パワハラの事例と対策のポイントとは?EAPの現場に携わる臨床心理士が解説
増えるパワハラの訴訟
私は職業上、よく裁判の判決などを検索しますが、パワハラに関する訴訟の多さは目立ちます。
気になる方は、裁判所のホームページから判決を検索することが出来るので、一度目を通してみるのも良いかもしれません。
敗訴すれば、お金だけでなく社会的信用も失ってしまいます。
「あの会社はパワハラがあった会社だ」という目で見られるという可能性もあります。
「訴訟リスクの軽減」という観点からも、「労働者を守る」という観点からも、今の企業経営にとってパワハラ対策は欠かせないものになっていると言えます。
パワハラの事例
対策のポイントを説明するためにも、ここで一つ事例を挙げたいと思います。
この事例は筆者が専門書と臨床経験を基に作り上げたフィクションの事例です。
実際の事例とは一切関係がありません。
A株式会社営業部では、毎月、自主目標を決めています。
目標自体は「自主目標」とされていますが、実際は必要な売り上げを機械的に割り振られているだけでした。
Bさんは元々、理工系の大学院を卒業し、A社の技術開発部門を志望して入社しました。
1年目の今年、配属先は営業部でした。
Bさんは吃音があるということもあって人と話すことが苦手でした。
電話でも「聞き取り辛い」と何度も言われてしまう為、電話仕事も苦手です。
しかし、与えられた仕事なので、一生懸命頑張ろうとBさんは思っていました。
日々奮闘しますが、いつも自主目標の半分程度の達成で終わってしまいます。
課長は、毎日Bさんの日報を見ながら怒鳴り散らします。
具体的なアドバイスを与えることなく、聞くに堪えないような誹謗中傷を行うだけです。
次第に、Bさんは怒鳴られるということがプレッシャーになってきます。
「また怒鳴られるかもしれない…。」そう思うと、緊張してしまって営業先でもうまく話せなくなってしまうのです。
上司がいる場所で電話をすると「今の電話の出方は何なんだよ、聞いているこっちがむかつくよ」と言われたりするので、電話に出るのも嫌になってきます。
ある月のはじめの朝礼のことでした。
Bさんはついに自主目標の3分の1も達成できませんでした。
Bさんは朝礼でみんなの前に呼び出され課長からこう言われます。
「今月最下位のB君です。今日は無能大賞として表彰しますので皆さん笑ってあげてください!」。
営業部の社員は、全員ではありませんでしたが、Bさんを笑いました。
その日Bさんは涙が止まらず、早退をして家で一日泣いていました。
次の日の朝、Bさんは仕事を無断欠席してしまいました…。
この事例が本当にあったとして、メディアで報道されたら、皆さんはどんな印象を持つでしょうか。
おそらく、最低な企業イメージになってしまうと思います。
極端な事例ですが、大きな会社であれば、大きな会社であるほど、自分の会社のすべて把握するのは困難になります。
このような事例が自分の働いている会社にもありうると思って調査することが、パワハラ対策の第一歩になります。
問題の所在は個人?組織?
心理職としてEAPに携わる場合は、まずパワハラが起きた背景を考えなくてはなりません。
例えば、先ほどの事例で考えると、課長個人の問題なのか、組織の体制の問題かということを考えるのです。
もし、課長個人の問題であるならば、課長が平社員の時にはパワハラはなかったのでしょうか。
これは、その職場に長い人などに話を聞けば、すぐにわかることだと思います。
もし、課長が平社員の時から、このようなことが日常化していたというのならば、それは組織の体制としてパワハラを行っていたということになります。
このように、会社としてこのような事例に介入する場合、個人に介入するのか、組織に介入するのかということが非常に重要なポイントになります。
ここをはき違えると、第二、第三のBさんが生まれてしまうことになります。
パワハラ対策のポイント【組織編】
例えば、組織の体制として、パワハラを行っていた場合、どんなことが考えられるでしょう。
・売り上げが最低だった社員に対して、叱咤激励し奮起してもらい、営業を伸ばすのが目的だった
・売り上げが落ちると、「ああなるぞ」と他の社員にみせしめることで、売り上げを伸ばしたかった
色々なことが考えられますが、もしその方法で売り上げが上がったとしても、訴訟リスクを考えるとコストパフォーマンスの良い方法ではありません。
このように、組織の体制としてパワハラが行われている場合、「経営陣がその実態を把握しているかどうか」ということが大きなポイントになってきます。
もし、把握していない場合は、自分の所属する部署の部長などを巻き込んで、経営陣に現状を把握してもらうのが対策の最初になります。
組織の体制でパワハラが行われている場合は、多くの人を巻き込み、組織対組織の構図にして解決していくことが必要です。
パワハラ対策のポイント【個人編】
個人の問題として、パワハラが行われていたという場合を考えてみましょう。
一概には言えませんが、その場合は、パーソナリティ障害の可能性も視野に入れながら対応していくことが必要になります。
パーソナリティ障害とは「著しい性格の偏り」と言われています。
性格は千差万別で、そこに良いも悪いも存在しないのですが、その偏りが顕著になると人に迷惑をかけやすかったり、過度に自分が困ってしまったりすることがあったりします。
そのパーソナリティ障害の中に「クラスタB」と言われる分類があります。
これは、自己愛性人格障害、境界性人格障害、演技性人格障害、反社会性人格障害を含んだ分類になります。
クラスタBの特徴として、自分の利害に注意がいってしまい、人の不利益に関しては注意がいかないというものがあります。
本来であれば「Bくんをみんなで笑いましょう」というのは、Bくんの気持ちを考えると出来ないことが多いと思います。
しかしながら、「B君が悲しい思いをする」というB君の不利益に目がいかないと、こういうことも平気で出来しまうのです。
もし、このようなことが考えられる状態であれば、EAPカウンセラーなどを利用して、加害者側もカウンセリングを利用してもらうというのが効果的に働く場合があります。
さいごに
以上、パワハラ問題の対策ポイントについて述べました。
最も重要なことは、組織に介入するのか、個人に介入するのかという焦点を明確にしておくことです。
ここがぼやけてしまうと、いくら対策を取ったとしても効果がしっかりと出ません。
また、今回はざっくりと解説しましたが、基本的にはEAPコンサルタントなどの専門家を巻き込んで対策することが望まれます。
リスクも対策の困難さもあるパワハラ問題なので、専門のコンサルタントをつけないと、的確な対策を施すのが難しいという面があります。
色々述べてきましたが、あなたの会社は大丈夫でしょうか。
繰り返しになりますが、「自分の会社にパワハラは本当にないのか?」と疑うところからパワハラ対策は始まります。
働き方改革特集記事一覧
【第2回】【事例】働き盛りのうつを防ぐ…社員をうつにしないためには?
【第3回】ストレスと病気の関係、ストレスコーピングの3つの方法
【第7回】安全配慮義務とメンタルヘルス「4つのケア」の関係とは?
【第8回】EAPの役割とは?休職者を減らす事例を挙げて臨床心理士が解説
- 本コンテンツは、特定の治療法や投稿者の見解を推奨したり、完全性、正確性、有効性、合目的性等について保証するものではなく、その内容から発生するあらゆる問題についても責任を負うものではありません。
- 本記事は2017年2月23日に公開されました。現在の状況とは異なる可能性があることをご了承ください。