないでしょうか。
お金のゆとり
うつ病になると、休職や退職という選択をする人が多くいます。
仕事を休んだり辞めたりすれば、収入がなくなるのは当然のこと。
傷病手当金や失業手当があるとはいえ、もらえる期間には限度があるし、金額もそれまでの給料と同じ額をもらえるわけではありません。
「お金がないから、働かなければー」
その焦りが、うつ病の回復を妨げる要因になりえます。私自身も、その焦りから、就職しては悪化して退職する、という繰り返しをしてきました。
お金の心配をせずに休養することができれば、症状の回復に集中できる環境を作りやすいのではないかと思います。
人間関係のゆとり
うつ病はメジャーな病気になったとはいえ、まだまだ理解を得られていない部分も多くあります。
まわりにいる家族や友人、同僚といった人たちが理解してくれるかどうかも、うつ病の人にとっては大きなポイントと言えるでしょう。
病気の理解が得られること、「つらい」という感情を聞いてくれる人がそばにいることは、何より大きな安心につながります。
また、まわりにいる人だけでなく、医師やカウンセラーといった人たちとの関係性も重要です。
うつ病から回復できたのは、信頼できる医師に会えたことや、カウンセラーと話す機会を持てたことと話す人も多くいました。
1人ではなく、まわりにいる人たちの理解と支えが重要なのです。
時間のゆとり
休養するにも、うつ病の原因と向き合うにも、時間が必要です。
うつ病は闘病期間が長い人が多く、社会復帰までには、短い人で数ヶ月、長い人で数年かかることも珍しくはありません。
この時間を確保できるかどうかもポイントだと思っています。
傷病手当金や失業手当をもらえる期間、休職できる期間が限られていると、それだけで焦りを生んでしまいます。
さらに、「早く復帰して欲しい」と家族から言われてしまうと…。
私は以前、「いつになったら治るんだ」と家族に言われたのがとてもつらかった記憶があります。
おそらく、それを言った家族もつらかったのだとは思いますが、かなり衝撃的な一言でした。
本人にとっても家族にとっても、長い目で経過を見られる余裕を持つことが大事なのかな、と思います。
うつ病とうまく付き合ってみる
焦ることは、うつ病から回復するには禁物であるということ。
それは、私が約10年うつ病と向き合ってきて感じたことです。
いろいろな制度やまわりの人の助けも借りながら、できるだけゆとりを持って、病気や自分と向き合う環境づくりをすること。
私自身も、再発しないように心がけなければいけないなと思います。
そもそも、うつ病って治る病気なんでしょうか?
うつ病の再発率は1年以内で40〜50%、一生のうちに再発する確率で見ると、なんと90%とする研究もあるんだそう。(参考:http://www.dr-maedaclinic.jp/da0800.html)
私自身も再発を経験していますし、病院でも「完治」という言葉を聞いたことはありません。うつ病は検査などで客観的に示すことができないので、それは当然のことでしょう。
うつ病を乗り越えて元気に過ごしている人もたくさんいるでしょう。
しかし、それはおそらく再発しないためにいろいろなことを心がけていて、「再発がない状態が続いている」ということなんじゃないかなと思います。
うつ病は「治す」ものではなく、症状の「回復」あるいは「寛解(ある程度症状が治っている、コントロールされている状態)」するものと言ったほうが正しいかもしれません。
「治らない」って言われると、とても絶望的な感じがしてしまいますよね。
でも、病気は治すことが全てではありません。専門家や医療の助けを借りながらでも、「うまく付き合う」ということができればいいのです。
たとえば、薬を飲むこともそのひとつ。自分に合った薬があれば、憂うつさや眠れないなどの症状は緩和することができます。
カウンセリングなどで、自分の心との向き合い方を知ることも、うまく症状をコントロールするきっかけになります。
どんなときに憂うつになってしまうのか、落ち込んでしまうのか、といった自分の傾向をつかむことができれば、できる限り、その状況を避けることもできます。
そうやって、うまくうつ病と付き合えるようになれば、生きることは少し楽になるんじゃないかな、と思います。
私自身、うつ病が再発して落ち込んでいたときに、治すことはあきらめて、うまく付き合おうと思ったら、気持ちが楽になったことがあります。
そう思ったら、無駄に焦ることもなくなって、うつ病の症状そのものも徐々に落ち着いていきました。
結果的に、通院する必要がないくらいには回復することができて、今はそれなりに働きながら暮らすこともできるようになっています。
もし、「早く治さなきゃ」と焦っているのなら、そういう割り切り方、気持ちの持ち方をしてみてもいいのではないでしょうか。
- 本コンテンツは、特定の治療法や投稿者の見解を推奨したり、完全性、正確性、有効性、合目的性等について保証するものではなく、その内容から発生するあらゆる問題についても責任を負うものではありません。
- 本記事は2017年5月7日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。